エピローグ
奏楽舎から出発したローリンデン王国の馬車の中、アーサーとソフィアが並んで座っていた。
「まったく、もう……アーサーの目立ちたがり屋も困ったものね」
ソフィアが小さく息を吐いた。
「悪かったよ、でも、いてもたってもいられなくてさ」
「ふふっ、まるであの女の子みたいじゃない」
「あれは凄かったなぁ! あんな跳び蹴り、学園の組み手でも見たことないよ、あははは!」
「ふふっ、そうね……」
「まあ、和平条約のアドリブは悪くなかったわよ? これで中立だった国も動くでしょうし」
「まあまあ、今日くらいは政治は忘れよう」
「そうね、ここはまだ、バルティスだものね……」
ソフィアが窓の外の景色へ目を向ける。
「ああ、いい国だな」
「ええ……本当に」
メイン王子とヒロインは、そっと手を握り、互いに肩を寄せ合った。
二人はこの後、父王の落とし種を名乗る男の登場により、ドロドロの王位継承戦を繰り広げることになるのだが、それはまた――別のお話。
* * *
嵐のような演奏会が終わった。
結局、あの日、私はメイン王子とヒロインを見ることができなかった。
遠目に王子の後ろ姿だけは見ることができたが、顔はわからずじまいだ……。
外廊下の向こうから、台車を押す運び屋さんとすれ違う。
台の上には、木箱に入った綺麗な小瓶がたくさん。
瓶の一つ一つには、キングビーのイラストが描かれたラベルが貼られている。
「よっと。こいつを早く届けねぇと」
「ローリンデン王国からの催促らしいぞ。ははは、よっぽど気に入ったんだなぁ」
運び屋さん達の会話が耳に入る。
ロウさん達の蜂蜜、すっごく好評みたい。
他の国から「見学させて欲しい」なんて依頼も入っているとか……。
ふふっ、良かった。
まあ、あれだけ美味しいんだもん、当然だよね。
内廊下に行くため中庭を横切る。
警備中の兵士さんたちが何やら噂話をしているのが聞こえてきた。
「聞いたか? あのガメッセって商人……」
「ああ、『オライリー子爵も道連れだ!』って泣き叫んでたらしいぜ」
「ラカヤンヤと聞いてどうなることかと思ったが、ミシェル王子が一通手紙を送っただけで、子爵もまとめて御用だってさ」
「そりゃすげぇ! さすが我らの王子だな!」
私は聞き耳を立てながら、そっと兵士さんの前を通り過ぎた。
そっか、あの意地悪な人たち、ちゃんと捕まって罰を受けることになったんだ。
私はほっと胸をなで下ろした。
侍女棟の休憩スペースの横を通りかかると、エミリーやヴァイオレットたちが寸劇を交えて演奏会の話をしていた。
「ねぇ聞いた? ミシェル様、オライリー子爵に『ふっ……これは情けだ、あなたに忠告しておきましょう――』っておっしゃったんですって!」
「ぎゃーっ! 格好いいーっ! 私もその場にいたかったなぁ~!」
「アーサー王子が出てきた時も、全然動じなかったらしいじゃない? まるで、本当の王様みたいだったって!」
演奏会のまとめ役をそつなくこなしたヴァイオレットは、すっかりポストロゼッタの風格。エミリーは石けん作りにハマり、今では一番のDIY仲間になってくれた。
二人とも、私の大切な自慢の友達だ……。
「はぁ……風が気持ちいいなぁ……」
いつもの穏やかな日々が戻ってきた……。
外庭には洗濯したての真っ白なシーツが並び、同僚達の楽しそうな笑い声が風に乗って聞こえてくる。
中庭の噴水には真っ白な蝶々が舞い……あれっ⁉
あ……私、スチュワートさんに呼ばれてたんだっけ⁉
ヤバいヤバい!
私は周りに誰もいないことを確認して、廊下を走り出した。
「こらっ!」
「ひきょっ⁉」
えっ、み、見つかっちゃった⁉
誰……⁉
左右を見回しても誰も居ない。
「え……」
「こっちだよー、こっち」
「ああっ⁉」
見上げると、窓からミシェル王子が手を振っていた。
お、終わった……。
一番見られてはいけない御方に……。
「マイカはいつも走ってるね?」
「す、すみませんっ……!」
まるでいつも見てたみたいに⁉
もしかして……前も見られてたのかも……。
「いいよ、スチュワートには内緒にしておいてあげるから」
ふふっと笑みを浮かべる王子。
「あ……ありがとうございますっ!!!」
た……助かったぁああ!
私は思いっきり頭を下げた。
ミシェル王子の視線を意識しながら、
私は侍女らしく凜と背筋を伸ばし、再び歩き始める。
差し込む陽光、真っ直ぐに続く石畳の床は、まるで光の道に見えた。
また何か頼まれるのかなぁ……?
その時、ふわっと柔らかい風が私を通り抜けていく。
一瞬、脳裏にスチュワートさんの照れた笑顔が蘇った。
足を止め、ぶるるっと私は顔を振り、また歩く。
一歩、また一歩と踏み出すたび、眉間に皺を寄せた顔や珍しく笑った顔、いろんな場面の映像が私の中を流れていく。
「……」
「くそぅ、泣き虫賢者め……」
呟きは風に乗り、宮廷を舞う。
クリア後の世界は今日も変わらず続いていく。
私は自然と、跳ねるような足取りになっていた――。
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