朝礼
――翌日。
起床して、支度を済ませると朝礼に向かう。
私たち侍女は、その日の仕事の割り振りを、ここでロゼッタさんから通達されるのだ。
いつもの広間に行くと、なんだか妙にざわついていた。
「あ、マイカー、ねぇねぇ、騎士団宿舎のお掃除があるってホント⁉」
「いーなー! わたしも推薦してよぉ~!」
「え、ちょ……ちょっと……」
なぜ、この話が広まって……⁉
視界の端にエミリーの影を見つけ、私は駆け寄った。
「ちょっとエミリー、噂になっちゃってるけど大丈夫なの⁉」
エミリーは目をそらして、
「こ、ここまで広がるとは思ってなくて……あはは」と苦笑いを浮かべる。
隣に居たヴァイオレットが眠そうな目をして、
「ま、仕方ないわね、なるようになるって……ふわぁ」とあくびをした。
「も、元はといえば、あんたが発端でしょ!」
「だって、口止めされてないもーん」とヴァイオレットは素知らぬ顔だ。
「むきーっ!」
「ちょ、ちょっとふたりとも……」
ヴァイオレットに掴みかかるエミリーを止めていると、ロゼッタさんが広間に入ってきた。
その瞬間、あれほど浮かれていた侍女たちは、まるで王宮の近衛兵のように整列を済ませていた。
「「おはようございます!」」
「……おはようございます」
美しい所作でロゼッタさんが挨拶を済ませる。
「十秒あげましょう。言いたいことがある者は前に出なさい」
思わず皆が息をのんだ。
慣れ親しんだ広間が、一瞬にして暗い海底に沈む――。
「いち……に……」
ロゼッタさんは顔色ひとつ変えずに数をかぞえていく。
「さん……」
だ、だめだ……もう無理っ……耐えられない!
横目でエミリーを見ると、すでに魂が抜けていた。
「よん……」
そのとき、意外にもヴァイオレットが一歩前に歩み出る。
「ヴァイオレット……⁉」
ロゼッタさんが数えるのをやめ、ヴァイオレットの前に立った。
「ヴァイオレット、何か私にいいたいことがあるのですね?」
凛とした立ち姿。
こうして黙って澄ましていると、ヴァイオレットはとても絵になる。
「黙っていてはわかりませんよ?」
ロゼッタさんに促されると、ヴァイオレットが口を開いた。
「父から騎士団宿舎の掃除があるという話を聞きました。本当でしょうか?」
そ、そうだった……! ヴァイオレットのお父さんは事務方の高官。
宿舎清掃の話を知っていてもおかしくはない……!
さすがヴァイオレット、いいところを突く!
「なるほど、そういうことでしたか……。もしかすると、誰かが騎士様にご迷惑をかけたのかもと心配をしていたのですが……」
そう言って、ロゼッタさんが私とエミリーの方を見た。
私は心を無にして、ひたすら嵐が過ぎ去るのを待った。
「まあ、遅かれ早かれわかることですね。よろしい、まだ通達しない予定でしたが、みなさんに周知しておきます」
ロゼッタさんが元の立ち位置に戻り、
「今回、騎士団の方から宿舎の清掃について依頼がありました。内容は、宿舎の共有部分の清掃です。個人の部屋は対象外となります。実施にあたっては、私の方で班組みを行い、分担して清掃にあたります」と、よく通る声で説明をした。
「ロゼッタさん、班組みのメンバーはどのようにして選ばれるのでしょうか?」
侍女のひとりが声をあげると、さきほどまでとは打って変わり、場は浮かれた空気で満たされていく。
「静かに――。メンバーは少数精鋭でいきます。日頃の作業効率、勤務態度、清掃技術、総合的にみて判断します」
ぴりっとした雰囲気に変わり、皆の表情も真剣そのものだ。
そんなに騎士団って人気あるんだなぁ……。
「はい、では今日も一日よろしくお願いします、マイカさん、あなたは残りなさい」
「は、はい――」
皆が持ち場へ行き、広場には私とロゼッタさんだけが残った。
「マイカさん、今日は楽士棟へ行き、ミカエルさんからリストを受け取ったあと、昨日の部屋に持ってくるようにとのことです」
「はい、かしこまりました!」
焦ったぁ~スチュワートさんの仕事か。
何か別件で絞られるのかと……。
「あなたが何のお手伝いをしているのか、私は知りませんが、くれぐれも侍女の品格を落とすような真似だけはしないように。いいですね?」
「は、はいっ! もちろんです!」
「では、今日も一日よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
丁寧にお辞儀をして、私は楽士棟へ向かった。
し、死ぬかと思った……。




