第28話 明日から
「というわけで俺はこの世界に無理やり送られたってわけなのサ」
俺はレイさんに転移の経緯を語り終えた。
レイさんは俺の話を聞き終えると、酸っぱそうな顔を浮かべていた。
「おいおい……こんなんただのイジメじゃねぇか。鬼畜な連中だな。不憫すぎてお前には同情するぜ」
「そうなんだよな。で、あの扉に入ったらすぐに気絶しちゃって目が覚めたら何処かもわからない場所で焦ったよ。役に立つものなんてほとんど何も持ってなかったし、マスターに会うまでしばらくホームレス生活だったんだぜ? そのおかげで、ゴミ箱の中があったかいことを知ったよ……」
涙なしには語れない苦労ばかりである。
「路地裏生活も長かったから残飯をめぐって毎日が野良猫と野鳥との熾烈な格闘だったんだぜ。顔を引っ掻かれたり、頭をついばまれたり大変だったなぁ……」
「お、おう……それは災難だったな。で? あれから女神や天使どもとは会ってないのか? まさか放置? 放置なのか? たまに様子見に来るとは言ってたけど、その感じだと一度もねぇんじゃ?」
「…………」
「夏野、さてはお前の存在忘れられてんじゃねぇの?」
「あいつらメチャクチャ適当だから有り得るな。それが怖い」
そもそも俺のことよりもすき焼きを優先したヤツらなのだ。期待する方が間違っているというもの。
「まぁ、長話になって悪いなレイさん。こんな酷い目に遭ってるけど、なんとか異世界でやっていくから大丈夫だよ。いざとなったら雑草食ってでも生きてやるし」
「お前はウマか」
「お馬さんになれるもんならなりてぇよ。俺、馬刺し好きだし。それに明日の我が身を心配するこんな状況なら尚更なんだぜ」
記念すべきリアル草食系男子の爆誕である。
「なんか、いろいろ話してたら本当に眠くなってきたな。レイさん、そろそろランプの灯りを消すよ」
「おうよ。いいぜ。ゆっくり休みな」
レイさんの許諾を得て、俺はテーブルに置かれていたランプに手を伸ばし、ロウソクの火を吹き消した。
そうして、部屋一帯が暗くなる。
「…………」
静まり返った空間で、俺は改めて自分を振り返ることにした。
あの時、セツナと呼ばれた女神が口にした言葉。
あいつは俺よりも先に異世界へと行ったヤツがいて、そいつと出会わなければならないと確かに言った。
女神がわざわざ俺を選んだ理由……何かあるはずだ。
死んだ人間からランダムに選んで送りつけたわけではないだろう。
必ず、何かあるに違いない。
「…………」
あれこれと思考を巡らしている内に、俺は眠りに入っていた。
明日からも頑張ろう、とひとまずは心に念じておいて、俺はこれからの生活が健やかであることを願った。




