序章:堕ちる魔王と、壊れかけの男
かつて――世界の果てに《黒の王》と恐れられる存在がいた。
魔王アークヴェル=ディアマト。
炎を操り、魂を喰らい、七つの国を灰に還した災厄の王。
だが、どれほどの力を誇ろうと、終わりは訪れる。
封印の刃を携えた勇者たちによって、その命脈は絶たれた。
魔王の肉体は砕け、魂は次元の狭間へと弾き飛ばされた。
永遠の虚無に沈むはずだったその存在は、思いがけず「別の世界」に辿り着いた。
――そこは、鉄の獣が走り、光の箱が人々を照らす、奇妙な世界。
――怒号とストレスにまみれた、人の心が壊れゆく都市。
魂の欠片となった魔王は、最も強く“渇望”を抱いた存在に引き寄せられる。
それが――
「死にてぇ……。このクソみたいな人生、誰か終わらせてくれよ」
終電の車内で、誰にも聞かれないように呟いた、一人の男だった。
神谷誠二。
魂の奥底に、燻るような絶望と怒りを抱えながら、それでも“生きよう”としている人間。
魔王アークヴェルは、彼の精神に「居場所」を見出した。
かつて支配した世界とはあまりに異なるが、それでも彼は思った。
――ならば、この世界で再び這い上がればよい。
――新たな“契約者”と共に。
そうして、異世界の王と現代の社畜という異質な魂の共鳴が、始まった。
⸻
「問おう、人間。我と契約するか?」
⸻
こうして物語は幕を開ける。
これは、“最強”と“最弱”が出会い、社会という異界を生き抜く物語である。