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第30話 喫茶店アルバイター夏野

 喫茶店のマスターに拾われて七日が経った。


 異世界生活にもまぁまぁ慣れた俺はレイさんと共に日雇いのバイトに勤しみつつ、休日は人手が欲しいとのことでマスターの手伝いをしていた。


 いまや喫茶店アルバイトは俺のライフワークに欠かせないものとなっている。


「お客様、お待たせ致しました。片桐夏野スペシャル『ブルータスオマエモカ』でございます」


「普通のカフェモカだろうが。勝手に変な名前つけんな」


 俺はカウンター席に座るお客さんにコーヒー(もちろんマスターが淹れたとびきり美味しいヤツ)を提供していたら、マスターにお盆で頭を叩かれてしまった。


 ちょっとカッコつけたかっただけである。ふざけて申し訳ないが、マスターが経営するここはとてもオサレな店なので、そういった雰囲気に酔いしれたかったのだ。


 決して裏切りによって舐めさせられる辛酸のような味わいではない。マスターのコーヒーには温かみがある。


「休日はやっぱ普段より多めにお客さんが来るんですね。やっぱり、マスターのコーヒーと料理が美味しいからッスかね?」


「まぁ、それもあるが……ここは割と特別な場所でな。肩身の狭いヤツらが集まるんだよ。あいつらは居場所があまりなくてな……」


「へぇ~? 肩身の狭いヤツら……」


 オーダーを取りに行く時以外、俺はテーブル席から下げたカップや皿などの食器洗いをするようになっていた。その場から俺は顔をひょっこり覗かさせて彼らの姿を見遣る。


「(確かに……普通の人とは違う雰囲気がするな。なんというか、闇の住人? って感じのオーラが漂っているんだよな。ていうか、人間だけじゃなくて人語を話すモンスターまでチラホラいるし……)」


 接客をする最中、俺はお客さんの容姿や格好を見て不思議に思うことがいくつかあった。


 浅黒の肌をしたエルフや図体のデカい獣人、ペストマスクのような仮面で顔を覆っている怪し気なローブの男、魔女じみた格好のお姉さんなどなど、個性豊かであまり見ないタイプの人達が揃っている。


 客層は何だか怖い雰囲気の人達が多かった。だが、彼らはただただ喫食を楽しんでいるだけで無害なものである。


 如何にも乱暴そうな見た目の者でも、ここでは借りてきた猫のように大人しい。


「まぁ、もともと荒っぽいヤツらだが、いまは大人しいもんだ。心配せずともお前みたいなヤツには危害を加えたりしねぇよ」


「知ってる人達なんですか?」


「まぁな、あいつらは元魔王軍の手下だ。顔見知りのヤツも多い」


 魔王軍……そうか、異世界ならそんな存在も有りか。


 だけど、マスターの口振りと彼ら自身のあの様子からして魔王軍とやらは改心でもしたのだろうか。それに、マスターがなぜ彼らのことをよく知っているのか気になるところだ。


「荒事なんでもござれな連中だったからな。他の場所では嫌がられるんだ。だが、俺は客は選ばねぇよ。迷惑かけねぇ限り、ここにいても構わねぇさ」


 そう言いながらマスターはコーヒーミルを使って豆を挽いていた。

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