厨房へ
ロウさんとモレットさんにお礼を言った後、私は厨房に向かった。
袋に入れたベリーの重みを感じつつ、どんな果実水になってくれるのかと思うと、この重みも愛おしく感じる。
「お疲れ様でーす」
「おぉ、マイカー、おつかれー」
「お疲れさん」
調理人の人たちに挨拶をしながら、中へ入っていく。
ちょこちょこ手伝いをしていたので、私を見ても誰もおどろかない。
「なんだなんだ、また変なもんもらってきたのか?」
奥から料理長のマッシュさんが顔を出した。
相変わらずの無精ひげにぼさぼさ頭、ちゃんとすればハンサムな気もするんだけど……、ちゃんとしたところを一度も見たことがない。
料理の腕だけは良いんだけどね。
「あ、マッシュさんお疲れさまです」
「お疲れじゃねぇよ、ったくお前くらいだぞ? 勝手口から入ってくる侍女なんて……」
「あはは、私は顔パスですから」
「ったく、で? そいつは?」
「へへへ……じゃーん! ベリーですっ!」
「ほぉ、なかなか物もいいじゃないか……ん? サルナシまで採ったのか⁉」
マッシュさんがサルナシを手に取る。
「それはロウさんにいただいたんですよ。とっても美味しいらしいです」
「ロウが? お前、本当に誰とでも仲良くなっちまうなぁ……」
呆れたように私を見るマッシュさん。
「そんなことないですよ。たまたまロウさんが良い人ってだけで……」
「ふぅん、で、そのベリーはどうすんだ? サルナシを分けてくれるなら、絞ってやるぞ?」
「あ、じゃあ、後で取りに来ますのでお願いしてもいいですか?」
「おう、両方絞っといてやるよ」
マッシュさんがベリーとサルナシを調理台に移す。
「ありがとうございまーす!」
私は大きくお辞儀をして、厨房を後にした。
早く戻らなきゃ……。
* * *
侍女棟の宿舎にそっと戻ると、エイミーとヴァイオレットが、部屋の扉の隙間から顔を出して手招きしていた。
「なにやってるの?」
二人に近づくと、部屋の中に引き込まれた。
「わわっ⁉」
扉が閉まり、二人が私に「どうだった?」と緊張した面持ちで聞いてくる。
私はそーっと親指を立て、「ばっちりですっ!」と元気よく答えた。
「「やったぁー!」」
「さっすがマイカ!」
「いぇーい!」
全員でその場で飛び跳ねながら、喜びを分かち合った。
「かーじつすいっ! かーじつすいっ!」
エイミーが謎の音頭を取り始める。
「「かーじつすいっ! かーじつすいっ!」」
それにヴァイオレットが乗り、
「「「かーじつすいっ! かーじつすいっ!」」」と、最後には私も一緒になって謎の音頭を踊った。
「「「あはははっ!」」」
お互いに顔を見合わせて笑う。
目じりの涙をぬぐいながら、
「もー、笑わせないでよねー」と、ヴァイオレットが言う。
「いいじゃん、楽しいんだし」とエイミー。
「あ、ねぇ、ロゼッタさんの方は大丈夫だった?」
「うん、なんかスチュワートさんが来て一緒にどっか行っちゃった」
「へぇー、そっか。ならよかった」
倉庫のことかな?
まあ、それは気長に待つとして……。
みんなの感想があった方が、ロウさんも助かるよね。
「ねぇ、いま、厨房でベリーを絞ってもらってるんだけど、ロウさんが試作品の蜂蜜をくれるっていうから試してみない?」
「試作品?」
「うん、アカシア蜂蜜だって」
「なにそれ、まずいとかありえないじゃん」
「試すっていうか、試させていただく、だよね?」
二人とも興味津々である。
「じゃあ、着替え終わったら一緒に厨房に行こっか」
「「やったぁ!」」
二人を部屋で待たせて、私は自分の部屋に戻った。
「着替え、着替え……」
侍女服を脱ぎ、少しゆったりとしたワンピースに着替える。
「この服もそろそろかなぁ……」
実家を出たときに持ってきたお気に入りのワンピース。
補修しながらだましだまし着ていたのだが、どうにも生地が傷んできた。
定期的に王宮に来る行商もいるけど、どれも派手なドレスばっかで、お値段も高め。
侍女が着る普段着なんて売っていない。
仕方ない、次の休みは街に洋服でも見に行くか。
着替えを終え、私はエイミーたちの待つ部屋に戻った。




