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第11話 丹波凛、登場!

「おい、凛。もう閉店前だぞ。時間を考えろ」


「いいじゃんちょっとくらい。お腹ぺこぺこなの」


 マスターと顔見知りらしい凛と呼ばれたデカいリュックサックを背負った女の子は店に入るとすぐカウンターの席に座った。


 凛の見た目はセミロングの黒髪にヘアピンを前髪に留めている痩せた小柄な色白の少女といったところで、つり目がちな眼付きが強気な性格を思わせた。


「(ん……? この子、何か異世界人っぽくないような……」


 凛はセーラー服に似た上下の服装にネコミミフード付きの黒いパーカーを羽織っている。それはこの世界では馴染みの薄い格好だ。


「ねぇ、あんたさっきから何? 人のことジロジロ見てさぁ、キモいんだけど」


「いや、それは……その」


 俺の視線に気付いた凛は舌打ちして俺を睨んだ。


「マスター、こいつ誰?」


「居候のホームレスだ。昨日、路地裏にいたのを拾った」


「はぁ? ホームレス? その歳で?」


 今度は凛の方が俺のことをジロジロと頭の先から爪先まで遠慮なく見渡し始めた。


「ジャージ……その格好、あんたまさか……」


 凛の目付きが更に鋭くなる。


「おい夏野。この女、お前と同じ転移者じゃねぇか?」


 俺の肩口に乗っている幽霊さんがこっそり耳打ちしてきた。


「じゃあ、まさか銭湯で冒険者のオッサン達が話してたのって……」


「たぶん、こいつのことかもな」


 凛の視線はクマのぬいぐるみこと幽霊さんへと向かっていた。


「……クマのぬいぐるみが動いている? まさか私と同系統の能力持ち……? だとしたら由々しき事態だわ……」


「……?」


 凛はブツブツと何か呟いていた。


「ほら、凛。チャーハン作ってやったぞ。それ食ったら出ていけよ。こっちもヒマじゃねぇんだからな」


「はーい、わかってるわよマスター」


 俺と凛の間に不穏な空気が漂い始めたちょうどその時、厨房にいたマスターが戻って来て凛の手前に皿を滑らせた。


 チャーハン? 異世界で? 


 俺は不思議に思った。凛はどうやら俺よりも先に異世界に呼び出された存在で、マスターとも縁が長いらしい。あのチャーハンも凛がマスターにレシピを伝えて特別に作らせたものだろう。


 凛は差し出されたチャーハンを食べ始める。「いただきます」の合唱もなく、片肘をつき足を組んだまま口に運ぶ様はお世辞にも行儀が良いとは言えなかった。たぶん、育ちが悪いのだろう。


「ふぅ、満足した。マスターのところじゃないとこういうの作ってくれないからねぇ」


「まったく、変なもん作らせるヤツだよ。何処の料理だっつの」


 凛は食べカスのついた皿にカチャン、とスプーンを投げ、そのまま椅子の背もたれに深くもたれかかった。


 俺はモップで床掃除しながら凛のことを遠目から見ていた。


 やはり、この子は転移者に違いない。異世界にチャーハンなどないのだ。あの子はマスターに故郷にあった好きなものを作らせている。


「で? あんた、名前は?」


 凛は唐突に振り返ると俺に声をかけてきた。


 そうだ。俺はこの子に怪しまれているんだった。


「片桐夏野……」


 俺は正直に自分の名前を名乗った。


「私は丹波凛」


「(タンバリン?)」


 頭の中に打楽器を思い浮かべる俺。


 そして、凛は不適な笑みを浮かべるのだった。


「あんたさぁ……異世界から来たんでしょ?」


 その決定的な言葉を突きつけられた俺はびくりと肩を震わせてモップを手から取り落としてしまった。

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