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第1話

 ああ、何日も待ち焦がれていた、結婚式当日!ずっと夢見て、胸をときめかしていた。


 イエスキリスト像が、私たちを見守っている。厳かな教会で、最後の儀式が残るのみになっていた。


「誓いのキスを」


 神父が告げると、カールはそっと私のベールをあげようとする。


 私は目を閉じて、花婿のカールの誓いのキスを待っていた。カールの温かい唇をもうすぐ感じられる‥‥と、待ち望んでいた私に待っていたのは、


「ごめん!アルル、やっぱり結婚はできない!」


 酷く残酷な言葉だった。


「???」


 私の頭は真っ白。何が起こったかもわからなかった。


 ただ、カールは私を置いて走り出し、教会から出て行ってしまうという現実だけあった。


「なんで?カール、待って!」


 私はドレスの裾を持ち上げ、必死になってカールを追いかけた。


 参列していた人々も、何が起こったのかわからず、慌てた様子でカールを追う私の後についてくる。


 教会の外に出ると、カールとミンティア令嬢が手を繋いで、抱き合っていた。


「カール、どういうことなの?」


 悪い夢を見ているようだった。二人が友達であるのは知っていたが、まさか私を裏切って密会していたなんて。


‘’アルル様は、しっかりと自分の意見があって、羨ましい。尊敬してます‘’


 そう言ってミンティア令嬢は、いつも一歩下がり、いつも微笑を絶やさなかった。控えめな優しい心を持った人だと思っていた。


 それなのに、まさか二人が裏切っていたなんて。


「アルル、違うんだ。今、ここで初めて想いを確かめ合ったんだ!決して、今まで二人きりであったことはなかった!」


 カールは弁解をするように、懇願をして言ってくるが、一言も心に届いてこない。


「そんなこと、信じられるわけないでしょ!馬鹿にしないで、こんな結婚式当日に、酷いわ」


 二人が手を取り合うところを見て、少しずつ、花婿に逃げられたのだと実感が湧いてくる。


 今はとにかく、どういうことなのか、知りたかった。


「アルル、君の活発なところや、時々口は悪いけど実は根は優しいところは、好きだった、だから、結婚しようと思ったんだ。これだけは信じてくれ」


 カールは、ミンティア令嬢の手をしっかりと握りしめている。その部分だけが、やけにリアルに目に入ってくる。


 ミンティア令嬢は、肩を震わせ、青白い顔色で俯いている。


「でも、行ってしまうんでしょ?」


「ミンティアとの、真の愛に気づいてしまったんだ。どうしようもないんだ」


「そんな、卑怯よ‥何も、結婚式当日に、みんながいる前で逃げなくてもいいじゃない!」


「すまない、本当に、すまない」


 カールは頭を二度下げると、ミンティア令嬢の手を引いて、行ってしまう。


「ひどいわ、ひどすぎる、許さないから、カールのバカヤロウ」


 二人が見えなくなってしまうと、体の全身から力が抜け、膝をついて泣いた。


(涙なんて、なんででてくるのよ、カールなんかのために)


 状況がなんとなくわかってきた人々は、哀れに私のことを見ている。


(私は、花婿に逃げられた、可哀想な人と!哀れに見られている。視線が痛すぎる。ほっといてよ!)


「アルル、なんてことに‥」


 姉のカミーラと両親が、労わるように背中をさすってくれる。


「お父様、お母様、お姉様、悔しい!あんな男を選んだ私が馬鹿だったわ」


 もともと勝気な方であった。こんな状況でも、強がらずにはいられない。


「おお、アルルや。可愛い娘よ。我がクライン家は、決してグランデール家を許しはしない!」


 いつもは厳格なお父様だったが、流石に今は、私の味方になってくれる。


(そうよ、逃げた花婿が悪いんだわ!)


 涙をぽたぽたと垂らしながら、怒りがふつふつと湧き上がってきていた。


 


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