真夜中の品評会
エミリーとヴァイオレットの二人と合流し、一緒に厨房へ行った。
この時間、すでに厨房のお仕事の時間は終わっているので、料理人たちはいなくなっている。
私は厨房の扉を押し開ける。
すると、調理台の上に数本の瓶とメモ書きが置かれていた。
「えーと、なになに……『マイカへ、果汁を置いておく。約束通りサルナシは少しもらうぞ。あと、小瓶のはロウがお前にって持ってきたやつだ。あと、使ってもいいが厨房は汚すなよ。マッシュ』……か」
「うわぁ、いい匂い」
「どれ、貸してみ?」
エミリーとヴァイオレットはさっそく果汁の匂いを嗅いでいる。
「さてさて、お二人さん、どうしますかねぇ……いきなりお酒ってのも勿体ない気がするから、まずは果実水からいく?」
「んー、私は即、お酒でもいいけど……」と、ヴァイオレット。
「ちょっと、せっかくの品評会なんだからいろいろ試そうよ~」
エミリーが人数分のコップを持ってきた。
「ほら、マイカ。まずは何から?」
「そうね、最初はベリーそのものを味わってみよっか」
コップに少しずつベリーの果汁を注ぐ。
私は二人にコップを渡した。
「いい?」
二人が頷く。
「「「せーのっ」」」
クイッと全員で果汁を飲み干した。
ヴァイオレットの顔がぱぁっと明るくなる。
「あ! 私、これ好きかも!」
「私も私もー! あんまり酸っぱすぎないっていうか」
「たしかに、甘味が強いかなぁ」
うん、これは当たりかも。
ベースがこれなら、どうやっても美味しくなるはず!
「そうだ! ちょっと待ってて」
エミリーが厨房の奥へ入っていく。
「ちょっと、汚さないでよー?」
「わかってるー」と、返事が聞こえる。
何をやってるんだろう……?
私とヴァイオレットが首をかしげていると、エミリーが満面の笑みを浮かべて戻ってきた。
「これ使おう!」
調理台の上に、エミリーが料理用のアーモンドを置いた。
「一人3粒ねー、これで点数つけようよ」
「あぁ! なるほど!」
「よく思いつくわねー」
私とヴァイオレットは笑いながら3粒のアーモンドを手に取った。
すると早速エミリーが、嬉しそうに声を上げた。
「すぐ見せちゃだめだからね? じゃあ、さっきのベリーのお味は? ……せーのっ!」
全員で一斉にアーモンドを握った手を調理台の上に出す。
「いい?」
エミリーの言葉に私とヴァイオレットが頷く。
「じゃあ、私からね……私のベリーの点数は……3粒です!」
パッと手をはずすと、調理台に3粒のアーモンドが置かれていた。
「ほほぅ、いきなり高評価とは、後がないんじゃないの~?」
ヴァイオレットが手で自分のアーモンドを隠したまま言う。
「じゃあ、次はマイカね」
「おっけー、じゃあいくよ? 私の点数は……はい!3粒です!」
「なんだぁ~マイカも同じじゃ~ん」
エミリーが笑う。
「だって、美味しいじゃん!」
「だよねー、じゃあ、最後はヴァイオレットね」
「ったく、あんたたちに評価ってものを教えてあげるわ」
ヴァイオレットがふぁさっと髪を払う。
冗談か本気か……ただ、ヴァイオレットは上流家庭で育ったお嬢様。
美食の経験では私とエミリーでは到底かなわないだろう……。
「私の点数は……ほっ! 3粒でした~!」
「「も~っ!」」
「あははは! だってー、美味しいんだもん!」
ヴァイオレットが笑いながら言う姿に私とエミリーも笑った。
「「「あはは!」」」
「いや~、楽しいね、じゃ、次は蜂蜜酒と……」
――その時、厨房の扉が開いた。
「ふむ……これは、何をやっているのかな?」
「す、スチュワートさん……」
ま、まずい、なぜこんな時間に厨房へ……。
エミリーとヴァイオレットは石像のようにアーモンドを握りしめたまま動かない。
「ん? これは……ベリーか。どこでこんなものを……?」
「あの、そのぉー、これは……」
スチュワートさんはロウさんが私にとくれた蜂蜜の瓶を手に取った。
「開けても?」
「は、はい、もちろん! どうぞどうぞ……えへへ」
蓋を開け、匂いを嗅いだ瞬間、スチュワートさんの目が少し大きくなった気がした。
「マイカ、これはうちの蜂蜜とは違うようだが……」
「あ、はい、ロウさんの試作品でして、その、感想を聞かせて欲しいと……」
「……」
スチュワートさんは、腕組みをしながら顎に手を当て、何やら考え込んでいる。
私たちがハラハラしながその様子を見守っていると、スチュワートさんがおもむろに口を開いた。
「君たちは、いまから味見をするのかな?」
「あ、いや、そのぉ……」
三人で押し合っていると、スチュワートさんがクスっと笑う。
「いや、別に怒るつもりはないよ。マッシュの許可は取ってあるんだろう?」
「あ、はい! この通り!」
マッシュさんのメモ書きを免罪符のようにスチュワートさんへ見せた。
「なるほど、わかった」
ほっと三人で胸をなでおろす。
良かった、ロゼッタさんの説教部屋行きだったらどうしようかと……。
「ひとつ、頼みがあるのだが……」
「スチュワートさんの頼みでしたら、何なりとお申し付けください」
「そうですわ、ねぇマイカ。オホホホ」
エミリーとヴァイオレットが急に色気づく。
ったく、二人ともイケメンに弱いんだから……。
「この蜂蜜を私にも味見させてくれないかな?」
「え、そんなことでいいんですか?」
「ねぇ、てっきりマッサージでもご所望かと……」
スチュワートさんは、
「いやいや、気持ちだけで十分。その蜂蜜に興味があってね」と苦笑した。
「それなら、すぐにご用意しますね」
私は人数分の小皿とスプーンを食器棚から取り、みんなの前に置いた。
「ひとすくいずつです」
そう言って、瓶からアカシア蜂蜜を取り分けた。
「色もいいな」とスチュワートさん。
「そうですね、いつもの蜂蜜より明るい色ですよね」
「うん、綺麗」
ヴァイオレットとエミリーがスチュワートさんに続く。
「ささ、どうぞ召し上がれー」
「では、遠慮なくいただくよ」
スチュワートさんがスプーンで蜂蜜をすくい、形の良い口へ運ぶ。
エミリーとヴァイオレットは口を開けたまま、その光景に見とれていた。
「こ、これは⁉」
スチュワートさんが口元に手を当てながら目を見開く。
「この風味……アカシアか。甘さも上品でくどくないな……」
スチュワートさんの品評を聞き、私たちは急いで蜂蜜を口に入れる。
「おぉ~……たしかに」
「え、これ欲しい!」
「すごくすっきりした甘さですね……美味しい!」
やっぱロウさんってすごい!
これが人気になれば、ロウさんも喜ぶよね。
スチュワートさんの反応からして、これは大成功じゃない?
「うむ、ありがとう。とても参考になった。では、夜も遅い、私はこれで失礼するよ。三人とも、明日の仕事に差し支えないように」
「心得ました、おやすみなさいませ」
「はい、おやすみなさいませ」
「おやすみなさいませ」
三人でお辞儀をする。
厨房からスチュワートさんが出ていった瞬間、エミリーが飛び跳ねる。
「ちょっとちょっとーっ! スチュワートさんにおやすみ言っちゃった……!」
「私も私も!」
ヴァイオレットが口元に手を当て、感極まっている。
最近、よく連れまわされているせいか、もう私は慣れてしまったけど……。
「ねぇー、どうする? 今日はもうお開きにする?」
「は? いやいや、これからがメインでしょ?」
「でしょでしょ?」
ずいっと二人が詰め寄ってくる。
「は、はい……」
それから、私たちは夜遅くまで厨房でカクテル品評会を続けた。
ベリーの果汁に蜂蜜酒を混ぜたり、水で割ったり、時には氷を浮かべてみたり……。
アーモンドでの採点も、だんだん基準が甘くなって、最後の方はほとんど3粒合戦になってしまった。
「あー、美味しかったぁ~!」
「今度みんなでピクニックの時にも作ろうよ~」
「それいいわね! 外で飲むのもきっと格別よ」
エミリーが少し頬を赤らめながら、ヴァイオレットと一緒に食器を洗っている。
私はマッシュさんとの約束通り、厨房を汚さないよう丁寧に調理台を拭いていた。
「さてと、そろそろお開きにしましょうか」
「そうね、明日もお仕事があるものね」
「あー、楽しかった! また今度やろうね~」
三人で厨房をきれいに片付けて、それぞれの部屋へと向かった。
今日は本当に楽しい一日だった。
ロウさんの蜂蜜も大好評だったし、スチュワートさんにも認めてもらえたし、何より友達と過ごす時間がこんなに楽しいなんて。
部屋に戻って身支度を整えながら、私は今日のことを思い返した。
明日、ロウさんに皆の感想を伝えたら、きっと喜んでくれるはずだ……。
そんなことを考えながら、私は眠りについた。




