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第16話

 結婚式にカールか逃げてしまったことは、私が呼び寄せた因果なのかもしれない。


 もっと言えば、カールがミンティアのほうに心が動いてしまったのは、私にも責任があるのかもしれない。


 世間知らずで、親の権威を自分の権威と勘違いして、馬鹿みたいに偉ぶっていたのかもしれない。


 赤ちゃんの無垢な笑を見ていたら、ふと、そんな考えが降ってきた。


「いえ、私にも悪いところがあったわ。ごめんなさい」


 私は、ミンティアに頭を下げて謝った。


 ミンティアは、驚いた目で私を見上げる。


「いえ、悪いのは私だったわ。親が貧乏だからと、逆恨みしていたのよ」


 ミンティアは、申し訳なさそうに髪を垂れ下げ、うなだれて言った。


 本当に悪いと思っている。嘘ではなさそうな表情だった。


「あう!あう!」


 赤ちゃんが、元気よく笑った。


 途端に緊張感が緩んだ。


 私たち3人は、はがゆい笑みを浮かべ、赤ちゃんを囲んで笑い合った。



 

 今まで背負っていた、重い石がすっとなくなったように軽かった。足取り軽く修道院に帰ると、姉のカミーラが門の前で待っていた。


「お姉様!どうしたの?」


「アルル、せっかく自立をして、修道女として立派にやっているのに、突然やって来てしまって、ごめんなさいね」


 お姉様の顔色は青白く、家を出る前より、手首はほっそりとしていた。痩せたようだった。


「お姉様、そんなこと良いのよ。お姉様、痩せたようだけど、大丈夫?何かあったの?」


 私はお姉様の手を取って言った。冷えた手であった。


「アルル、実はね、お父様が倒れてしまったの。熱にうなされながら、アルルの名前を呼んでいるわ」


「お父様が?あの気丈で頑丈なお父様が?」


「そうよ、アルルが家を出てから、お父様、めっきり弱ってしまってね。食事もあまりとらなくなって、栄養失調気味から、病気によくかかるようになったの」


 お父様の具合は、余程悪いのか、お姉様は思い詰めたように悲壮感が漂っていた。


「アルル、おねがいだから、すぐに帰って来てちょうだい」


 お姉様は、私の手を握りしめて言った。


「お姉様、でも、私はまだ見習いだから、今帰ってしまったら、修道女になれなくなるわ」


 そう、シスター・アメリアは、厳しい人だ。どんな理由があろうと、見習い中に仕事を放棄したら、落第させるだろう。


「わかっているわ、アルル。でも、お父様の命がかかっているの。お願いよ、アルル。帰ってきて欲しいの、お父様を助けられるのは、あなただけよ!」


 お姉様は、涙を浮かべて懇願してくる。


 お父様を選べば、修道女になる道が終わる。修道女を選べば、お父様は死んでしまう。どちらを選べば良いのだろう。


「アルル!時間がないのよ、お願いよ!」


「お姉様、わかったわ、帰るわ」


 私は、修道女を選ぶことを諦めることにした。お父様の命のほうが、大事である。


 それに、私は結婚式のあの日から逃げてしまっている。


 向き合わないといけない。


 そうしなければ、本当に前に進むことはできない。


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