表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/17

第17話

 急いで荷物をまとめると、お姉様と足早に修道院を後にした。


 部屋にミリアンが帰って来ていたので、ミリアンにだけは、事情を話しておいた。


 ミリアンは、私が去ることを寂しそうな顔を見せたが、お父様の命を神に祈って、見送ってくれる。


「アルル、シスター・アメリアには伝えておくから、心配しないでね。必ず一度、遊びに来てちょうだい!」


 ミリアンは、ふくよかな頬を赤らめて、叫んでくる。


 私とお姉様は、ミリアンの声を背後から聞きながら、早足に家路へと急いだ。




 家に戻ると、お母様は心底嬉しそうに私に抱きついてくる。


「アルル!良かった!帰って来てくれたのね、ありがとう!」


「事情はお姉様から聞いたわ。お父様は?」


「もう3日も意識が戻らないのよ。医者も今夜が峠だと。お父様は、アルルの名前を読んでいるわ。早く行ってあげてちょうだい」


 お母様が笑顔を見せたのも一瞬、心配そうに涙ぐんでいる。


 私はお母様の手を取って頷き、二階にあるお父様の部屋へと急いだ。


「お父様!アルルです!帰りました!」


 お父様の部屋に駆け込むなり、私は大声で叫んだ。


 ベッドに横になっているお父様の頬は、げっそりと削ぎ落ち、皮だけになっているように見えた。


「お父様!お父様!」


 握りしめた手はひんやりと冷たかった。


「アルル、アルル」


 お父様は、弱々しく私の名を呼んでいる。


「お父様、アルルです!アルルです!」


 何度もお父様の名を呼ぶが、お父様は目を閉じて、苦しそうに私の名を呼び、呻くだけだった。


 お姉様もお父様の手を取り、何度もお父様を呼んだ。


 私たちは、その日は寝ずに朝までずっと、繰り返しお父様の名を呼び続けた。




「アルルや」


 翌日、いつの間にかお父様の側で眠ってしまった私を、お父様が優しく頭を撫でて、起こしてくれた。


「お父様!良かった!意識が戻ったのですね!」


「お父様!」


 私とお姉様は、お父様が助かった喜びに、お互い抱きついてしがみついた。


 お父様はめっきり痩せてしまったが、目には力が入り、輝きを取り戻していた。


 往診に来た医者も、もう大丈夫だと言って、帰っていく。


 お父様は、お母様が作った粥をベッドで食べ始めた。私は、そっとお父様に寄り添って、食事の介助をする。


「アルルや。お前の気持ちも考えず、一方的に怒鳴ってしまって悪かった」


 謝罪を口にするお父様の姿は、弱々しく、一回り小さく見えた。


「いいのです、私も結婚式からずっと、起こったことを受け入れず、逃げてしまっていました。カールとミンティアのこと、すべてを人のせいにしていました」


 私は胸に手をあてて、神に告白をするようにお父様に話した。


 お父様は、黙って私の話に耳を傾けてくれる。


「でも、私は家名を盾に、傲慢になっていたのです。まわりの人は、ずっと我慢していたのだと思います。だから、もうカールとミンティアのことは許します。貧困街で修道女として生活をして、二人の赤ちゃんを見て、こだわりは泡となって消えていきました。お父様も、もうカールとミンティアのことを、許していいのです。私のために、一緒になって戦い、守ってくれて、ありがとうございます」


 私は、お父様に微笑み、手を握りしめて頷いた。


「アルルや、結婚式のことは辛かったと思う。落ち込んで部屋から出なくなってしまったお前を見て、わしも、二人のことは憎くて仕方なかった。でも、お前が許すと聞いて、二人のことはどうでも良くなった。就職のことなど、わしが圧力をかけていたものは全て解除しよう」


 お父様も、正直な気持ちを私に話して、すっきりとしたようだった。


 食欲もでてきたようで、どんどんと食事を進めていく。


 結婚式のことで自分一人が傷ついていたように思っていたが、お父様、お母様、お姉様、リリアンたちが、一緒に傷を負ってくれていたのだと知る。


 私は、結婚式で花婿に逃げられたことで、自立ができ、人の気持ちがわかるようになった。


 一皮むけて、成長できたのだ。


 これから、リリアンのところに行って、今の気持ちを話そう。


 それからシスター・アメリアのところに行き、もう一度、修道女見習いを続けられるように嘆願をしてみよう。


 だめかもしれないが、全てありのままに話したら、受け入れてくれるかもしれない。


 希望と不安を抱きながら、確実に、一歩一歩と前に進んでいく。



                  ~完~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ