第16話 丹波凛(15)ギャン泣きする
「くそぉ……こうなったら私が相手よ!」
パチモントレーナーの丹波凛自体が勝負をしかけてきた!
「なんでそうなる?」
俺はこの打楽器女の奇行に呆れる他なかった。
凛は何処からから取り出した木刀を手にバトルフィールドに入り込もうとしていた。
「この木刀はね! 私が中学の時の修学旅行先で買ったものよ! スイカ割りにも使ったくらいなんだから! これであんたンとこのパチモンの脳天もカチ割ってやるわ!」
「いるよなー、ああいう旅行の時にテンション上がって必要ないもの買ってしまうヤツ。なぁ、夏野?」
「そうそう、テーマパークの売店で売ってる耳飾りとかのグッズとかもさ、家に帰ったら『やっぱいらなかったな』ってなるんだよな。ああいうのって結局は邪魔になるんだよな」
俺は幽霊さんとあるある話で盛り上がる。
「うぉりゃああああーー!! 覚悟ぉーー!!」
打楽器女こと丹波凛は猿叫を発し、木刀を大きく真上に掲げて幽霊さんに迫った。
「うぉおおお! って、どわぁあああ!!」
凛が駆け出したその時、彼女は足がもつれてしまったのか何もない場所で盛大にこけていた。
「おい、見ろよ夏野。あいつ何もないところでひとりで勝手にずっこけやがったぞ」
「見るからな運動神経悪そうだもんなあの子。咄嗟の受け身も取れてねぇし」
見事なほどに顔面からのダイブである。ちなみに我々は何も彼女に危害は加えていない。勝手に凛がひとりでずっこけたのだ。
「う、うう……」
凛はしばらくその場でうずくまっていた。泣いているのだろうか、彼女の肩が震えている。
「おーい、打楽器女。大丈夫かー?」
俺は心配になって遠くから凛を呼びかけた。
幽霊さんは既に俺のもとに戻り、当たり前のように肩口に乗っかっていた。
「…………よ、くもぉ……!」
凛がようやく身を起こす。
彼女はボロボロに泣いていた。情けなく眉が八の字を刻み、これでもかってくらいの大粒の涙が両眼から溢れて出ている。
「うわぁああん!! マスター!! こいつら私のことイジメたぁーー!! いじめた! いじめた!!」
恥知らずにもギャン泣きである。
凛は俺達を指差しながら喫茶店の入口前で葉巻をふかしていたマスターに訴えていた。その様はまるで小さな子供である。
「お、おおう……そ、そうだな……」
「あの旦那が動揺してんぞ」
「ていうか、まだいたのかマスター」
俺と幽霊さんは凛の指摘でようやくマスターがいたことに気付いた。優しいマスターのことだ。たぶん、凛のことを心配していたのだろう。
「夏野ぉ! このクソボケェーー!! あんただけは絶対ゆるさないぃーー!!」
「(えぇ……? 俺……マジで何もしてねぇぞ?)」
俺の額から嫌な汗が滲み出る。
勝手に因縁をふっかけられただけだし、夏野自体は本当に何もしていないのである。ただ外野からツッコミをかけていただけである。この仕打ちはいったい何なのか。




