第14話
相部屋のシスターは、ミリアンという名だった。笑うとえくぼができて、ふくよかな体型は、おおらかな雰囲気を感じた。
「アルルさんね、よろしくね。わからないことは、なんでも聞いてちょうだいね」
ミリアンは、人の良さそうな笑みを浮かべ、手を握って親愛の情を伝えてくれる。
「わからないことだらけだわ」
私は、ミリアンを前に安堵感が胸に広がった。思わず、涙ぐんでくる。
「あらあら、不安だったのね。もう、大丈夫よ!」
ミリアンは、私を抱きしめてくれる。
昨日から様々な変化があったので、気を張り詰めていたのだ。
ミリアンは、私に笑いかけ、頭を撫でてくれた。
気持ちが落ち着くと、夕食をとりに食堂に案内してくれる。パンとポタージュスープだけの、質素な夕食だった。
アーメンと神に拝み、祈りを捧げてから、やっと夕食にありつくことができる。
ミリアンに会い、安心したのか食欲もでてきたようだ。ぺろっとたいらげ、お変わりが欲しいくらいだった。
部屋に戻り、就寝時間になる。
コンクリートの地べたに、薄い布を敷き、一枚の毛布にくるまる。
「大丈夫よ、だんだん慣れてくるから」
ミリアンはそう言ってくれるが、温かくふわふわの布団が恋しかった。
(恵まれた生活を与えられていたんだわ)
私は、お母様やお父様、お姉様が懐かしく思い出された。
たとえ辛くとも、すぐに泣き帰るなんて、できない。
ミリアンの寝息が聞こえてくる。
いつの間にか、眠りに入っていく。
翌日は、4時にミリアンに叩き起こされ、まだ暗い中ミサに参加し、5時から朝食を食べる。
(パンと牛乳だけだわ。こんな生活じゃあ、栄養不足になってしまうわ)
しかし周りを見渡せば、栄養失調者は見られず、皆健康な身体をしていた。
ミリアンは、むしろ太っていた。
それにミリアンは、頬を赤らめ、満面な笑みで、すこぶる美味しそうに食べる。
彼女を見ていると、粗食なのに食事が楽しくなってくる。
「さあ、奉仕の時間よ!今日は、私に着いて来てね!」
ミリアンは、るんるんと軽い足取りで、街に出かけていく。
「どこに行くの?」
ミリアンに習い、スキップ調で歩き始める。なぜか心が軽くなっていく。
「ボランティアでスープをもらいに行くのよ。そのスープを、みんなに配るの!」
ミリアンは、″ららら~″と鼻歌を口ずさみながら言った。
歩いて20分、古いレンガ調の大衆食堂に入っていく。
「おお!シスター、待ってたよ。そこのスープ、持っていきな!」
気前の良さそうな店主だった。調理場にある鍋いっぱいに煮込まれたスープを指差して言ってくる。
「いつもありがとうね!」
ミリアンは、にこにこと店主に笑いかけ、両手で鍋を掴むと、店を出てまた歩き出す。
「アルル!体が資本よ!それにしても、美味しそうなスープだこと!私たちも、あとで一杯いただきましょう」
ミリアンは、陽気な口調で言うと、重くて熱い鍋を軽々と持って歩き続ける。
(体が資本かあ。。熱い鍋を持ちながら歩くなんて、できるかしら)
繁華街には、何十人もの浮浪者が溜まっていた。地べたで眠る者もいれば、物乞いをする者もいた。
ミリアンは、あらかじめ設置されたテーブルに鍋を置いた。
「そこの葉っぱ、お皿のかわりなの。そこにスープを入れて、配るわよ!アルルも手伝ってね」
ミリアンは、葉っぱを差して、ウインクをする。
テーブルに山盛りに積まれた葉っぱは、しっかりとしていて、皿のかわりになりそうだった。
ミリアンがスープを葉っぱに注ぎ、私がくる者に配っていく。
列は長蛇になり、何人もの人が、ありがたそうにスープを受け取っていく。
「!カール!」
次々に手渡していくと、カールの順番になっていた。
「やあ、アルル、また会ったね。慈善活動なんてして、偉いじゃないか」
カールは嬉しそうにスープを受け取りながら、珍しく褒め言葉を言ってくる。
「そうかしら?私、自立したからね」
褒められて、悪い気はしなかった。
「お互い、貧困街か。半年前まで、社交会にいたのにな。人生わからないもんだな」
カールは、しみじみと呟きながら、スープを2つ持って去っていく。
(ミンティアとカールの分ね。半年前は、アルルとカールだったのに)
無精髭を伸ばし、よれよれの布服を着る彼を見て、今は何の違和感もなかった。
人生は、一寸先にはどうなっているか、わからないわね。




