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第17話 夏野に語るマスターの純粋な頼み

「くっそぉお!! 私が受けたこの仕打ち! 謝ってもゆるしてやんないんだから! あんた達のこと絶対に忘れてやんないんだからね!! ばーか! このばーか! アホタレ!」


 凛はベソをかきながら俺達に散々罵詈雑言をなげかけると、荷物を抱えて何処かに走り去って行くのだった。


 丹波凛、同じ異世界転移者。何とも騒がしい女の子であった。


「何だったんだ? あいつは……」


 俺は走り去っていく凛を棒立ちのまま見送っていた。


「さぁな、それにしても嵐のように騒がしいヤツだったな」


 幽霊さんも同じく呆れた風であった。


「すまなかったな、お前達。あいつはああいうヤツでな」


 俺達が話し合っていると、今まで騒ぎを静観していたマスターがこちらに来て、ねぎらいの言葉をかけてくれた。


「まったく、あいつはいったい何なんですかね? いきなり因縁ふっかけてくるわ、暴言ばっか吐くし、勝手に泣き出すし……こまったもんですよ」


 俺がマスターにそう言うと、彼は俺の肩に手を置き、そして言い聞かせるように大事なことを告げるのだ。


「夏野、お前の気持ちはわかるがな、あいつには優しくしてやってくれないか?」


「ええ~? どうしてですか?」


 俺が不満げに聞き返すとマスターは先を続けた。


「凛はさみしいヤツなんだよ。あいつも異世界から来たヤツだから家族や知り合いなんて誰ひとりいなかった。いや……そもそも、あいつはそういうものから……」


「あいつは?」


 何か含みがある言い方に俺は疑問をいだいた。


「いや、まぁ今はそれはいいとしてだ」


「はあ……」


 マスターは凛のことを眼にかけているのだろう。


 マスターにしか伝えていない己の事情とかもあるに違いない。彼女が異世界に来た理由なども含め、大人として信用できる彼にだけ話していることがあるのだ。


「お前、あいつと同じ転移者だろ? 凛にとって数少ない仲間みたいなもんだ」


「…………」


「だからな、あいつのことちゃんと見てやって、できることなら話とかもたくさんしてやってくれ。間違えても突っぱねたり、ひどいことは言ったりするな。あいつは不器用なヤツだからな。人一倍傷つきやすいんだよ」


 マスターは俺にしてくれたように余所者である凛に居場所を与えたのだろう。だから、こうして時折だが喫茶店に訪れ、マスターに会いに来る。


「……まぁ、マスターが言うなら仕方ないですね。あいつと仲良くできるかどうかわかんないですけど、できるだけやってみますよ」


「ああ、頼んだぞ。よろしくな」


 マスターは俺の頭をぐしゃぐしゃに撫で回すと、店の中に消えていった。


「丹波凛ねぇ……ほんと、変なヤツだったな」


 俺はこの時、マスターが言った言葉がどれほど大事なことなのかをいつか知ることになるのだ。


 凛がこの世界に執着する理由と、元の世界を嫌う理由。


 それが大きな問題となるのだ。

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