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【連載版】宮廷侍女に頼りすぎ ~乙女ゲームクリア後の世界で楽しくDIY侍女ライフ~  作者: 雉子鳥幸太郎


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出発の朝

メルデール村に朝がやってきた。

登り始めた太陽が、周囲の山々を優しく照らしていく。

それに伴い、活動を始めた鳥達の声が、次第にあちこちで響き始めた。


「よし、みんな、準備はいいか?」


村長のヤンが荷物を背負った村人たちを見回した。

クマ獣人たちは皆、希望に満ちた表情で頷いている。


「へっ、いよいよだな……」

「ああ、ロウが待ってるぜ」

「新しい土地でも、みんなで頑張ろうな!」

「「おぅ!」」


村を出る準備を整えた獣人たちが、山道へ足を向けた瞬間だった。


「おい、どこへ行くつもりだ?」


突然、村の入り口に数十人の人相の悪い男たちが現れた。


「な、何だよ、お前たちは……⁉」


村人たちは身を寄せ合った。

男たちは棍棒や剣を手にしている。


一人の男が前に出てくる。

ヤンには見覚えがあった。ツイデーガメッセ商会の人間だった。


「ガメッセ様のお達しだ。お前ら獣人は、この村から一歩も出ちゃいけねぇことになった」

「何だと⁉ ちゃんと筋は通したはずだ! それに、そんな権利がお前らにあるのか⁉」


力自慢のダンが前に出ようとした瞬間――。


「うわぁっ⁉」

数人がかりで棍棒で殴り倒された。


「おら! 勝手に動いてんじゃねぇぞこら!」

「動けなくしてやれ!」

「おらおら!」


「や、やめろぉっ!」

「ひ、ひどい……」


ヤン達が駆け寄ろうとするが、すぐに他の男たちに取り囲まれた。


「へへへ、大人しくしてりゃ痛い目に遭わずに済むぞ? さっさと村に戻れ」


「そ、そんな……私たちが何をしたって言うんだ!」とヤン。

「そうさ! 私たちには移住する……け、権利があるんだからね!」

リサが震え声で言うと、男の一人が鼻で笑った。


「権利だぁ? 獣人に人間様と同じ権利があると思ってんのか?」

「「ははははっ!!」」

「こりゃ傑作だぜ! ひゃははは!」


「……っ⁉」

ヤン達は言葉を失った。


メルデール村に移住して、長い年月が経っていた。

昔は毎日のように感じていた獣人差別も、仲間内だけで生活をする間に、ヤン達は段々とその実感を失っていたのだ。


だが、こうして現実を目の当たりにして、自分たちが獣人であることを――、自分たちの置かれた立場の理不尽さを、あらためて思い知らされた。


「さぁ、とっとと村に帰りな。でないと、もっと痛い目に遭うことになるぜ! おら!」


ごろんとダンが蹴り転がされる。


「うぅ……」

「ダン! しっかり!」


リサ達がダンを抱きかかえる。


「さぁ、遊びは終わりだ獣人ども! 死にたくなけりゃ、村に戻れ!」


剣を突きつけられ、有無を言わさず、ヤン達は村へ押し戻されていく。

そして、男達に荷物は奪われ、小屋の中に押し込められる。


「ガメッセ様が来るまで大人しくしてろ、妙な真似したらぶち殺すぞ!」

男は言い捨てると、小屋の扉を閉めた。

朝日が遮断され小屋の中は薄暗くなる。僅かな隙間から差し込む光だけになった。


「……」


ヤン達は狭い小屋の中で必死に身を寄せ合う。

希望はもろくも打ち砕かれてしまった……。



    *  *  *



メルデール村は、ラカヤンヤ王国の辺境、オライリー・クリボッタ子爵領にある小さな村だった。


元はゴン爺の父親世代が流れ着いた場所で、子爵領内ではあっても未開発の放棄地であったためか、当時の子爵は気にもとめなかったという。


また、この地は王都から遠く離れた山間部で、中央政府の監視も行き届かない。


そのため、領主であるオライリー子爵の意向が絶対的な力を持っている。


そして、ツイデーガメッセ商会は長年にわたり、この構図を巧妙に利用してきた。


獣人たちから不当に安い価格で蜂蜜を買い叩き、それを子爵領内の他の町で高値で販売する。その利益の一部は、オライリー子爵への献金という形で還流していた。


子爵にとっても、商会にとっても、まさに甘い蜜を吸える関係だったのである。




 ――その夜、オライリー子爵の館。


「なに? 獣人どもが?」


豪華な部屋で、オライリー子爵がワイングラスを片手に眉をひそめた。

向かいには、汗だくになったガメッセが平身低頭している。


「は、はい……いま、うちの連中でわからせているところですが……へへへ」

「ふんっ、蜜を作らぬ獣など、生きる価値もない。もし、あくまで抵抗するというなら、私の私兵を出してやろう」


子爵の言葉に、ガメッセの顔がぱぁっと明るくなった。


「ははぁっ、ありがとうございます!」

「当然だ。あの村の蜂蜜は我が領地の重要な収入源。みすみす他国に取られるわけにはいかん」


オライリー子爵は、ワインを一気に飲み干した。

その顔には、獣人たちを家畜程度にしか思っていない冷酷さが浮かんでいる。


「しかし……バルティスか。あの国はいろいろと厄介だな。ホワット王は顔が広い……下手に刺激してローリンデン王国に出てこられても困る」


「ご心配には及びません。所詮は小国、我がラカヤンヤ王国に楯突けるはずもございません、ひっひっひ」

「そうだな……だが、万が一があってはならん。村の監視を強化しておけ」

「はい、かしこまりました」



    *  *  *



メルデール村の小さな小屋の中で、獣人たちは身を寄せ合っていた。

陽は落ちた。見張りがいなくなればと思っていたが、彼らは交代で寝ずの番をするつもりだ。


ヤンは闇の中に向かって声をかけた。

「みんな大丈夫か?」

「はい……私はなんとか……」と、リサの声。


「ダン? 平気か?」

「……ああ、これくらいどうってことない」

痛みを押し殺したような声が返ってくる。


「……」

ヤンは歯を食いしばった。


「くそぉっ! なんであんな奴らを信じちまったんだ!」

ポーが泣きながら叫んだ。


「……すまん、俺の責任だ。俺が……馬鹿だった」

ヤンは後悔に押しつぶされそうになりながら、声を絞り出す。


「ヤンさんは悪くねぇ……獣人に生まれたのが悪かっただけさ」と、誰かが言った。

「やめな! 卑屈になったって仕方ないだろ? 私たちは、私たちだけは……助け合って生きていかなきゃ!」

リサが涙声で言う。


「そうだな……すまん」

「リサの言う通りだ。みんな、最後まで希望を捨てるな! 隙を見て逃げるんだ、ロウが待ってるぞ!」

ヤンは皆を鼓舞する。


「ああ、そうだ!」

「負けてたまるか!」

「がんばって乗り越えよう……!」


皆、不安な自分に言い聞かせるように、口々に声を上げた。


外では、商会の見張りたちが松明を片手に巡回している足音が聞こえてくる。

小屋の中は暗く、湿っている。


希望の光はまだ見えなかった。

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