珍客来たる
無事、侍女棟へ帰った私は、すぐさま持ち場へ戻った。
「はぁ、はぁ、お、お待たせー……」
息が切れる。
あー、久しぶりに本気で走ったかも……。
「ちょっとマイカ! あんた遅いって、ロゼッタさんが探してたわよ?」
エミリーは心配そうに眉をひそめた。
「えっ⁉ ま、間に合わなかった……!」
がっくりとその場で四つん這いになる。
「ごめんね、可哀想だとは思うけど、さすがの私も誤魔化しきれなかったわ……」
「う、うん、わかってる……ありがとう」
仕方ない、罪は罪だ。
身から出た錆、因果応報、天網恢恢疎にして漏らさず。
私が持ち場を離れたのは紛れもない事実なのだから……。
「マイカさん、戻ってたのね?」
「ひっ……」
振り返ると、美しい笑みを浮かべるロゼッタさんの姿があった。
「あ、あわわ……」
「少し、お話しましょうか。こちらへ」
ロゼッタさんが踵を返した。
「マイカ、骨は拾うからね」
エミリーが小声でささやきながら、グッと拳を握って見せた。
元気づけようとしてくれてるのだろうが、逆効果である。
「い、いってきますね……」
私は半ば放心状態のまま、説教部屋へ向かうロゼッタさんの後に付いていった。
* * *
――数時間後。
説教部屋から解放された私は、まるで幽鬼のように、ふらふらとした足取りで広間へ戻った。
「あ、マイカー!」
私を見つけたエミリーとヴァイオレットが駆け寄ってくる。
「ちょっと大丈夫⁉」
「生きてる⁉」
「う、うん、何とか……」
「もう、心配したよぉー。今日のロゼッタさん、相当キレてたから」
「最近、重なってたからねぇ……マイカのことも薄々気づいてたんだと思うよ?」
「うん、そうみたい……全部チェックされてたわ……」
まさか、あんなに事細かく、持ち場を離れた時間が書かれたメモを突きつけられるとは……。
――そのとき、広間が一瞬ざわめいた。
「え? なになに?」
あたりを見回すと、入り口のところでレオナルドさんがキョロキョロしているのが見えた。
「レオナルドさん……?」
『ちょっと、あれ! レオさまがいらしてる!』
『え、どうされたのかしら?』
『副団長様だわ!』
『誰か探されてるみたいだけど……』
周囲の侍女たちが一斉にそわそわし始めた。
確かに、こんなところに顔を出すなんて初めてじゃないのかなぁ……。
不思議に思い眺めていると、遠くのレオナルドさんと目が合った――。
「あ、いたいた、マイカさぁーん!」
まるで飼い主を見つけた大型犬みたいに、ぱぁっと顔を明るくさせたレオナルドさんが大きく手を振った。
「「「マイカ……?」」」
その瞬間、キラキラとした光を纏っていた侍女仲間たちが、一斉にメデューサへと変身する。
こ、怖いっ……! 一刻も早くこの場を離れなくてはっ!
私は全速力でレオナルドさんの元へ走る。
「あ、マイカさん、すみませんね、お仕事中に――」
「失礼しますっ!」
「えぇっ⁉」
私は驚くレオナルドさんを全力で広間の外へ押し出す。
そして、そのまま有無を言わさず応接室へ押し込んだ。




