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【連載版】宮廷侍女に頼りすぎ ~乙女ゲームクリア後の世界で楽しくDIY侍女ライフ~  作者: 雉子鳥幸太郎


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偽の婚約者

見たこともないような豪華な料理が並んでいる。

貴賓席には、見るからにVIPだとわかる貴族達が演奏に耳を傾けていた。


「マイカさん、あそこにいるのが私の両親です」


レオナルドさんが私に耳打ちをした。

視線の先には、きっちりとした貴族服を纏う、まさに武門の頭領といった強面のおじさんが座っていた。


「うっ……⁉」


その向かい側には、レオナルドさんに似た美しい灰色の髪の女性が座っている。

あれがレオナルドさんのお母様……綺麗な人だ。レオナルドさんはお母様似なのね。


「心の準備はよろしいですか?」

「は……はいっ!」


よぅし! やってやろうじゃないっ!


レオナルドさんにエスコートされながら、私は一歩、また一歩と戦場へと足を踏み入れた。

テーブルが近づくにつれ、レオナルドさんの腕を持つ手に力が入る。


「父上、母上、お久しぶりです――」


レオナルドさんが声を掛けると、お母様がパッと顔を明るくした。


「まぁ、アルベール……また一段と大きくなって」


お母様と対照的に、お父様の方は憮然としたままで、レオナルドさんに目すら向けない。


「……」


こ、怖っ……‼

なにその無反応! そして顔っ!


「あら、そちらのお嬢さんはどなた?」


……きたっ‼


レオナルドさんが私の背に手を添える。

「紹介します、こちら仲良くさせて頂いている、オブライエン男爵家のマイカ嬢です――」


「お初にお目に掛かります、オブライエン男爵家のマイカと申します、以後、お見知りおきを……」

丁寧に膝を折り、お母様とお父様に挨拶をする。


「まあまあ! 素敵なお嬢さんだこと! さ、こっちにいらっしゃい」

良かった……お母様の方は受け入れてくれたようだ。


「ありがとうございます、ではお言葉に甘えて……」


私はお母様の隣の席に腰を下ろした。

レオナルドさんは、お父様の隣に座る。


「若い女性がいるだけで場が華やかになるわねぇ……あ、私のことはアリシアと呼んでね」

「は、はい、ありがとうございます、アリシア様」


「ライオスだ!」


「ひっ⁉」

怒声にも似た野太い声での唐突な自己紹介に、体が硬直してしまった。


「ちょっと、あなた! いつも言ってるでしょう? 会話というものは、一人でするものじゃないって!」

「あ……う、うむ」


あれ? もしかして……。


「ごめんなさいねぇ、マイカさん、この人本当に不器用で……この年になっても挨拶すら満足にできなくて……」

「え⁉ いや、私なら平気です!」


お父様は真っ赤になって俯いている。

あれあれ? やっぱり、強面なだけで……優しい人なのでは?


「ライオス様、マイカです、よろしくお願いいたします」


あらためてご挨拶すると、咳払いをして、「う、うむ……よろしく……たのむ」と返してくれた。

良かったぁ~! これなら何とか乗り越えられる気がしてきた!


「でも、ライオスを見て泣かなかったのはマイカさんが初めてね、ふふっ」

「そうなんですか⁉」


そんな泣くほど……いや、蝶よ花よと育てられたご令嬢なら泣くな、うん。

私の場合はここの厨房や、実家でもガテン系の業者さんと交流があったから免疫ができている。

それに前世の記憶もあるし……。


「母上、マイカさんは色々な知識をお持ちでね、ハンドクリームや石けんなどもご自分で作ってしまうんですよ」

「まあ! それはすごいわ! ねぇ、良かったら今度、私にも使わせてもらえないかしら?」

「え、ええ、それはもちろん……ホホホ」


「石けん! は……その、どのようなタイプのものかな?」


ライオス様が会話に入ってきたことにアリシア様が驚いている。

見ると、レオナルドさんも驚いていた。


「あ、はい、たとえば料理人用の保湿力を高めたものや、香りをブレンドしたものとかですね」

「ほぅ……ならば、油仕事をする職人に贈るとなれば、マイカさんならどうするかね?」


油仕事……鍛治や機械師、魔導具師なんかかな。


「私なら、ココナッツオイルにほんの少し炭の粉を混ぜて作りますね」

「炭……?」

「はい、炭は多孔質構造と言って、汚れや匂いを吸着してくれますし、元々、黒い石けんなら使っていてもなんとなく汚れも気にならないというか……白い石けんが黒くなるのが嫌いなので」


「……驚いたな」

ライオス様がポカーンと口を開けている。


「さすがマイカさん、良くご存じですね」と、レオナルドさんが場を繋ぐ。

「こんな可愛らしいのに、本当に物知りなのねぇ……」


「い、いえ、そんな……」


「素晴らしい! マイカさん、そのアイデアを買い取らせてくれないか?」

「えっ⁉ いえ、そんなご自由にどうぞ……」

「それはいけないわ。マイカさん、きちんと対価を受け取るのも貴族の礼儀よ?」

「あ、は、はい……ありがとうございます」


「よしよし、レオナルド領には鍛治師が多くてな、きっと喜ばれるだろう、ははは!」


「それにしても、アルよ!」

ライオス様がバシーンッとレオナルドさんの背中を叩く。


「でかしたぞ! これで我がレオナルド家も安泰というもの。生まれてくるのが息子でも娘でも構わん、早く顔を見せてくれ! わははは!」


「え――」


おいおいおいおいおいおい!

まてまてまてまてまてまて!


い、いま何て言ったぁっ⁉


息子? 娘?


「い、いや、父上、マイカさんとはまだ……」

「なんだ? そういうことじゃないのか?」

「私もてっきり可愛い娘ができたと思ってたんだけど……」


ヤバい! 何か違う方向に話が……っ!


アリシア様が「そうだわ」と手を叩く。


「ちょうど良い機会じゃない。この場で婚約してしまいましょう」


はああああぁぁぁぁーーーっ⁉⁉


「は、母上、それはまだ……」

「ほら、まだってことはいずれそうなるのでしょう? なら、早いほうがいいじゃない。ねぇ、マイカさん?」


――地獄っ!

どうすれば……。


「お気持ちは本当に嬉しく思います。ですが、私は来年から学校へ通うことになっておりまして……」


よしっ……我ながらナイス!

これなら……!


「あら、どちらの学校かしら?」


ぐっ……。


「エリュシオン魔導機構学院でございます」


他国で有名な魔導具製造の名門……これならごまかせる!


「おぉ! エリュシオンか! これはもはや運命と言わざるを得ん。まさか息子の婚約者が我が後輩となろうとは!」

「え……」


レオナルドさんが青ざめた顔で、

「ち、父上はエリュシオンを卒業されているんです……」と言った。


「そ、そうでしたか……」


終わった……何もかもが終わった……。


「それなら紹介状を書いておこう、いやぁ……こんな素晴らしい娘ができるとは! 演奏会というのも来てみるものだなぁ! わははは!」


「ありがとう……ございます」


「ふふっ、こんな楽しそうなライオス、久しぶりだわ」

アリシア様が愛おしげに目を細めた。


素敵なご夫婦だ。

それに比べて私ときたら……嘘に嘘を重ね、もはや取り返しもつかない。

これは腹を切って詫びを入れるしか……。



その時、会場の隅で何やら怒声が聞こえてきた。


「ん?」

「何かしら……」


警備兵たちが集まっていく。

何かあったのかな……。


席を立ち、背伸びをして見ると、そこにはロウさんの姿があった。

周囲にはかなりの人が集まっている。


「えっ――……ロウさん⁉」


誰かと揉めてる⁉

考えるよりも先に、私は走り出していた。


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