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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

 ~メタモルフォーセス~ 魔物を生み出せない欠陥ダンジョンマスター。確かに欠陥ではあるけれど、弱いとは限らないだろ。

短編です。

色々異形化させたかっただけ。

「何じゃこりゃ。頭にかぶらないタイプのVRゲームが急に発明されたとか。なんて、そんなわけはないよな」


 目の前に広がる、雲の上のような、だだっ広い白い空間。流行のvrゲームの世界でもなければ説明がつかない。雲も突き抜けるような山の頂にでもやって来たのなら、それは美しい光景が見られるのだろうけれど、それでも雲そのものの、上に立つというのはあり得ない。どうやったらそんな事が出来るというのか。

 ああそう。きっと神様や天使なら出来るのだろう。ここはまさしく、天国のようであったが、死んだ覚えもなかった。

 布団の中にすっぽりぬくぬく収まっていたところ、脳卒中やら一酸化炭素中毒やらでくたばったか。

 そんな悲しい想像をかき立てつつ、しっくりとしない。

 あるいは夢だろうか。体質上、こんなに頭が回る夢なんて、経験したことがないけれど。

 なんだか虚しいなあ。俺、死んだのだろうか。

 

「残念、全部外れだよ」


 背後から、突然かけられる声。

 ピクリと肩をふるわせ、一呼吸おいて振り返るが、そこには人の姿はない。

 代わりにそこにあったのは、宙に浮かぶ杯だった。

 杯は、一般庶民が見たこともないほど立派だった。特別な装飾がないにもかかわらず、学のない俺にも高級品だと分かる。

 そんな事を言って、もしかするとメッキとかだと、顔を真っ赤にしながら笑ってしまうけど。赤黒い液体の注がれたそれは、黒と黄金に浮雲をはんしゃさせ、見事に磨き上げられれいる。

 まるで黄金の鏡のようだった。


「おはよう諸君。君たちは魔界の主人に選ばれた特別な1,000人です。パチパチパチ、はい拍手ね」


 魔界の主人って。ゲームの導入みたいな感じだ。

ゲーム、ゲーム、ゲーム。最近良くないな。脳みそが完全にゲームに汚染されている。ゲーム脳、ここに極まれりみたいな。

 何の自慢にもならないけど。今はそのゲーム脳のおかげで、冷静であろうと努力できていた。

 さながらサードパーソン。状況が俯瞰出来るほど異世界だったとも言う。

 で誰だよコイツ。俺の妄想。この『声』語りがやけに道化じみているけれど。


「君たちには様々な世界からやって来て貰いました。つまり君たちは、帰れません。元の世界には。そして戦って貰います。あたしの敵と」


 戦って貰うねえ。

 昔そんな話があったような。何だったっけ、バトルロイヤル系みたいな。アレは敵と戦うんじゃなくて、蠱毒みたいな話だったか。えっと、召喚系だっけ。なんか偉そうな人に呼び出されて、無理矢理に戦わされるみたいな。

 物騒な話だ。意味も分からないけど。大体何、そんな簡単に他の世界から人を連れてこれるのなら、その敵とやらを別の世界に送り出しちゃえば良くない。

 というか、そんな馬鹿みたいな能力を使える奴らと戦えないよ。一般ゲーマーだよ、こっちは。

 歴戦の軍人か何かと勘違いしていませんかね。

 暗殺者とか、現世最強とか、中国武術界の至宝が転生しますみたいな。

 ニートが転生したって、うんこ精算機がうんこになるだけだけれど、ゲーマーだって誤差だよ誤差。なんたって、ニートの多くはゲーマーだからな。

 勘違いするなよ、ゲーマー、ニートじゃない。これ、大事。

 

「君たちには、今2つの選択肢があります。1つはこのまま何もせずに死ぬ事。もう1つは、君たちの目の前にある、杯を飲み干すことです。その器の中身を飲むと、僕の敵と戦うための力が手に入るはずです。人によって、得意不得意はあるだろうけれど、それに適合する人を集めたので。1分だけ待つから、すぐに決めてね。ハイ、カウントスタート。1~、2……」


「説明って、それだけ。詳しいところはWEBでお確かめくださいってか。馬鹿め。今時のゲームは説明書がないんじゃなくて、説明書がなくても大丈夫なぐらい親切設計なんだよ。まあ、飲むけどさ」


 寝ぼけたような、頭で口だけが回る。

 どうにも頭がクリアにならない。

 俺は頭は良くないけどさ、コレを断ったらどうなるかぐらい分かる。

 とにかく、命をかけてその殺人ゲームだかをやれってことね。

 物語ならモブAみたいなキャラクターが出てきて、「誰がこんなものを飲むか」からのボカーンってなるパターンだろ。もしくは主人公がたった一人口にしなくて真の能力に目覚めるみたいな。

 俺は主人公じゃないから、もちろん飲むんだけど。

 やってやろうじゃねえか。かかって来、かかって、来ないでくださいお願いします。

 まだ死にたくないよ、どうするんだよパソコンにインストールすらされてない、未プレイのゲームの山。プレイしないで死ねるかってんだ。

 どうせ命をかけるなら、戦って生き残ってぶち殺してやる。あれ、生き残っても元の世界には帰れないんだったかも。

 ええい、儘よ。

 杯の中身を一口で飲み干す瞬間まで、まともな思考も無し。

 その曇った思考が、一気に冷める。

 全身を刺す激痛。

 刺す、違うな。裏返る、そっちの方がふさわしい。どうにも既視感がある。治りかけの傷口の皮膚の下がかゆいような感覚。それが全身の皮膚を覆い、更に痛みを付け足したような。


「残ったのは半分ぐらい。意外だなー、少なくても9割は残ると思ったのに。みんな命に執着無いんだね。まあ死んでしまった者は仕方ないし、残った皆さんに期待しましょうか」


 グニャリと歪んだ杯に、俺の姿が映り込む。全身の皮膚は剥がれ落ち、体中の骨が筋肉が、グニャリと歪み、解けて、組み変わる。そして全身を新たに皮膚が覆ったときには、立っている気力も失った。最後に目にしたのは、見覚えのない男ぐったりと崩れ落ちるところだった。

 これ、飲まなかったのはともかく、飲んだ人達、みんな死ぬんじゃなかろうか。


「恨むぞ、このクソ声」


「ハッピーバースデイ」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「お目覚めかな、諸君」


 そこは、天国から一転して暗闇。


「君たちには、もう既にすっごい力が備わっているわけだけど、せっかくあげたものを使わずにやられたら。さすがに困っちゃう。だから、ここは1つ使い方を教えてあげようと、思います。誰か、実演してくれる人」


【実演ねえ。やっても良いけど、どうやって伝えるわけ。そもそもここどこだよ】


 声に出したはずの台詞はどこにも響かず。どこかに吸い込まれているかのようだった。

 雲だらけのセラピー空間から打って変わり、辺りは岩と暗闇。一応、松明のような、荒々しい炎の光が遠くの方に見える。辛うじて円形の空間に居る事だけは分かるが。それ以外はさっぱりだった。

 洞窟の中だなんて、声があちらこちらから跳ね返ってきそうなものだが。

 口に手を当てようとして、その手がないことに気がついた。

 何なら、天国モードのときにはあった肉体、その全身に感覚が無い。いわゆるゴーストやスペクターモードのようで、自由に飛び回るわけには行かないけれど、何に触れることも出来なかった。それに、何分心は生身なものだから、言葉のまま、死して幽霊になった気分だった。


「おや、やってくれるのは君だけか、出ておいで」


「うわ」

 

 浮遊感。

 急に空中に投げ出され驚いていると、光の塊が目を襲う。スポットライトのような円筒状の光が、俺を四方から照らす。謎の空中光源も気になるところだったけれど。ようはチュートリアルに当選したみたいだった。

 声。出せなかったはずなんだが。

 薄々感づいていたけど、思考は全て筒抜けですか。そうですか。

 どうやら俺は、幽霊モードから、無事受肉を果たしたみたいだった。


「まずは何でも良いから、自由に想像して。君には自分を守る兵を自由に生み出すことが出来る。モンスターだ。そしてそれを君の小さな魔界、君にとってはダンジョンといった方が分かりやすいかな。そこに指先一つでモンスターを自由に配置することが出来る」


 あー。あー、そういう。

 凄い力って。なんか漠然と力が強くなるわけじゃないのか。魔法が使えるとか。


「そしてそれらは、君が呼び出した。力の結晶から全て行える。形は、本かもしれないし、大きな機械かも知れない。コレばっかりはあたしにも分からないけれど、君は既に知っているはずだよ」


 知ってるって言われてもな。俺のファンタジーはいつもパソコンの向こうだ。

 

「コンソール画面みたいなもの。なのかな」


 半分自問であった質問の途中、周りに幾つもの気配を感じる。至る所からまとわりつく視線。それも心地よう物ではなく、まとわりつくような。

 気持ちが悪い。

 確かにそこに居るが、姿の表さない声の主。そして姿の無いなにか。おそらく俺と同じく連れてこられた人だろう。

 敵か味方か分からない奴らに、情報をやるのも馬鹿馬鹿しい。

 彼らも戸惑いつつ、俺を試して、そして生き残ろうとしている。

 自分で体験できたのと、観察されるので良いことと悪いこと、半々か、

 口を閉ざして集中すると、ぼんやりとしたイメージはすぐに形となって、宙に浮かぶ平面のディスプレイとして現れた。

 パソコンをイメージしたはずが、計らず未来ガジェットみたいな感じになってしまったが。使いやすそうだしまあ良いか。

 書いてある表示にざっと目を通す。ダンジョンポイントなる表示。今は0だが、そのポイントを消費して色々出来るということみたいだ。

 何だアクションゲームを想像していたけど、ストラテジーだったか。

 罠、罠、罠。

 昔、魔王の娘が館に勇者を誘い出して、罠で仕留めるゲームがあったような。ダンジョンと言うぐらいだから、俺やモンスター軍団で戦うものかと思ったが。


「説明しなくても操作方法を察するとは。良いね、余計な手間が省けて。今ポイントをあげるから、試しに何か召喚してみてちょうだい。今回は特別に、初めは出せないような強力なモンスターを呼べるようにしてあげる」


 はて、モンスター。

 ポイントで出せるものはカテゴリーごとに並べられているけれど、どこを見ても罠ばかり。一部ポーションのようなアイテムもいくつかあるけれど、モンスターらしきシルエットはどこにもない。種、石、血、随分とアイテムカテゴリーは豊富で、コレで代わりとでも言いたげな画面だったけれど、初めから最後までスクロールしても、モンスターの姿は1つもなかった

 

「あれ、君。もしかして一体もモンスターを召喚できないのかい。まさかそんな人が居るだなんて、ついていない子だねえ。君は期待外れだ。どうせすぐに死んじゃうだろうねえ」


 突然、強い力で打ったかのような衝撃を受ける。子供のときに、飛び込みに失敗して全身を水に打ち付けたときのようだ。幸い。息は出来る。

 思い出した。そういえば俺の体もついさっき劇的大改造されていたのだったか。

 殺されるかと思った。

 けれどこちらには目もくれない。興味を既に失ったみたいだ。胸をなで下ろす自分に嫌気が差す。

 まじ許さねえ。やってることは神がかり的だが、どう考えても悪神邪神の類い。神さんが善良好都合になったのは、1神になってからか。ライバルがいるなら、神様なんて厚顔無恥の自由自在でもおかしかないわな。

 それはそれとして、いつかはぶん殴ってやるからな。覚悟しておけよ。


「仕方がないな、もう一人、誰か。誰も居ないわけ。君でいいや」


 一人の女の子が空中に放り出される。見たところ10代後半から20代前半に見える。だがその姿は、およそ人には見えなかった。鋭くとがった耳、まるで視認のように白い肌。不気味さの中に美しさが同居した、不思議な女だった。

 そういえば、俺も見た目は変わっているはずだな。鏡がなきゃ確かめられん。


「君も見ていただろう。召喚しなさいよ。ほら、速く」


 少し苛立った様子の、『声』は彼女にモンスターを呼び出すことを要求する。

 焦り、かなり手間取りつつ、手元に本のような端末を呼び出した女の子は、意を決したように指先で本を撫でた。


 巻き上がる風。まばゆい光。地面を突き破るようにして、巨大な腕のようなものが現れ、巨体を地中から引き上げる。爬虫類、あるいは竜のような見た目だが、肥大化した手足で地面に二足で立っている。手足に匹敵するほどの巨体と、凶悪な顔は人を食らう化物にふさわしかった。

 まてよ、ということは、俺はモンスター無しで、この化物みたいなのと戦わなきゃならないって事かよ。なんてクソゲーですかコレ。


「見よ。コレが君たちに与えられた力だ。この世界でも非常に強力な化物、その他様々なアイテム、設備をポイントと引き換えに入手出来る。そして、その力で人間達と戦って欲しい」


 やっぱり、俺たちは悪者側か。

 まあいいさ。それに忌避感はない。

 ただ。俺たちは駒 か。


「人によって得意な力が違ってね、何を召喚できるかも、人それぞれ。バラバラだけれど、それが力を持つことは違いないよ。人を殺すのに持って来いだ。持ち欄君たちが身を守る盾にもなる」

 

 『声』も明らかに邪悪な事だし。全く信頼ならん、おっと、思考はダダ漏れだった。

 


「他の魔界の主を殺す事で、力の一部を奪うことも出来るよ。私としては、別に人間達が沢山死ねばそれで良いので、君たちがどう行動するかは任せるけどね。だって、味方同士で争うだなんて、不毛な行為に何の意味もないだなんて、悲しいだろう。どうやらぁ、何も召喚できない人も居るみたいだけれど。クスクス」


 よく言うぜ。どう考えても、味方同士の戦いを助長するためのシステムじゃねえか

 思考を巡らせる。この後、どうなる。バラバラにその世界とやらに配置されるとして、俺を見つけた他の主達は、俺を殺しに来る可能性は高い。まるで、こちらが攻める側かのように言っているが、頭の良い奴は、自分の命がかかっている事ぐらい既に分かっている。とすれば少しだとしても殺して自分が有利になるのなら、殺す事を躊躇う理由はないはずだ。


「なあ、提案があるんだが。誰か俺にモンスターを売らないか。誰にでも得意な分野があるのなら、罠かアイテムか、分からないが、俺にも強い何かがあるはずなんだ。だから、交換という形で、誰か」


「そんな事言ったって」


「罠、アイテム、そんなものもあるのか」


「というか本当にモンスター出せないのかよ」


「そんな事も、あるのかよ。欠陥じゃないのか。もしかしたら俺も……」


「欠陥マスターだ」


「欠陥マスター」


 ああ、不味い。この流れはかなり不味い。やばいやばいやばい。少し急ぎすぎたか。せめて俺の能力を把握してからにするべき、どうやってだよ。

 どうにかして打開しないと。せめて


「はいはい、静かにしてね、じゃないと私怒っちゃう」


 どこからともかく、黒い矢がドラゴンもどきに突き刺さる。ドラゴンもどきの体はボロボロと崩れ去り。あれだけ恐ろしかったというのに、跡形もなく、いとも簡単に。断末魔すらもあげる時間は無かった。


「良くできました。前世から気分改め、それじゃあ、皆さん頑張ってくださいねー」


 最悪だよ。馬鹿野郎。


「君たちが生き残り、そして、誰よりも強くなることを心から祈っているよ。また、会いたいからね」


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「結局、なんで敵と戦う必要があるのかとか何も聞けなかったな。まあ、シナリオがあることに越したことはないけれど、シナリオがなくたって良いゲームはいくらでもある」


 要はダンジョン経営シュミュレーションだろ。やってやるさ。

 これはゲーム。これはゲーム。良し。良くない。良くないよな。

 GAMEOVERの対価は自分の命。分かったよ。やってやるさ。その辺りは保険を確保しておくべきだろうけど。


「今はともかく現状把握だよな。なんでこんなことになったのだか」


 洞穴に松明一本、見たところ出口すらない。

 ここが俺のダンジョンか。ただの地下洞窟にしか見えないが。どこ、ここ。

 天井は、よく分からない。家の屋根以上には高そうだけれど、具体的な距離は分からない。家の屋根って7.8mぐらいかね。崩落がおっかねえ。

 端末のカタログは、さっき見たのとほぼ変わりなし。詳しく調べなならんな。俺のできない事だけ見せびらかされて、チュートリアルもクソもあるかってんだ。

 考え方を変えるか。あの『声』の言い様からして、おそらく俺の戦法は俺以外にとる必要は無い。モンスターを使えば良い他の視線に、俺の情報を与えなかったと考えれば、必殺の手札を残したと考えれ場、悪くない。

 モンスターこそ呼ぶ出せないが、俺もあの杯に適合したんだ、モンスターに代わる俺にしか使えない力とやらがある、と想定して。後は最大の効果を発揮させれば良い。


「はあ、101万ポイント。随分多いな、そうか、俺がモンスターを召喚できなかったから。バグだろうけど、ありがたく使わせてもらうとして」


 中途半端な数値。おそらく本来貰えるスターターポイントは1万なのだろう。

 競争相手との100倍のアドバンテージ。棚ぼたで貰えた訳だが、モンスターが出せない事とで、釣り合いが取れてしまっている。せいぜいトントンた。

 大したアフターサポートだ事で。

 何にせよ、余裕があると言うのは心が洗われる。今に思えば、考えがそこまで至っていない、相手からヘイトを集める、悪手だった。

 今に思えば、俺に観客共の声が聞こえているのもおかしい。よく考えれば、幽霊状態では、他者にコンタクトは取れないはずだった。大方『声』のサービスだ。

 ポイントが手元にもこったのも、考えすぎだな。

 

「大体、どこがチュートリアルだ。どうせ用意したオモチャを見せびらかしたかっただけの癖に。端末に、先ほどよりもよほど詳しいチュートリアルが書かれているのが唯一の救いかね」


 きっとコレを作ったのは『声』とは別人に違いない。


「大した墓穴だよ。全く」


 端末を見ると、エイジアのダンジョン1層エリア1と表示されている。エイジアって誰だ。まあ、俺のことだろうけどさ。

 さっきから、自分の名前みたいな、重要な記憶。アイデンティティーに関わる記憶が呼び起こすことが出来ない。なるほど、大した、優しい配慮だ。

 新しい土地には新しい名前が必要だって。余計なお世話だ。


「ダンジョン一層につき、部屋は最大9つ。3×3の集合体でダンジョン一層。それ以上に部屋を増やしたければ、新たに階層を買わなければならない。部屋と部屋は通路で接続でき、地上と全ての部屋は、通路や特殊な罠で全てがつながっていなければならない。引きこもリは許さないとな。ゲーム的だ。俺好みな制限だね」


 階段は自由な位置に設置できるが、一層につき上下に1つずつしか設定できない。三次元的な立体ダンジョンは禁止と。まあそんなに問題じゃないな。

 俺たち魔界の主は、どうにかして人間を攻撃ないし滅ぼさなきゃならないわけだ。国家なのか民族なのか、実地調査しなけりゃそこらは全く分からないな。


「一番初めの部屋だけは無料か。ポイントゼロで出口がありませんじゃ、本当に墳墓になってしまうからだろうけど。ソシャゲじみてきたな」


 とりあえず、無料の部屋を開放しておくか。

 地響きでも起こるかと思ったが、特に派手な演出はなく。俺が今居る空間の隅に、そっと階段が出来上がっていた。アレを登ればダンジョンの部屋につながっているのだろう。


「長期的には、人間対策を考えるとしても、中期的には同業者から身を守らなきゃならんよな。あれだけ目立ったんだ、きっと金属系スライムかなにかと思って襲ってくる。そのためにも、今はまずポイントの確保と、そのためにポイント運用をか」


 座ろうとして、今立っている岩肌ぐらいしか、腰を下ろすところがないことを思い出す。


「照明と寝床ぐらいは、交換してしまうか。どうせ必要になるし」


 何の変哲のないベッドを呼び出し、そこに吸い込まれるように横になる。布団の魔力ってってスゲーよ。さっきまで真面目に頭使っていたのに、今はこんなに眠いんだもの。


「うん、超眩しい」


 調子に乗って、洞窟全体をほんのりと照らす魔法の光源を設置したものだから。洞窟内部は、さながら真っ昼間同等のまぶしさだった。

 後で建物も買おうか。

 

「さて」

 

 いつまでも馬鹿やってないで、真面目に考えにゃならんわな。


「ゼロから始めるなんとやら。猿でも出来るダンジョン運営を始めましょうや。ただし一部機能制限あり」

 

 階層ごとにレベルが設定されていて、それによって配置できるモンスターの数が変わるとか。配置するモンスターがいないから、詳しくは分からないが、どうやら戦力が多くてもそれだけではダメなようだ。

 階層を増やせば、配置できる戦力が大幅に増えるがコスト高。レベル上昇は消費ポイントはほどほどだけれど、上昇量はそれなりとみた。

 実際の上昇量は書かれていないけれど、このポイント消費量の差分で、同じ効果だったらあまりに階層を増やすのは損に過ぎる。


「その内どっちも試すことになるんだろうけど。答えはそのときまでお預けとして。問題はモンスターを一切配置できないことだよなあ」


 配置できないというか、配置する駒がないというか。

 ちなみに、この初期空間は部屋として認識されていないらしく、配置コマンド自体がグレーアウトしている。先ほど解放した1層1ブロックに合わせると、表示はNoMob。これがソシャゲなら、召喚はこちらというバナーがした当たりにくっついているだろう。


「まずは、モンスターを召喚しましょうじゃねえよ。召喚するモンスターが居ないんだよ。察しろよ」


 読めば読むほどチクチクとシステムコンソールに煽られている気がする。

  

「このシステムだと過剰に部屋数を増やすメリットがよく分からん」


 書かれ方からして、層ごとに配置できる戦力の総量は決まっている。部屋に対してモンスターがあふれているのならともかく、基本的には1つの部屋に集中配置した方が相手の損耗率も上がるはずだ。

 必然、全ての部屋に戦力を分散配置すれば。それだけ突破は容易になるだろう。波状攻撃と言えば聞こえが良いが、相手が自由なタイミングで移動できるのだから、各個撃破にしかならない。

 あまりに密集させすぎると。火炎瓶みたいなエリア制圧出来る攻撃に対して弱くなるけど、それにしたって相手に何かしらリソース消費を強られて居るのなら、バラバラに配置するよりは強力なんだよな。

 そもそも、軍団として強いモンスターユニットを数揃えるのも、集中させている訳だけれど、召喚できるのならドラゴンもどきしかり、デカくて強いモンスターを1体出す方がわかりやすい。

 問題は高位の罠やモンスターをとうやって出せるようにするのかだけど、詳しく書かれて無いって事は、試行錯誤して自分で見つける他あるまい。何しろお仲間の助言は期待するだけ無駄だろうから。

 分散設置も4部屋使って3方向からの他面攻撃とかが出来るのなら、意味がありそうだけれど。配置したモンスは自由に部屋を移動できないっぽいんだよな。

 例外として、敵が近くに居ない部屋では、モンスの移動が出来るようだけれど。残存兵力を逃さないために、退路を塞ぐぐらいだろうか、使い道は。それも何十人も人を用意して、部屋に人を残していけば良いだけだ。


「余裕がある時は部屋の中に伏兵を残しておくとかも、本来は戦略としてあるのだろうけれど、俺には関係無いしな。さっきは勢いでモンスターを買おうとしたけれど、同業者と取引が出来るのかも不明だし」


 システム的な手段が無いのならどうなるんだろう。ペットみたいに、しつければ言うことを聞くとかじゃないだろうし。そもそも召喚したモンスターって絶対服従してくれるわけ。絶対に死ぬ命令とかも聞いてくれないと戦略立てられないよな。フラグ管理されていない反逆要素とか、要らないよ。人間相手ならともかく、モンスター相手にどうやって好感度を測れと。


「出来ない事って、一層想像が膨らむよね。隣の芝がなんとか、あるいはただの現実逃避」

 

 俺の場合端末の、ポイント交換カタログをスクロールしても罠ばっかり。どうやら消費型のアイテムや道具もあるようだけれど相当な数。コレを全て確認するのは大変そうだ。


「確認しない選択肢はないけどね」


 何せ俺の生命線。罠がダメなら、最後は俺が戦うほか無い。

 初めはアクションゲーも想像していたんだ、これだけの数のアイテムなら人並み以上の強さを得られる物も何かあるだろう。覚悟は作れるが、それは最後だな。最後の札だ。

 力が、ジョーカーなら。命はいわばオールイン。懐に仕舞って置けるのならそれに限ったことはない。


「となると、問題は」

 

 罠の設置数だろう。部屋と通路には罠にカテゴリーされる物を配置できる。だが、部屋と通路に1つずつしか、罠は設置することが出来ないらしい。モンスターと比べ、随分とケチケチしている。

 罠は罠で、コストが設定されていて、たった1つしか配置出来ませんとかよりは随分マシか。何せ、偶然ポイントだけは持て余している。一番強力で対処不能な罠を、全ての部屋に設置するみたいな戦法も取れる。


「ただ、1つだけってのはちと不味い」

 

 他の主にとっては戦術が制限されるぐらいの話だが。俺にとっては死活問題だ。

 強力な罠を擦り倒すなんて戦法は、強力無比な罠が無ければ始まらない。弱い罠でも複数の罠を組み合わせることで、罠の有効性は随分違う。当たれば強い罠と、行動を阻害する罠が並んでいるだけで脅威度は2倍なんて話ではないのだ。他の人は、罠とモンスターを組み合わせてコレを行えるのだろうけど。


「弱くても良いから、俺にもモンスターくれよ。頼むから」


 罠の設置数が増やせないなら、部屋を増やすしかないだろう。もしかすると、早急に2層を購入しなければならないかもしれない。

 何にせよ、俺の場合はまずは一層の部屋を全部買まではマストだな。


「通路は大したコストじゃないけど。部屋を9つで1万点。本来の初期ポイントから考えると随分高いが、何でか買えてしまうんですな」

 

『声』はまったく気に入らないが、今は棚ぼたに、感謝しておこうじゃないか。じゃなきゃモンスター無しで戦えるかってんだ。

 ちなみに2層を買うのに5万点。部屋の値段は不明だ。部屋全てを揃えるのにいくらかかるか分からないが、いくら100万点があっても躊躇われる数値だった。

 ただで貰ったポイントだが、浪費するには少々高い。部屋を増やすのにより多くのポイントが必要だとしたらなおさらだ。

 2層ってぐらいだから、1層より部屋が広いとか、コストが高いとか、何かボーナスがあるなら良いけど。具体的には罠の設置数が増えていると良いのだけれど。それは買ってみなければ分からない。ただ、9個部屋を増やすために払うには、余裕が足りなかった。

 

「不自由だな。」

 

 この『声』から与えられた力。きっと意図的に制限されている。奴が見たいのは俺たちの接戦であって、圧勝ではないのだろう。

 そうじゃなければ、ポイントなんてまどろっこしい仕様にする必要なんて無いはずだ。あのドラゴンのような巨獣。アレを簡単に生み出して、殺して見せた。あの程度パフォーマンスでいくらでも出して殺して、自由自在の消耗品。

 初めから、戦力なんていくらでも生み出せるというのに。


「世界を超えるコストがどれだけか、知らないが。俺が『声』なら、俺たちを呼び出す意味なんて感じないね」

 

 生き残りたければ強くなれ。強くなりたければレベルを上げろ。レベルを上げたければポイントを稼げ。ゲーム的なのではなく、ゲームなのだとしたら。どうだ。しっくりくる。

 変わらないね。例えゲームでも、何も変わらない。

 俺は全力で攻略すれば良い。


「ポイントを稼ぐにはどうすれば良いか」

 

 答えは、一杯殺しましょうだ。

 ダンジョン内で、生き物を殺せば相応のポイントになる。ダンジョンの部屋を全て制圧されると、ポイントを全て失う。

 外で生き物を殺した場合は、半分のポイントが貰える。

 そして主としての資格も失うと。事実上の敗北条件がコレか。

 適度に攻め、ダンジョンを守りつつも、敵を引き入れなければならない。なんと厄介な。


「俺の場合、ポイントがあるから時間だけはある。急ぎすぎることはないが、いずれかはポイントを得るために、ダンジョンに積極的に人を引き入れなきゃならないと」


 理由はいくつかある。

 俺たち魔界の主、ダンジョンマスターは、一般的な食事は必要ないらしい。吸血鬼やら伝承の化物みたいに、人間らしい行動を縛られている訳ではないようだけれど、決して食べることは可能だけれど完全な趣向品だ。

 代わりに、なんらかの方法でエネルギーを獲得しなければならない。便宜上、魔力と呼ぶが、コレを得るには現状、ポイントから魔石というアイテムを生み出し、摂取する他に方法が無い。

 このゲームへの不参加は許されないみたいだった。

 仮に、何かこの呪縛とも言える魔界の主システムを抜け出す方法を見つけたとしても、きっと俺はずっと、あの『声』に怯えながら……


「今、気にする事じゃねっ」


 といってもなあ。複数の罠が使えない以上、単体で殺傷力のある罠か、俺が直接出向いても安全な状態に出来る罠じゃないと、仕掛けるだけ無駄になってしまう。

 足止めや行動阻害は、モンスターがいなければ時間稼ぎにしかならないからだ。

 1つの部屋に複数の罠を仕掛けられない以上、単体で防衛できる罠でなければならない。普通の落とし穴も、人間を隔離できると言う意味では有効だが、仲間に助けられてしまったり、貴重な罠設置枠を消費することを考えると、今は実用に満たないのだ。

 

「スパイクホール、ワイヤーブレード、隠し刺突剣。溶解液シャワー、首つりの木、迫り来る壁。どれも単体では微妙だな」


 

 直接命を奪えそうなトラップは、ここらだろうか。細かい説明もあるようだけれど、名前だけでだいたい想像がつく。

 品数が多いのは結構だけれど、根本的に理不尽さとか、意地悪さが足りねえ。

 確かに決まれば全滅、あるいは確実に一体ぐらいは殺せそうで、言葉だけでもどこか恐ろしいけれど、それは俺のいた世界の発想だ。あのドラゴンもどき。アレを殺せるか。穴に落として、切さいて、溶かして、、吊して押しつぶし。たったそれだけで殺せるのか。

 否。

 もっと特別な何かが必要だ。特別な力が。


「人間相手ならそれでも良いのかもしれないけど、それにしたって100人とか一気に侵入してきたらどうにもならん。罠をこまめに変更しなきゃ、すぐに対策されるだろうし。おちおち寝ている暇も無い」


 いっそのこと俺が部屋を監視して、アドリブで罠を設置するとか。どうやって監視するんだ、俺が直接出向かなきゃならないのなら一部屋しか使えないよ


「やっぱり、命を使う他無いのか。確かに装備は沢山強そうなのがあるけれど。所詮は素人だぞ。オートエイムの自走砲やガトリングのタレットでも無きゃ。そこまで行けばもう装備じゃなくて罠の範囲だな。そんな設置物カタログにないけど」


 隠しクロスボウって。やる気あんのか。

 もしかすると、伝説のクロスボウで、城を吹っ飛ばせるとか。

 そんなの、ダンジョンが壊れるわ。


「グギャア」


異物が入り込んだ音が、思考を遮る。


「おいおい。俺はダンジョンを地上とつなげた覚えはないぞ」


 もしや、1層に部屋を出したから、自動的に地上につながったのか。

 緑の肌、小さな体。二足で動き回るそれは、妖精あるいは鬼。いわゆるゴブリンのそれによく似ていた。

 ゴブリンの体は薄汚く、少しばかり触るのが躊躇われたが、お互い武装もなく。身体能力は未知数。明らかなのは。


「やっぱ重さは正義だよなぁ。この世界で物理がどこまで通用するか分からんけど」


 一直線に走り込んだまま、無造作に飛び、そして喉の辺りを蹴り抜く。圧倒的な体格差は、威力と速度において有利を産む。頭は固く鋭利なパーツが多い。狙うべくはもっと柔らかい急所だろう。

 ボールのように地面をはねる。まぐれで、しっかりと喉を潰した感覚があったが、ゴブリンはすぐに立ち上がった。軽いから力が逃げたか。

 さすがゴブリン、虫並みの耐久力だ。数々の女冒険者を屈服させてきただけはある。ゲームの中で。

 とはいえ、所詮ゴブリン。無傷ではないようで動きが遅い。出血している様子は無いが、自動回復の能力がなければそのうち死ぬだろう。


「放っておいて悪さをされても面倒だし、ここは1つテストをしてみようか」


 ゴブリンの後頭部をわし掴み。抵抗しないことを確認する。

 先ほど解放した、一層唯一の部屋に落とし穴を設置し上に登った。

 初めて足を踏み入れた部屋はだだっ広い洞窟で、わずかに分かれ道もあるが、一本道になっていた。

 真っ暗な洞窟の中を、松明片手に進んでいると、何かが壁を透過して発光しているように見えた。先ほど設置した落とし穴出あることはすぐに分かる。それはかなり大きく、洞窟の床を遮るように設置されていた。

 コンソールで細かく指示すると、この穴を小さくして2つにしたり、場所を変更することが出来るようだ。

 それと、部屋の形も、ポイントを追加消費すればカスタマイズ出来るようだし。色々試さなければ。

 ゴブリンを落とし穴の真上に放り投げる。すると、ベチっと音を立てて転がった後、音もなく、するりと落下した。

 何かが乗るとそれを確認して、床がなくなるらしい。

 さすが、ダンジョンのトラップ。仕組みも不思議だが、音もなく起動するのはかなり強い。少なくとも前世の俺であれば、100回踏み抜く自信がある。


「やっぱダメだな」


 悪くない。悪くはないのだ。確かに部屋に1つしか設置できないだけはある。だが。


「何十人も一網打尽とは行かないし、少なくともこの仕掛け方では全く後続を足止めできない」


 穴の底をのぞき込むと、まだ胸が上下させたゴブリンが横たわっている。登ることは出来ないだろうが、やはりポイントも増加していなかった。


「こうなると頼みの綱は罠以外、アイテムか」


 コンソールのポイント召喚対象の一覧には、モンスターが一切ない代わり、罠とアイテムが充実している。

 コレで起死回生となるアイディアが湧かなければ、いよいよ最終兵器たる俺が、戦う事に。

 俺が死んだら終わりという意味で最終である。


「一応回復ポーションみたいなのもあるみたいだけど、回復してくれる味方が居ないんだよなー。どうやって瀕死の自分に使えと。おや、これは」


 パラノイアボトル。へえ、浴びせると、人格を破壊するアイテム。俺を含め他の主には効果が無いが、人間には大なり小なり効果あり。

 アイテムもなかなかラインナップが豊富だ。武器や防具の数は少なく、人に作用するアイテムがやけに多い。コレが俺のカタログの性質なのだろうか。てっきり罠が多いから、モンスターがいないのだと思っていたが、罠なんかよりもよほど使えるかもしれない。


 アイテムと組み合わせる罠。さっきは殺傷力の面から除外したが。罠空箱から、アイテム効果を部屋に蒔くスプリンクラーみたいなものと色々ある。

 何より、俺が瞬時に使用できる辺りが優秀だ。

 今までの傾向から、どうせ敵が居る部屋だと、罠を再設置や別の罠に変える事が出来ないだろう。全身鎧でガチガチに固めつつ、罠を召喚して戦うなんちゃって罠魔法戦士は、ジョブチェンジ前に廃業だ。

 アイテムと罠を組み合わせて運用するのは色々と夢が広がる。

 足止めした敵にアイテムだけ使って、俺は別の部屋似逃げるだとか。猛毒をトラップに塗っておいても良い。


「いっそ、飲むだけで強くなるスーパードーピングドリンクとかあれば。無限にアイテムをなげ続けるアイテム戦士もありだな」


 殺傷生の高い罠にこだわっていたのは、罠の情報を持ち帰られるのが一番の損失だと考えていたからだ。同じ部屋に同じ罠。もし毎回場所を変えたとしても、結局シチュエーションはパターン化する。もし、部屋の構造が毎回変化する不思議のダンジョン形式だったとしても、制作者が俺しかいないのであれば、傾向は偏る。

 単純にアイテムが増えればやれることが増える。やれることが増えれば対策も打たれにくくなるし、こちらが後出しで対処出来る選択しガ増えるのはかなり良い。

 何なら、ダンジョン外での殺傷だと、貰えるポイントが減るみたいだが、近隣の町全てに毒をまいても良いだろう。


「なんとかなりそうな気がしてきたぞ。唯一の弱点は、罠と違って、使うたびにポイントが目減りする事だけど」


 なにせ罠1つと同等の効果が期待できるアイテムたちだ。ポーションとかと比べてもかなり高額だけれど。

 おやこれは。


「これは良いアイテムを見つけたかも」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「こんな所に洞窟なんてあったかしら。何にしろ、今はありがたい」


 事の始まりは、町の周囲を囲う森での行方不明者が急速に増えたことだった。

 そこで行方不明者の行き先を調べてみると、東に向かった人が多い事が分かっていた。その他に、何やら見たことのないモンスターが現れたと言う報告も複数あがっている。

 何かしらの変化が、この森に起こっていることは間違いなかった。

 ただ、噂を元に人をまとめることは出来ない。かと言って、そのモンスターが町を襲ってくれば、多くの被害が出ることは間違いない。

 そんなわけで、噂の真相を確かめるために偵察にやって来たのだけれど、そのおかしなモンスターがこれほどの脅威とは思わなかった。

 個体の屈強さもさることながら、こんなにも数を増やしているとは。おそらく1対1だったとしても、町に勝てる人は少ないだろう。

 状況を確かめ次第町に戻るはずが、逃げている間に、すっかり暗くなってしまった。


「随分統率が取れていたけれど、見た目はバラバラなのよね。ただ体が真っ黒に塗りつぶされたかのようになっているだけで。なんにしろ、夜にあの黒塗りから逃げるのは厳しいわね」


 生憎、野営の準備は整えていない。素早く発見し素早く戻る。もし緊急性が高いモンスターの襲撃だったら、ゆっくり町に戻る余裕はない。そのための単身行動だったのだけれど。


「今回は完全に裏目に出てしまったわね」


 野営の経験は何度もある。だが、一人ではとても安全なんて確保できない。それに森の夜は相当冷える。マントも無しだと、朝にはすっかり動く体力を失ってしまうだろう。

 洞窟の中で明かりを出す勇気は無いけど。風がないだけでだいぶマシなはずだ。


 洞窟の中は思っていたよりも広く、かなり下の方に続いているようだった。

 やはり、これだけ大きな洞窟があれば、地図に載っていてもおかしくないと思うのだけれど。黒塗りといい、この森は何かがおかしい。


「これは階段。人工物かしら」


 なめらかな質感の階段は、1つ1つ磨き上げたかのようで、およそモンスターが作ったようには見えない。それこそ町一番の職人が切り出したかのような質感だった。それがぽつんと洞窟の中にあるものだから、異質さがより目立つ。

 体の芯から冷え込むような、形容しがたい不快感が体を襲うものの、偵察として正体を見極めないわけにも行かず。少し迷った後、階段を降りることにした。

 モンスターと戦う為には、まず己の恐怖と戦わなければならない。怖じけたからと、逃げ帰っていては、笑われてしまうだろう。


「随分長い。もう50段ぐらいは下ったと思うけど。やっとついた」


 ようやく下りきり、そこにあったのは狭い通路。相変わらず姿の映りそうな見事な作りだったが、層やら様子が違った。通路はとても入り組んでいて分かれ道はもちろん何の意味も無い行き止まりも多い。そのくせ特徴の無い同じような風景が続くものだから、すぐにコレが人を迷わせるたもの構造だと気がついた。何かこの先に人に見せられないものでもあるのだろうかと勘ぐるほどに。

 相手が誤算だったのは、私のようなモンスターを相手する人間にコンボような迷路は通じないと言うことだ。

 ダンジョンの中にはこんな迷路構造が度々あるが、私たちはそれを必ず攻略しなければならない。地図の書き方などある程度長く生きていれば誰かに学ぶことになるし、私のように、偵察が仕事のモンスター狩り達にとって、地図もなく切り抜ける事ぐらい難しい事ではないのだ。

 きっとこれは、私たち対峙屋と縁の無い人に違いない。ダンジョンのは無しを一度は聞いたことがあれば。

 ダンジョン。

 よく似ていた。この作りは少々狭いが、まさしく迷宮。ダンジョンで度々見られる構造だった。ただ、人が作ったとしか思えない、芸術性すら感じるこの石細工を除けばだが。

 そうかダンジョン。まるで長い歳月をかけて作られた神殿かのようで、そのような邪悪なものに見えなかったが、一度思いつけばそうとしか考えられず。ダンジョンであるのなら、尚のことここで引く選択はない。

 もし町の近くにダンジョンが出来たのなら、町全ての戦力を集め、対策を打たなければ。大変なことになる。


「これは泉かしら」


 迷宮の中。何か意味があるように配置された小部屋の中に、綺麗な水が湧き出ている泉があった。泉の水は冷たく、湧き出ているものだと分かる。まるで、ここは休憩所のようだった。


「よく分からないけど助かるわ。持ってきた水はすっかり無くなってしまったし」


 水を両手で掬い、口の中に入れた瞬間、体が異常をおこす。ものすごい眠気。いや、意識が溶けていく。とても恐ろしく、そしてどこか、気持ちが良い。

 意識がボーとして、なんだか、フワフワと。

 やがて何も考えられなくなり、何故ここに居るのかも分からなくなる。私は森、黒い人、モンスターを。私、私って、誰。

 私が溶けて。

 消える。

 

 きもち、いい。


 そこに残っていたのは、黒い水たまりのみ。女の姿も痕跡もそこにはなく、未だ泉の水は透明だった。唯一町を救えたかもしれない、その幸運にも不運な女性は、ただひっそりと生涯を終えた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ダンジョンを解放して20日、ダンジョン運営は順調だった。ポイント獲得量はじわじわと増え、日間レベルでかなり安定している。そして俺はダンジョンの中に閉じこめられていた。


「ラーメン食いてえ、海鮮食いてえ、焼き肉食いてえ。焼き肉、ホルモンとか軟骨とか白米が食いてえ。モンスターの肉は食えるか分からんけど、ホルモンはうんこ臭そうだよな。食事を取らなくても大丈夫だと分かっていても、どうにも腹が減った気がして落ち着かない」


 俺たち魔界の主。もう面倒くさいからダンマスでいいや。ダンマスはダンジョンの最終フロアとして、最終回層の一番奥に部屋を作ることが出来る。

 どうやら、自動的にダンジョンの最奥になるらしい、今俺がいるダンジョン2層を購入したときに、かつて岩肌だけだった正方形の空間は、自動的に一層から二層へと音もなく移動していた。

 ここが俺の生活空間であり最後の砦。もしダンジョンマスターが戦う事が出来るなら、事実上、ダンジョンは階層プラス1の規模があると考えて良いようだ。

 俺に限っては、ダンジョンを抜けてきた強者に勝てる訳がないので、ただの生活空間だけれど。

 もしポイントに余裕があるのなら。緊急的に侵入者と距離を離す事が出来る。そう、1層ではなく2層。本来買う予定のなかったそれを購入せざるをえない、トラブルが起こったのである。

 溶ける愛情。それが今回利用したアイテムの名前だ。一見ただの水に見えるこれは。非常に強力な猛毒だ。

 この状態の溶ける愛は肌にかかっても、生き物の体内に取り込まれると、急速に作用しその体を、ドロドロに溶かすのだ。

 これだけなら。触れただけで怪我をするような罠に劣るが、このアイテムの本領はその後である。溶けた体はやがて独りでに動き出し、真っ黒な現し身、スライムとなって活動を始めるのだ。

 元となった個体の習性を真似しつつ、このスライムはかつての同族を襲う。そして捕食してしまうのだ。これまで10日以上観察してきた所その後の反応は半々に分かれる。半分はそのまま、ボコボコと、スライムの体の中で暴れつつも消化され、もう半分は新たなスライムとして増殖するのである。

 言わば一度使用すれば、勝手に同族感染する、非常に攻撃的なアイテムなのだが。

 最大の誤算は、生まれたスライムがダンマスすらも襲う事だった。

 本来野良のモンスターはダンマスに興味を示さない。別に中立というわけではなく、どうやら、奴らにとってダンマスはとても見えにくいという性質があるらしい。もちろんダンジョンの中に入ってくることもあるし、ダンマスが召喚したモンスターと戦闘する事もある。ただ、ダンマスのことを見たり聞いたりすることが難しいようだった。

 さて、では人間を溶かして作った、スライムは、人なのかモンスターなのか。

 正解は限りなくモンスターに近い人である。

 このスライムを作るとき、ダンジョンにポイントが入らない。スライムが同族を殺した場合はポイントが入るが、増殖した場合はポイントが入る事はない。つまり、この溶ける愛情。生きたまま人間をスライムにする毒なのである。

 そもそもの性質を考えれば当然だった。これは本来、俺たちダンマスが、スライム的性質を獲得するためのドーピングアイテムだ。しかし、これはダンマスにしか使う事ができない。俺たちが初めに飲んだ杯と、同質の物らしく、適性がなければ、意思無き化物となってしまうのだ。厳密には毒ではなく薬。ポーションなのだ。

 ここで思い出してみよう。モンスターは、ダンマスを積極的に攻撃しない。一方人間は、積極的にダンジョンに攻めに来る。

 問題、人間だった頃の性質を残したままのスライムちゃんは、その後どうするのでしょうか。答えはダンジョンの下へと向かうだ。

 つまり現在ダンジョン上層では、人間ぐらい簡単に返り討ちにするスライム軍団が這いずり回っているのである。

 いや、歩き回っているのほうが正しいか。

はじめは ものすごく焦った。

 このスライム化トラップのような自信作を、幾つも上層には揃えていたが、それは人型の生き物を想定したもの。

 考えれば分かりそうなものだが、当時の俺はまさか自分で作ったスライムに襲われるとは思わなんだ。反逆されて、稼働2日目にして大ピンチである。

 何せ、人が近くに居ると、ダンジョンの編集できない。スライム用の罠を再設置することが出来なかったのだ。

 とっさに残しておいたポイントで2層を購入し良いもののいきなり、ゲームオーバーになるところだった。直接毒を飲ませていたらとんでもないことになるところだった。

 あるいは初めの一体を、召喚できるモンスターで作れば、その召喚物も従順なのかもしれないが、その場合はきっと溶ける愛情は召喚できないのだと思う。

 そんなこんなで、あまり広い部屋に居るのも気が収まらず、あえてかつて暮らして居た部屋と同じぐらいのサイズの小屋の中で、ぬくぬくと布団に包まれていたのだった。


「お、新しい探索者だ。頼む1層を抜けてきてくれ。いい加減に毎回罠を見に行くのも面倒になってきた」


 2層の入り口には、スライム対策として、ダンジョンの外に強制転移するトラップを仕掛けてある。このトラップは、とても視覚で分かりやすく、てきに利用されればいつでもダンジョンの外に帰ることが出来てしまったりと使い所が難しいのだが。スライムは元の人間の真似しかしない。ほとんどの攻撃トラップが機能しない代わりに。細い通路に等間隔で転移トラップを仕掛けるだけで仮想への侵入を防ぐことが出来ている。

 外の様子に関しては知る余地もないが、1層は完全にスライムに占拠されているものの。逆にダンジョンの安全と、ポイントを勝手に確保してくれていた。

 当初の予定と違えど、快適ではあるのだが、そのままにもしておけず。このダンジョンを乗っ取られたままでいるのは、いざ強大な戦力が攻めて来たらと考えれば不安で仕方がなかった。

 ダンマスは、ダンジョン全体の様子を細かに把握することが出来る。

 一片100メートルはあるかという、なかなか広いダンジョンを。自由に操作できるカメラと、敵味方が全て強調表示される地図情報のおかげで見逃すことはない。しかも相手には気がつかれないという高性能。

 本人すら知らない詳細な顔つきから、スカートの中まで、のぞき放題である。

 ついでに罠が動作する度に、アラームが流れるので、万が一地図で敵の位置を確認できなくとも、奥に進めば何かしら予兆がある。立ち入ることが出来ない1層のことも自分の庭のように把握していた。

 おかしい、自分のダンジョンのはずなのに。

 

「いいぞ、スライムと遭遇せずに進んでいる。しかも今はかなりスライムの数が少ない。運が良い。いや、スライムを避けているのか。もしやこの女、かなり優秀なダンジョン攻略者なのかね。じゅんびした罠が全く機能しないとそれはそれで困るんだが」


 侵入者は良くも悪くも順調に進行していき、とうとう2層までたどり着いた。

 そこにある見え見えの転送罠に怪訝な顔をしつつも、罠を飛び越えながら、こちらに進行してくる。転移トラップは初めから期待していないが。それに限らず。この女は俺が今設置できる罠は全てくぐり抜けられてしまうだろう。おそらく正面から戦えば、肉体性能ならともかく、戦闘技術じゃ勝ち目がない。望んだことだったが、かなり危険な状況だった。


 女は何もないように見える所をそっと飛び越える。


「やっぱり罠は効かないか」


 2層には一部屋につき2種類のトラップを設置することが出来る。本来は足をそぎ落として、転んだスライム共を全て外に送り返す罠なんだが。こうも見切られてしまっては。やはり罠は機能しないな。

 

「だが今、油断しただろ」


 飛び越えた先、は十字路になっていて、その左右はどちらも他の部屋につながる通路になっている。

 ダンジョンでは部屋と通路、それぞれに罠を仕掛けることが出来る。本来通路では、中に侵入してきた敵に対して仕掛けるのが定石だと思う。

 通路と部屋の間は、頑丈な扉を仕掛けることが出来て、触れることで簡単に開くが、一人ずつしか中に入ることが出来ない。中の様子を外から確かめることも出来ないので、モンスターを配置できないながらもかなり厄介だ。確実に通らなければならない場所に、いかに予想外で効果的な罠を設置するか。それが重要だ。

 けど、別にそれを部屋に向かって使っちゃダメなんて文章はかいてないんだよなあ。

 本来ありえないの第3の罠。空中の女にめがけて飛ぶ仕掛けクロスボウのボルトは、真っ直ぐと突き進み、その脇腹を剔り取った。

 初めて与えたダメージ。攻撃を受ける想定じゃないのか、くろすぼうが思いのほか強いのか。肉がえぐれ、随分と痛そうだけれど、アレじゃあ、死にはしないだろう。俺のカタログではまだ普通のボルトを射出するクロスボウしか設置できなかった。だが、敵がたった一人で、来る場所とタイミングがわかりきっているのなら、侵入者が来る度に鏃に麻痺毒を塗っておくぐらいは出来るんだよ。

 面倒だけどな。

 アイテムと罠の組み合わせ。アイテムを前提としている罠は例外だが。多くの罠は、アイテムの効果はすぐになくなってしまう。毒などを罠に塗っておいても、1時間ほどで効果が消え去ってしまう。

 麻痺毒は、女の体に即座に回り。

 俺はようやく女の捕獲に成功したのだった。


「こうしちゃいられない。この機械を逃したら、次があるか分からん」

 

 俺は考えていた。

 確かに今の防衛体制は強力である。

 スライム達は俺の制御から離れ、だからこそ、本来のモンスターのコスト制限を超えて徘徊している。

 モンスターを元にした個体は森はダンジョン周辺を徘徊し、ダンジョンを襲ってきた人はを元にした個体はダンジョン内を徘徊し続ける。

 こちらの意図した配置が出来ないという欠点はある。それでも今後、戦略的重要度がどんどん下がるだろう1層を今後も活躍し続けるキラートラップに帰る事が出来たのは、悪くない。何ならスライムを強化なり、別のダンマス強化アイテムを悪用して別のモンスターを解き放っても良い訳だ。

 しかし、釈然としない。

 この状況を狙って作ったのならともかく、偶然の事故。しかも俺自身が閉じ込められているというのは、気に食わない。

 深く悩む必要は無い、簡単な解決方法がある。俺がスライムより強くなってしまえば良いのだ。


「聞こえないだろうけどさ。そもそも、この制御不能のスライム達は、俺たちダンマスに使うはずのアイテムが暴走して増殖したわけだよ。なら、俺に別のダンマス強化アイテムを使えば力負けしないはずだったんだが」


 いくら、人をやめたらしいと、テキストばかり眺めていても、鏡に映る姿は人からたいして離れていなかったわけで。いきなりスライムの化物になるのはどこか躊躇われるわけでして。俺は現状入手出来る強化アイテムの内、肉の塊のまま強くなれそうなアイテムを選んだのである。


「ところがだよ。この世界のモンスターや、人間とはベースの身体能力が大きく異なっているのか、コレがまるで敵わない。いや、スライムに襲われても死ななかったから、効果があるというか、良かったんだけどさ。そこで俺は思いついた、現地の生物を従順な配下にしてしまえば良いと」


 貰った100万点はすっかり無くなってしまった。何せ、あのスライム共を作りだしたアイテム。溶ける愛情を買うのに20万ほど。2層までの改装に50万。

 俺がスライムを倒す為に使った、ダンマスを強化する丸薬が10万ほど。その他雑費を引いて、残りは10万と少しだ。

 最後に購入したダンマス強化アイテム、夜の天使。

 見た目は小さな繭のようで、少しつかうのが躊躇われる。コレを使うには、先に件の丸薬を使っていなければならないらしい。それだけ強力なアイテムと言えよう。

 何せ丸薬を飲んだときも、耐えがたい痛みと共に、俺の顔を鳥のような仮面が覆った。この仮面は、外そうと思えば、解けるように光の束となり、仮面の化物になるのは避けられたけれど、本気で戦おうとすると必ず実体化する。ペストマスクのような仮面になんの意味があるのかと思ったが、実際に動いてみると、かなり体の調子が良い。

 杯の力がアスリートレベルの身体能力を与える物だとしたら、これは化物のような力を与えてくれる。


「考えてみれば悪役じみた台詞だな。悪の手下にゃ違いないけれど」

 

 白い繭を一息に飲み干すと、俺の体に変化が生じる。仮面の丸薬を使用したときと同じだ。体が内側から作り替えられていくのを感じる。全身が裏返るような痛みが走り、やがてそれも馴染んで消える。

 全身を脂汗が覆う。雨の日かのようなざまで、今すぐに風呂に入りたいぐらいだが、苦痛にはそろそろ慣れてきて、気を失うことはない。

 気がつけば俺の背には透明な羽根が生えていた。

 夜の天使。

 命名者は、羽が生えていれば全部天使だとでも思っているのだろうか。最もこの羽に飛行能力はない。身体能力も上がるそうだが、能力は眷属作成である。


「あまりおしゃべりをしていて麻痺が解けても困るな。いかんせん話し相手がいないと独り言が増えてダメだ」


 女の頭を掴み持ち上げる。


「眷属作成」


 透明な羽が大きく広がり、彼女の体を覆い隠す。羽の先から彼女の体に管のような物が突き刺さる。


「あっあっ。あーあああ、アアアアーーーー」


 その状態で10秒か20秒。彼女の全身が血管のような隆起した筋に覆われ。そこから白く染め上がる。

 今更目覚めたらしいが、もう遅い。


「ハッピーバースデイ」

 

 髪の毛が抜け落ち、まるで胎児のように、手足が丸まりつながって、大きな塊となって、繭に包まれた。

 胎動する。

 ベチャリと白く濁った液体をまき散らして、繭が割れる。生まれ落ちたのは、体の名残を殻のように纏う、小人。女性的な姿の名残は、二つに割れた殻にのみ。グロテスクな白に覆われ、紙粘土で作ったような胎児とも鳥とも言えぬ顔をした、化物がそこにはあった。


「ますたー。はじめまして」


「ああ、よろしく頼むよ。コレで外に出られる」


 コレでようやく外の様子を確認できるというものだ。


「そとへむかいますか」


「いや、せっかくだし。お客様をもてなしてからにしよう。新たな侵入者だ」


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「おい、探索者。鬱陶しいから、ちょろちょろと動き回るな」


「すみません」


 人を待っているときはどうにも落ち着かない。偵察に出た人を待つときは特に。

 

「どうだ、斥候は帰ってきたか」


「ダメです。規定の時間になりましたが、消息不明です」


「分かった。これだから探索者などには任せておけん。斥候は死んだものとして、内部に突入する」

 

「待ってください、メイヒアさんはきっと生きています。もう少ししたら、きっと戻ってきます」


 メイヒアさんが斥候として、このダンジョンに入り2日がたった。けれど、メイヒアさんに限って死んでしまったとは思えない。

 あの人ならスライムなんて、簡単に勝つことが出来る。とっても強いのだから。それに、きっとスライムに見つからずとも、どこまでも進めると思う。

 それが戻ってこないということは、きっとスライム以外の敵がこのダンジョンに居たのだ。今回の討伐隊の装備はスライムの排除に特化している。このまま突入すればみんな負けてしまうかもしれない。

 本音を言えば、今すぐにメイヒアさんを手助けしに行きたい。けれど、今までモンスターを倒してきた、探索者としての経験が、今はメイヒアさんを待つべきだと、語っていた。


「だからなんだと言うんだ。もし生きていたのならそれでよし。だがスライムの増殖スピードを考えるとこれ以上野放しにするわけにはいかない。だから突入する。何かおかしいところがあるか」


「いえ」


「頭を使ってから発言しなさい。これは君たちがやっているお遊びじゃないんだ」


 隊長はこの地を治める貴族の一人だという。本当は私なんかが話しかけれる人ではない。彼が隊長が言っていることは決して間違えじゃない。けれど、彼のメイヒアさんを疎ましがるような態度では、素直に従うこともできなかった。

 もしかすると。隊長がメイヒアさんを。

 考え過ぎね。


「良いわ。私がメイヒアさんを助けるぐらいの気持ちでいなきゃ。スライムさえ倒せば、逃げることぐらいは出来るはずだし」

 

 ダンジョンに入ると、スライムであふれていた。それも、他のダンジョンでは見たこともない数が。こんなダンジョンは見たことがない。

 きっとこのダンジョンは、最近になって急に現れた、100以上のダンジョンと同じものだ。出来たのはここ数日の間のはず。


「まるで、迷宮都市のダンジョンみたい」


 世界には100年以上討伐できていないダンジョンがいくつかある。その中で、人が侵入できるダンジョンが一つ。周囲に迷宮都市という拠点を構えどんな探索者が入る事が出来るダンジョンがある。

 あのダンジョンは2層からしかモンスターが出てこないが、このスライムダンジョンは、その2層に匹敵するモンスターの数だ。

 長く存在する程、ダンジョンには多くのモンスターが住むようになる。できたてのダンジョンにこのモンスターのひしめく光景は異常だった。


「案外、なんとかなるものね。スライムだけならこんな物かしら」


 今回、多くの油や松明。そして魔法使いを連れてきている。スライムの焼ける匂いと共に、ドンドンと前に進んでいた。


「まさか本当に。炎が弱点とは」


 新たに発見されたモンスターの弱点が、こんなにも簡単に見つかることなどあまりない。正直、こうして目で見るまでは半信半疑だった。

 大体、この侵攻が計画されたのが3日前、その後すぐにメイヒアさんが単身ダンジョンに向かい。ダンジョン内に侵入したのが2日前。私たちが到着したのが1日前。

 あまりに動きが速く。そして慌ただしかった。


「このダンジョン。やっぱり変だな。スライムの数もだけど、ずっと見つけることが出来なかったのに、急に場所が分かったと思ったら、こんな準備を整えて」


 実はダンジョンが私たちを誘い込んでいたりして。

 きっとそれは私の妄想だろうけれど、隊長は一体どこから情報を手に入れたんだろうか。

 町で初めて被害が確認できたのが、15日ほど前。このダンジョンが出来たのはおそらく、ここ半年以内と予想されているらしい。

 本来なら、森を閉鎖するべきだ。もっとじっくりと準備をするべきだと思う。このダンジョンの事を、私たちはあまりに知らず。そして知りすぎている。

 


「おい、泉があるぞ」


 迷宮のような通路を抜けた先に、広場のようになっているところの中心に泉が湧き出ていた。これは助かる。かなりの大所帯で、さっきからスライムを燃やしてばかりでかなり暑い。ここで水が飲めるのはかなりありがたい。

 初めに見つけた探索者は、一目散に駆け寄り、泉の水を飲み出した。

 私も今のうちに水を。


「まて」


 横から手を出し、私の行く手を遮る。

 全体に待ったをかけたのは、貴族の探索者。隊長だった。

 名前をなんと言ったか、普段は町の騎士団に所属している彼は、私とはそりが合わないけれど、実力者であることは違いない。

 探索者と言うと、彼は怒るだろうけれど、それでも彼はこの隊の隊長だった。

 だからその声に、皆動きを止め、周囲を探る。これだけの探索者が、警戒しているのだ、モンスターを見逃すとは考えにくい。

 異変が起きたのは、その索敵の内側だった。


「ぐああああああ」


 泉の水を飲んだ探索者が崩れ落ちる。否、崩れ溶ける。その男は直ちに姿を失い。ドロドロとうごめく肉の塊となった。


「そんな」


 私たちが驚いている間に、それはやがて水のようになり、黒く濁ったと思うと、それは新たなスライムとなっていた。


 沈黙を破り、炎が一閃。隊長がスライムを切り捨てる。


「皆、油断するな。泉の水には触れるな。毒だ」


 かつて人間だったそれは、他のスライムと同じく、グジュグジュと音を立てて燃え、やがては灰になるだろう。

 私たちが殺していた、スライムは全て人間だったのだ。


「うっおええ」


 不快感がこみ上げる。まさか、あれが。


「ウジウジするな情けない。アレは敵だ。戦場で敵を斬らず何とする」


「すみません」


「ふん、このような卑劣な罠を仕掛けるダンジョンの主は、今すぐにでも討伐しなければならない。さもなくば、我らの愛すべき隣人がこのスライム共の被害に遭うことになる。ではゆくぞ。こんな所で立ち往生している暇はない」


「隊長」


「何だ」


「その目が」


 隊長が顔を拭うと、その手は赤く染まる。両目から、血の涙を流し、止まる様子も無い。

 隊長が振り返り、広場の出口の方を向くと同時に、その頭がはじけ飛んだ。


「こまります。スライムをすべてやかれては、ぼうえいにふあんがありますので」


 その異形は、人の殻を纏った、芋虫のような何かだった。背に3対の翼を持ている。冒涜的な姿だった。


「何だコレ」


 誰かの声。声の方向を見ると、さっきまで出口に居た白い異形が、男のすぐ側に居る。

 異形が手をかざすと、探索者の体が膨らみ内側からはじける。男だった何かが、爆発と共に現れる。

 白く染まった体、異様に長い首、半分溶けた面影のある顔、細長い手足。それはまるで悪魔のようだった。


「ああ、ちょっと待って。えーと、眷属。名前も考えなきゃな。なるべく生け捕りだからな。町の情報なんかを聞きたいし」


「りょうかい、しました」


 異形の後に現れたのは、おかしな仮面をかぶった男。一目見て、それが人ではないことを理解した。見た目は人とさほどあ変わらない。けれど、何か、根源的な恐怖を。その人から感じる。今すぐにでも逃げ出したい。


 次々と、化物を見た人が勝手に倒れていく。化物は緩慢に、こちらへ歩いてくる。斬りかかった探索者の腕が、独りでに中を舞う。それとも私が見えなかっただけだろうか。なすすべもなく、ただそこに居るだけで、みんな。 みんな死んでいく。


「ダンジョンの主」


「あれ、なんでばれたんだろう。まあ、今までご苦労さん。他は結局死にかけだし、この子に何か耐性でもあったのかな。理由は何でも良いか。君はもう少しがんばって貰おうよ」


 ああ、ごめんなさい。町に知らせないと。みんな死んじゃう。ごめんなさい、隊長、ごめんなさいお母さん。


「メイヒアさん」


「お、いいな。その名前を貰おう。君の名前は、まあ良いか」


「あ、あ、アアアアアア。わたじの中、中、中。アン。うう。アン。わだじのながにぃぃ」


 私の中に何かが入ってくる。私のお腹。大きく膨らんで。壊れる。壊れちゃう。私が壊れる。

 体の中で動いている。私の赤ちゃん。

 可愛い赤ちゃん。


「ヴェウぐえぇぇぇ」


 生まれる。

 私の子供。


「ハッピーバースデイ。君には、ずっと子供を産んで貰うよ」


ああ、しあ、わ、せ。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 団体様が侵入してきて。ポイントのカウンターが回転し続けている。

 カメラを走らせると。何とあのスライム達を焼き払っているようだ。


「あのスライム達、炎が弱点なのか。もしかして俺も炎を使えば、簡単に外に出られたのかな。松明とか」


「どうでしょう。すらいむの、じゃくてんがほのおというのはきいたことがありません」


 あれ、そうなの。

 まあ、生身の生き物は全て炎弱点みたいなものだし。人間が材料のスライムが火に弱くても不思議ではないのか。


「こいつら罠にも引っかからないな。この男が罠を全て察知している。強いのかな」


 リーダー格らしき、人間。コレを落とせば俺でも問題なさそうだけど。

 早速、眷属の実力を見せて貰おうか。


「溶ける愛情泉のある広場で敵を迎撃しろ。可能な限り生け捕りだ」


「わかりました」


 さて、貰ったポイントで準備をしておこうか。

 精霊の根。

 正直、見た目は寄生虫にしか見えないが、立派な植物である。

 精霊の苗というアイテムの根らしい。

 精霊の苗は、人間に寄生する大樹、精霊の木になるらしい。精霊の木と言われると、もっと神聖な感じがするような、精霊が住む木みたいなイメージがある。この木に寄生された人間は、人間としての自我をのこしたまま木を守る奴隷となるらしい。寄生形態は複数存在する。

 精霊の木、本体が消失している状態では、体内で新たな種を育てる、母体。精霊の木を守る、兵士。精霊の木に新たな苗床を集める、伝道者。この3つに変化する。

 この苗床達は記憶や性格をそのままに、精霊の木に都合が良い奴隷となる。つまり、精霊の木を召喚した俺の奴隷といって違いなかった。

 精神や肉体の強い人間には効かないそうだが、今回はきっと大丈夫だ。


「しまった、本体を育てていないから、まずは母体か。もしもし、会話できますかー。しばらくは無理だなこりゃ。仕方ない」


「わたしのほかにけんぞくをおのぞみですか」


「え、ああいや。眷属じゃダメだよ。眷属は生前の記憶の内、自己に関わる部分が抜け落ちる。その記憶はさっぱり消えて、主である俺にも分からないし、残すことも出来ないんだよ。今のところ眷属はメイヒアで間に合っている」


「めいひあ」


「ああ、ほら母胎がメイヒアさんって言っていただろう。別の誰かの名前だけど、丁度良いと思って。べつのなまえのほうが良かった」


「いえ、わたしはめいひあです」


 眷属作成と同じく、母体となった女を翼で覆う。管羽を頭に突き刺し。無理矢理意識を覚醒させる。

 幸い、精霊の木に寄生された苗床は、高い再生力を獲得し、幸福以外を感じることがない。このまま頭をねじ切っても。幸福に包まれたまま死ぬか。再生することだろう。


「さて教えて貰うよ。外のことや、今回の攻略のこと。包み隠さず全てね」


「はい、何でも聞いてください」


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 さて、この侵攻はあまりに急に計画されていている。スライムの弱点なんて俺ですら知らなかったし、聞けば、町からかなり離れたところに俺のダンジョンはあると言うじゃないか。

 ゲームじゃないんだ、画面上に目的地はアイコンで表示されない。ダンジョンの位置を正確に割り出すのにどれだけの面積を探さなければならないか。それもこれだけ木々が密集している森でだぞ。仮にダンジョンの周辺に集まったしたスライムの動きから、場所を予想できたとしても、それはスライムの妨害を掻い潜らなければならないのと同義。とても幸運だけでは片付けられない。


「実はずっと初日から気になっていたんだよ。本来、野生のモンスターは、あまりダンジョンマスターに興味を示さない。にも関わらず、俺のダンジョンに入ってきたゴブリンは、100m近い洞窟を真っ直ぐに突き進み、俺の所までやって来た。コレも偶然にしては不自然だ。まるで初めから俺の位置を知っていたみたいじゃないか、と」


 どうしても、悪い方へ考えてしまう。


「普通に考えればあり得ないぜ。だけどさ、仮に欠陥マスターだの好き勝手言っていた奴らの一人が、ずっと俺を狙っていると考えたら。こんな偶然にも、説明がつくと思わないか。なあ」


 メイヒアに、隊長とやらの死体を攻撃させる。

 ただの妄想ならそれでも良い。

 だが、死体は両の手で体を跳ね起こし。首のない体で動き回る。落ちている遺品の剣を拾い。メイヒアと互角に戦い始めた。


「メイヒア」

 

 剣と、白い爪が何度か打ち合う。メイヒアと互角の戦いをしてみせた死体は、俺たちと距離を取り。メイヒアは俺の側に戻った。

 首無しからは、血こそ吹き出る様子は無いが、傷は生々しく。とても痛そうだった。そんな死体が、縦横無尽に駆け巡る。人によっては見るだけで気絶してしまう光景だろう。


「お前も、ダンマスか」


 全く。普通、自分のダンジョンで始まるんじゃないのか。他のダンジョンのすぐ側でスタートして、速攻でダンジョン攻略とか。そんな特殊な特性ありかよ。


「まさか。我はマスターに召喚されしモンスター。主はここには居らんよ」


 どういうことだ。こっちに来て速攻でモンスターを召喚して俺の所に?どうやって俺の場所を知ったんだ。


「そりゃ親切にどうも。せっかくだし、お前の行動のからくりも教えてくれるとありがたいね」


「主は、貴様らの召喚を見て気がついたのだよ。霊体の状態でも、潜にモンスターを召喚できること、そしてその有効な活用法もな。幸い、ターゲットはモンスターを呼べないという。楽な仕事だ。我の能力は憑依。我は生きているもの、に自由に取り憑くことが出来る。ダンジョンマスターは、取り憑くだけでは殺せなんだが。人など活かす心すも自由自在よ。無論操ることもな」


 まさか本当に教えてくれるとは。自信家だな。そんな体でも、俺を殺すぐらいはわけないと。確かに、そんな幽霊みたいな敵を殺す方法を思いつかない。もし、メイヒアにでも乗り移られようものなら。こちらはどうしようもなくなる。

 そうか、それなら。


「そちらは何故我のことに気がついた。普通は頭が吹き飛んだ物が生きているとは思うまい」


「俺はメイヒアに生け捕りを命じていたんだよ。俺の眷属は、耐性のない人が見るだけで、発狂し脳が冒されるらしい。だが、それで頭が吹き飛ぶことはない。せいぜいが血涙を流すぐらいさ。本来は作りたてとはいえ、俺の眷属。能力ぐらいは知っているらしい。大方、正体不明の攻撃を受ける前に自殺するつもりだったのだろうが。メイヒアに精神を冒された人間は、眷属に近い化物に変質するんだよ」


「なるほど。それでは聞きたいことも聞けた事だ、そのメイヒアとやらの体を貰おうか」


 そりゃ困る。

 

「無理だな」


「なに」


「お前、体が死なないと、次の体に憑依できないんだろう。そうじゃなきゃ、初めにメイヒアを乗っ取ってしまえば良い。そうすれば俺はデットエンド。お前は主に与えられたミッション完了だ。じゃなきゃ、こんなにおしゃべりする理由も無いものな」


 おそらく、コイツのマスターが持っていたポイントは1万。となればコイツの召喚コストも1万以下だ。其にしては強力すぎる。ダンマス以外なら、誰でも乗っ取れる可能性があるモンスターなんて、もっと高額であっても、良いはず。実際は色々制限があるはずだ。

 

「クッ。だがどうする。俺と永遠に殺し合うか。自慢のトラップもここじゃ使えないだろう。何せもう既に泉を設置しちまっているからな」


 元より。精霊の木や、死体が居る状態では。この部屋にトラップを設置することは出来ない。遠い部屋には落とし穴なんかを設置することは出来るだろうが。この死体はここで戦いたがるだろう。

 それに落とし穴に閉じ込めたところで、知らぬうちにゴブリンからコイツが抜け出していたように、また別の体の中に逃げてしまうだろう。


「まさか。そんな必要は無い」


「何だこれは」

 

 死体の体が、白い蝋のような物が覆う。それはやつのからだを押し固め、繭のようになり。そして、そこで泊まり動かなくなった。

 ただ、話に花を咲かせていわけじゃない。ひっそりと、俺の管羽を奴に伸ばしていた。

 奴は既に俺の孫のような物。眷属化、それも半分だけであれば、近づく必要も無い。


「お前は眷属にしない。お前はその白い牢獄の中。永遠に閉じ込められていると良い」


 幽霊は殺せない。けれどその体は、閉じ込めるのにあまりに接ごうが良すぎた。

 巨大な繭は。ドクドクと脈動し。見る見るうちに、手の平大の、楕円の球体となったのだった

 

「みごと、です」


「うん。けど、こんな戦いは、もう御免蒙るよ。できればトラップだけで、このダンジョンを防衛したい」


 結局、この憑依モンスターの主がなんて名前の奴かは聞きそびれてしまった。


「それ、では。ますたーは、きゅうけいなさいますか」


「まさか侵略だよ。今町には碌な戦力がないんだろう、何せみんなここに転がっている。すぐに戦力に仕立てあげてあげるよ」


 俺が生き残るために。自分たちの家族を殺して回るが良い。


「ようしゃ、がないです」


「何せ俺はダンジョンマスターだからね。人類の敵だ」

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