↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
7/17

第7話

 ミンティアは、それ以上は何も話さず、靴磨きの続きに戻った。


 何かを聞きたいのに、ミンティアから発せられる拒否のオーラが強くて、何も口に出せなかった。  


(私は、怒ってもいい立場よね?なぜ、何も言えないのかしら)


「終わりました」


 ミンティアは、靴磨きが終わると、機械的に道具をしまい始める。


 青い目と筋の通った鼻、女性らしからぬ太く、真っ直ぐな気高い眉根。


 無表情で、何の感情も読み取れなかった。


「いくらかしら?」


「100セントです」


「100セント?そんな安くていいの?」


 あまりにも安値だった。膝をついて、汚い靴を磨くんだから、5000セントは払ってもいいのに。


「あなたにとっては安いかもしれませんが、私たちにとっては、3日は食べられる大きなお金です」


 ミンティアは無感情に言い、手を伸ばしてくる。借金だらけとはいえ、伯爵家とは程遠く、乞食のようだった。


「こまかいお金持ってないから、1000セントでいいかしら」


「おつりはありません」


「おつりはいらないわ」


 ミンティアの掌に1000セントをのせる。


「ありがとうございます。生まれてくる赤子の服やミルクを買うお金にします」


 ミンティアの固い表情は、少し緩み、一瞬だけ笑顔が浮かぶ。


 生活は、かなり苦しそうだった。


 ミンティアは、お金を受け取ると、大事そうに懐に入れ、次の客をつかまえようと、私から離れて行った。


 帰りがけに、二人のアパートをのぞいてみた。鍵はかかっていない。木製のドアは、簡易で、すぐに人が入ってこれる。


 6畳一間に、小さなコンロ一つと、水場が備えつけられた狭い部屋だった。


 もう秋口に入ろうとしているのに、水場には、ゴキブリの死骸が横たわっている。


 カールはいなかった。妻にこんな苦労をさせていて、どこに行っているのだろう。


 そのままアパートから出て、家路についた。


 道中、ミンティアの言葉が脳裏に蘇ってくる。


 ‘’あなたのものを奪えたから、後悔はありません‘’


 ‘’あなたにとっては、安いかもしれませんが、私たちにとっては、大きなお金です‘’


 ミンティアは、カールを愛しているのではなく、私のものを奪いたかったのだ。


 それは、私が上流伯爵家で、お金持ちだからなのだろうか。


 考えてみれば、私はお金には不自由なく、好きなものを与えられ、小遣いは欲しいだけもらっている。


 生まれたときから、環境が整えられ、姉のカミーラも何の疑問もなく同じように暮らしていたので、それが当たり前だと思っていた。


 親のお金に頼るのは、間違っているのだろうか!?


 貧困で靴磨きをして自立して生きるているミンティアが、気高く感じられる。


 私は、自立できていない分、半人前なのだろうか。


 もんもんと頭に疑問が生まれてくる。


 カールを手に入れられても、あのような暮らしは、私にはできない。


 私には、真実の愛ではなかったのかしら。


 でも、グランデール伯爵に、許すように手配するのも、なんだか癪だった。


 こちらは、結婚式当日に、カールに逃げられて、大恥をかいたのだ。


 裏切られたことが許せないのか、恥をかかされたから許せないのか、わからなくなってくる。


 うじうじ考えていても仕方ない。


 私は帰るなり、一つの結論を出した。


 親を頼らずに、生きてみよう!


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。