不穏な影
――奏楽舎の裏手。
ロウたちがマイカに作ってもらった巣箱を設置していた。
「マイカって器用なんだな、俺が作るより上手だぜ」
ダンが感心しながら巣箱を置く。
「うん、何でも作れるんだよ。この前、ブラシも作ってもらったよ」
ロウが言うと、「へぇ、いいなぁ~」とダンがうらやむ。
「ねぇ、あっち見てもいい?」
「駄目だって、いまお兄ちゃん仕事してるだろ?」
ポーがアンに諭すように言う。
「少しならいいよ、もうすぐお昼だし」とロウ。
「あー……」
「ほら、ポー兄ちゃん行こ~!」
「すみません、すぐに戻りますから」
「気をつけてな」
ロウとダンは顔を見合わせて笑う。
アンはロウ達にとっても大事な妹なのだ。
とてとてと奏楽舎の方へ向かうアン。
それをポーが追いかける。
「あんまり走ると転ぶぞー」
「平気だもん!」
すると、奏楽舎から演奏が漏れ聞こえてきた。
「わぁ……綺麗な音」
「本当だ、これ何だろうな」
音楽を知らないふたりはしばらくその場で演奏に耳を傾けていた。
「あれ? 兄ちゃん、あの人なにやってるの?」
「え?」
見ると、奏楽舎の裏口で何やらごそごそとやっている二人組の男がいた。
「何だろう? たぶん、見回りの人かな?」
「ふぅん……」
すると、アンが二人に大きく手を振った。
「お~い! お~い!」
「こら、アン、失礼だろ……」
やめさせようとすると、こちらに気付いた男達がこっちに向かって走ってきた。
「えっ⁉」
近づいてきた男達は覆面を被っていた。
ポーはそれを見た瞬間、こいつらは王国の人間じゃないと悟る。
「アン! 逃げるぞ!」
「え?」
アンを抱えて走るポー。
だが、覆面の男達の方が足が速く追いつかれてしまった。
「待ちやがれ!」
「うわっ⁉」
「おい! その娘を押さえろ!」
ポーを羽交い締めにした男がもう一人の男に指示を出す。
「大人しくしろ!」
「うわぁあああーーーーーん!!!」
アンが大声で泣き叫んだ。
「馬鹿! 口を押さえろ!」
「わかってるよ!」
アンの口に男が手袋を詰め込む。
「んーっ! んーっ!」
アンは短い手足をジタバタさせている。
「くっ、こいつ熊獣人だ、力が強ぇえ!」
「暴れるなら殴れ!」
それを聞いたアンはしゅんっと大人しくなり、ポーは安堵の息を漏らした。
「おい、何か聞こえなかったか?」とダン。
「え? いや……」
『うわぁあああーーーーーん!!!』
「「アン⁉」」
ロウとダンは巣箱を地面に放りなげ、慌てて奏楽舎の方へ駆けだした。
「アーン!」
「アン! どうした!」
二人が覆面の男達を見つける。
男達はポーとアンを連れ、どこかへ行こうとしていた。
「待て!」
ダンが大股で追いかける。
凄まじい速さで、覆面達の正面に回り込んだ。
「チッ、熊コロがぁ……」
後ろからはロウが迫っている。
「へっ、こいつがどうなるかなぁ?」
男はアンの耳についたリボンをほどき、首に巻き付ける。
「やめてぇ! それに触らないでぇ!」
アンが悲痛な声を上げる。
「てめぇら……絶対に許さねぇぞ……」
ダンの毛が逆立つ。
鋭い牙を見せ、恐ろしい咆哮を上げた。
「くっ……くそっ!」
男はポーを蹴り飛ばし、逃げ出した。
「あっ、おい!」
もう一人の男もアンをその場に捨て逃走する。
「アン!」
「ポー!」
ダンとロウはふたりに駆け寄る。
「すみません、ロウさん、ダンさん、かっこ悪いところ見せちゃって……」
「馬鹿野郎、無茶すんじゃねぇよ」
「ポー兄ちゃんは悪くないよ? アンが行こって言ったから……」
「大丈夫、わかってる、無事で良かった……」
ロウはアンをぎゅっと抱きしめる。
「ダン、ここを頼める?」
「ああ、任せろ。じきにヤンさん達も来る」
「うん、ボク、警備の人に報告してくる!」
「ロウさん! こ、これ、あいつらが持ってた」
ポーが手に握っていたのは銀色のボタンだった。
「これ⁉ ツイデーガメッセ商会の紋章だ……」
「なんだと⁉」
ダン達とロウは顔を見合わせる。
「行ってくる! ヤンさん達が来たら離れないで一緒に居て!」
ロウはボタンを握りしめ、宮廷に向かって走った。




