謁見
ここから短編の続きとなります。
長編化に伴いルート修正をおこなっています。
どうぞよろしくお願いします。
「まさか、マイカが犯人だったとはねぇ~」
エミリーが箒の柄の先に両手を乗せ、顎を乗せたままニヤニヤと私を見る。
「ちょっと、人聞き悪いって。私はクッションを作っただけなのにぃ!」
「あははっ! 冗談だってば。マイカは手先が器用だもんね~」
その時、ロゼッタさんが広間に顔を見せた。
私たちは慌てて清掃に戻る。
「マイカさん」
「は、はいっ⁉」
「急遽予定が早まりました、いますぐに準備なさい」
「えっ⁉ い、いまからですか⁉ 私、着替えもしてませんけど……」
「そのままでいいわ。むしろ、その制服に誇りを持つべきじゃないかしら?」
「す、すみません! その通りですっ!」
私が深く頭を下げる横で、エミリーが笑いをこらえている。
「さぁ、行きますよ」
「あ、はい!」
くるっとロゼッタさんが振り返る。
「エミリーさん、とても余裕があるようですね? 後で買い出しもお願いします」
「えぇっ⁉」
「何か不都合が?」
「い、いえ、ありませんっ! かしこまりましたっ!」
エミリーは慌てて頭を下げた。
さすがロゼッタさん、ホント隙がないわ……。
* * *
「――陛下、かの者を連れて参りました」
スチュアートさんの隣で、私はじっと赤い絨毯を見つめていた。
「うむ、面を上げなさい」
国王様の優しい声で顔をあげる。
この御方が、ホワット・バルティス陛下……。
初めて近くで見る国王様は、想像通りふっくらニコニコとしていて、それはもう、好感度の塊のような人だった。
そして、その隣にはミシェル王子が控えている。
モブといっても、やはり美形だ。疲れが飛ぶ。
しかし、これでモブならメイン攻略対象なんて直視できるのだろうか?
いや、そんなことより、いまは挨拶を……。
「お、お初にお目に掛かります、この度はお日柄も良く……」
駄目だ、イケメンに見られると緊張する……!
「マイカ、マイカ!」
「は、はい!」
「無理をせず、普通に」
スチュアートさんが小声でささやく。
私は小さく頷き、呼吸を整えた。
「……国王様、マイカと申します」
「うむ、忙しいところ悪かったね。実は、君がこのクッションを作ってくれたと聞いて、どうしてもお礼が言いたかったんだよ~」
「いえ、お礼だなんて……! 気に入っていただけただけで十分です!」
「そうかそうか、ん~でも、何かお礼ができればと思ったんだが……」
隣に控えていた王子が咳払いをした後、口を開く。
「ならば、彼女の功績という名目で、侍女達全員にデザートでも振る舞えばよろしいかと。それならば、彼女の株もあがりましょう」
「おお、それは名案だな! うむ、ではマイカ、その方の功績をたたえ、夕食後に特製デザートを用意しよう、皆で食べなさい」
「はいっ、ありがとうございますっ!」
なかなかの名裁き、モブ王子もやるわね……。
やったぁ~! デザートだぁ~っ!
「では、下がってよいぞ」
スチュアートさんと並んでお辞儀をして、謁見の間を後にした。
* * *
――数日後。
廊下を通っていく侍女達が声を掛けてくる。
「あっ、マイカー! ありがとね!」
「あんた最高じゃんっ!」
「いやいや、どうもどうも……」
デザートが振る舞われてからというもの、私の株は天井知らずだ。
どうやら、本当に宮廷中の全侍女に振る舞われたらしい。
おかげでちょっとした有名人くらい顔が売れてしまった。
これはこれで、色々とやりにくくはなるのだが仕方がない。
「美味しかったよねぇ……」
「ん? まあ、たしかに」
エミリーがぽわ~んとした顔をしながら、箒で床をなでている。
振る舞われたのは巷で話題の『Le Jardin Sucré』の特製チーズケーキ。
エミリーや皆の反応も頷けるわね。
「ちょっと、あんまりボーッとしてるとロゼッタさんに怒られるよ」
「ごめんごめん、へへへ……」と、エミリーは眉を下げて笑った。
「あ、そうだ、騎士団宿舎にはいつ行くの?」
「あ――っ⁉ いけないっ! 忘れてたっ!」
まずい、一刻も早く荷物を回収にいかなくては……。
「あのぅ……」
「ん?」
聞き慣れない声に振り返ると、細面の青年が立っていた。
ふんわりカールした茶髪がとても柔らかそうだ。
たしか、この服は楽士の……。
「ね、結構イケてない?」と、エミリーが私に耳打ちする。
「ちょっと、やめなさいって」
肘で軽く突くと、エミリーは小さく笑い声を漏らした。
そんな私たちのやりとりを見つめていた青年が、少し躊躇いながら一歩前に出る。
「失礼ですが、マイカさんでしょうか?」
「へ? わたし?」
「はい、実は折り入ってご相談がありまして……」
「え、でも、いまは仕……」
断りかけた瞬間、エミリーが横から割って入ってきた。
「だいじょうぶでぇーす! 連れてってもらっても全然問題ないですよー!」
「ちょっとエミリー!」
エミリーは私にだけわかるようにウィンクをして、
「ほら、いいから早く早く!」と口パクで言う。
まったく、何を勘違いしているんだか……。
「じゃ、じゃあ、少しだけなら……」
「いいんですか⁉ ありがとうございます! 助かります!」
青年は顔を綻ばせ、何度も頭を下げた。
仕方ないなと私は観念して、案内されるまま後についていった。
しかし、侍女の私にいったい何の用が……。