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シチュエーション

ひぇ~、何なのよ、このシチュエーションは……。

まさか、このふたりと同じ部屋にいるなんて、エイミーたちが聞いたら当分話のネタにされそうだわ……。


しかもここって……私が入っていい部屋なのかな?


せっかくの機会なので、しっかり目に焼き付けてみんなに報告しよう。

意外にも調度品の類はほとんどない……棚には分厚い本がずらっと並んでいる。

やっぱり、質素堅実な国王様の方針が行き届いているのかしら。


室内を見回してみると、薄くダマスク柄の入った淡いベージュ色の壁に、上品な鴇色のカーテンが掛けられている。

この国の温かい雰囲気と、国王様のお人柄を表しているように思えた。


「うん、旨いじゃないか! これはうちのオリジナルか?」


椅子に座り、グラスを持ち上げた王子の顔がぱぁっと明るくなる。


「ええ、出入りの養蜂家(ビーキーパー)がおりまして、最近代替わりで跡を継いだんですが、なかなか腕が良いようです」


スチュワートさんは王子の座る傍らに立ち、グラスに新しい蜂蜜酒を注いでいる。


「養蜂か……蜂蜜は他国でも需要が高い。これほどの味を、内輪だけで楽しむのはもったいないな……」

「では一度、その者を謁見させるよう手配いたしましょうか?」


「スチュワート……お前は本当に有能だな」

王子が感心したようにスチュワートさんを見上げる。


「いえ、お役に立てたのなら光栄です」

スチュワートさんは胸に手を当てながら会釈をし、誉め言葉に応えた。


うーん、絵になるふたりだなぁと傍観者を気取っていると、スチュワートさんがふいに私に話を振ってきた。


「ところで……マイカ、この蜂蜜酒はどこへ持っていくつもりだったのかな?」

「あ、はい、楽士棟の方へ……」


「楽士棟?」と王子が興味を持つと、「理由は?」とスチュワートさんが続けた。

「楽士様が風邪を引かれてしまったかもしれないので、お届けに……」


「それは悪いことをしてしまったな。演奏会も控えているというのに……すまん、遠慮せず飲んでしまった。これで足りるだろうか?」

「王子、お気になさることはありません。在庫に十分な余裕がございますので」

不安げな王子に、スチュワートさんがすかさずフォローを入れる。


「そ、そうか、よかった。マイカ、呼び止めて悪かったな」

「い、いえ! とんでもありません!」


「その楽士に早く届けてやってくれ。

 あと、くれぐれも体を大事にするようにとな――」


王子はそう言って優しく微笑んだ。

おぉ……王子もなかなかの人格者のようだ。この国は当分安泰だろう。


「承知いたしました! 殿下のお言葉も伝えておきます」

「うむ、頼んだぞ」


「では王子、これで失礼いたします」


私はスチュワートさんと並んで頭を下げ、王子の部屋を後にした。



「じゃあ、私はお届けに――」

「ストップ」

「な、なにか……?」


スチュワートさんが訝し気な表情で私に顔を寄せる。

うぅっ……ち、近い。


「――なぜ、楽士様と交流が?」

「たまたま廊下を歩いていたらお声を掛けてくださって……」

「ほぅ、たまたま……? たまたま居住区の違う楽士様がたまたま本宮においでになりたまたま侍女に声を掛けたのがたまたまマイカ、君だったと?」


スチュワートさんが早口で詰めてくる。

だめだ、スチュワートさんを敵に回したらこの先やっていけない……!

別に隠すことでもないし、ここはすべて話してしまおう……。


私は一部始終を事細かくスチュワートさんに説明をした。

スチュワートさんは、時折、事実確認のような質問を間に挟みながら、的確に状況を整理しているようだった。


「なるほど、状況は把握した。気になるのは楽器の不調か……よし、私も同行しよう」

「えぇっ⁉」


「何か問題でも?」と、ジト目で見下ろしてくる。

「い、いえ、とても心強い……です!」


スチュワートさんがフッと笑い、

「そう邪険にしないでくれ、悪いようにはしない」と、楽士棟へ向かう。


私は蜂蜜酒を抱えたまま、内心めんどくさいことになったと思いつつ、その広い背中に遅れまいと歩き始めた。

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