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第2話 夏野、幽霊と出喰わす

 とりあえず食いぶちを探すまで二階にある喫茶店のオンボロ空き部屋が新たなホームとなる。


「わぁ、なんて素敵な汚部屋!」


 蜘蛛の巣が天井に張り付き、窓ガラスは割れ、埃まみれ、おまけに物が雑多で人が住める環境とは言えなかった。これはただの物置きである。


「しゃーない。マスターから掃除用具借りてくるか」


 俺は一階にいるマスターから掃除用具一式を借りて、すぐに取りかかった。


 割れた窓ガラスは新聞紙を貼り付けて補強し、いらないものは隅にかためておいた。隅から隅まで綺麗にし終えた俺はクローゼットから毛布を引き出してソファに寝転がった。ベッドはないがこれで充分である。


 夜も更け、今日はもう疲れたので寝ることにしよう。

 

 明日からどうにか仕事を見つけて、この世界で生きていく手段を手にしなければ……。


 そう思い、瞼を閉じて数分。やたら部屋中で軋む音が鳴り、そのうえボソボソと囁くような女性の声が聞こえるのだった。


『呪ってやる……呪ってやるぅ……』


 そういえば事故物件だったなぁ、と朧げに思った俺はソファから上体を上げると、ポケットに残されていたハーモニカを取り出した。


「やれやれ、世話のかかる同居人様だぜ」


 お化けは怖いけど、俺の華麗なる旋律を耳にすれば心が浄化され、思い残すことなく成仏できるだろう。


 スチャ、とハーモニカを鼻に当てて深く息を吸う。俺は心が思うがままに音色を奏でた。部屋中に響き渡る「ファ~」という外れた音程。選曲はドヴォルザー◯の『新世界より』。


 俺の旋律を聴いた者たちは涙を流し、時には収まらぬ嗚咽に吐瀉物を撒き散らし、あまりの感動に頭を抱えて振り乱していた者もいた。時には嫉妬のあまり血涙を流し「やめろぉ!」と懇願する者さえいたほどだ。


 時代が違えば名のある奏者となっていたことだろう。


『グギギギ……』


 爪を立てて地面を引っ掻くような音がした。どうやらお化けは滅浄に抗い苦しんでいるようだった。姿は見えないがドタンバタン、と激しくのたうち回り、時には「オエエ」と喉を鳴らしていた。


「(……そろそろフィニッシュだ!)」


 俺は音程を高くした。曲の最後を華麗に決め、ハーモニカを鼻から離す。俺の脳内は拍手喝采のオーディエンスに満ち溢れていた。


 瞼を開き、物音がする方へと視線を向ける。


 すると白い霞かがった人形がふらふらと宙を漂い、窓から出ていこうとしていた。あれは恐らく霊体というものだろう。やれやれ、手間がかかったものだがどうにか除霊が完了したらしい。


 霊体は俺の真横を通り過ぎる際、何やら親の仇を見つけた時のような、そんな怨嗟に満ちた顔を浮かべながら『死ね!』と口汚なく吐き捨て、窓から飛び立っていくのだった。


「ふふ、照れ隠しか……良いことした後は気分がいいな。寝よ」


 これで心置きなく枕を高くして眠れるというものだ。


 俺は満足して再び睡眠に入るのだった。

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