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2.「土着民の私にも銀髪色白薄命美少女属性選ばせなさいよ!」




「でさぁ!私が負傷者に治癒術かけてたらあの横暴王子、『おい芋女、さっさと魔法障壁を張れ』って言ってきたのよ!?こっちは人の命がかかってんだから、そんなの自分で張れっつーの!魔法剣士の称号は飾りかっ!」


「それで?無視したの?」


「張ったわよ!なのにお礼の一つもありゃしない!ほんっとーにいけ好かない!フロラ姫の前でだけいい顔しやがって、あの男……!」


 一週間ぶりのまともな昼休憩で先日の魔物討伐についての愚痴を吐き出すミーシャに、ラボの同僚で親友でもあるハルは、コーヒーを片手にサンドイッチを食べながら軽く相槌を打った。景観も兼ねた薬草栽培プラントの近くに設置されたベンチに並ぶ二人の付き合いは、かれこれ十五年に及ぶ。


 この世界では頻繁に異世界からの転生者が現れる。今から十五年前、ニホンという国でジドウシャと呼ばれる馬なし馬車のような奇怪なカラクリから猫を庇って死んで転生してきたハルと、王都の都会人にはほとんど馴染みのないド田舎から上京したてのミーシャが出会った。世間知らず同士で意気投合した二人は一瞬で友情を育み、今ではかけがえのない親友となった。


 ちなみにハルは転生する際に女神パラティンから≪猫ちゃん救出クエスト≫の報酬として好みの容姿を手に入れることができたため、迷わずパツキン美女を選んだらしい。転生時の年齢は十三歳、将来有望な金髪美少女は当時の王都でちょっとした話題になっていた。


 それを聞いたミーシャは「ずっる!パラティンめっちゃ贔屓してるじゃん、土着民の私にも銀髪色白薄命美少女属性選ばせなさいよ!」と憤慨して普段よりも多めの酒を煽った。ハルは「こっちは一回死んでるんですけどね」と思ったが、その選択肢があればミーシャが余計な気苦労を被ることはなかっただろうから、まぁ、わからなくもない。


 白衣を着た二人は、普段はラボ内でポーションや薬草の研究、生産をしている。特にミーシャは、市販品の1.8倍の効果がある聖女の加護付特注ポーションの納品という国命を受けているため、魔力が尽きるまで毎日ポーション製造機の役割に徹していた。


 朝から晩までひたすら作りまくってギリギリ納品できるかできないかの破綻した生産体制に異を唱えようにも、その仕事に従事するのが彼女一人なのだから国庫の蔵番は全く耳を貸さない。そこにクレーム処理だの魔物討伐だの研究対象の脱走だの色々な厄介ごとが舞い込めば、自然と深夜に部屋で気絶する生活になるのだ。


 厄介ごとの中には「それって聖女の仕事ですか?」と首をかしげたくなるようなものも多々含まれているが、頼りにされると断れない悪癖が出てついつい世話を焼いてしまう。ラボの新人研究員から密かに「アネゴ」と呼ばれていることを親友から聞いて、不思議と悪い気はしない。


 しかし「何でもできるしそれを隠そうともしないからミーシャはモテないのよ。女は少しダメなところがあるくらいが可愛げがあるのに」と、ミーシャの命を狙い襲って来た暗殺者と回り回って結婚したハルはバッサリと切り捨てた。回り回っての部分は単行本が一冊出来上がりそうなのでここでは割愛する。何はともあれ今では王都でも有名なおしどり夫婦である。


「ハルはいいよね、殺意高めだけど素敵な旦那様がいて……」


「ミーシャだって、この前のパーティーでルノー伯爵の次男坊からサロンに誘われたって言ってたじゃない。どうだったの?」


「事業継承の相談と近年の国際連携について議論したいって言われて行ったのに、若い女の子がたくさん集まってドラッグちゃんぽん酒乱パーティー状態だったからすぐ帰って憲兵に通報したわよ」


「相変わらず最悪な男運ね。じゃああれは?匿名で手紙のやり取りをする男女交流会的な怪しいコミュニティで知り合った自称三十一歳独身精神科医ドミーさん」


「実際に食事に行ったら四十五歳バツイチ子持ち、飲むだけで元気になる聖女の加護付き水道水を販売して生計を立ててるドミーさんでした〜」


「ドンマイ……」


「でもね、息子と違って優しい国王様がさすがにアラサー独身聖女はマズイと思ったみたいで、今度お見合いをセッティングしてくれるって。パラティンより神じゃない?も〜国王様大好きっ!」


「一国の主がお見合いを取り仕切るって、もはや国難じゃん」


「……泣いていい?」


 親友の辛辣さに文字通りメソメソとさざめくような悲しみに暮れるミーシャ。そこに「聖女ミーシャ、休憩時間は終わりだ」とピリッと張り詰めた声が響いた。


 離れた物陰から姿を現した青年に、ミーシャはあからさまに顔をしかめる。彼はシャルル・デュ・メディシス。二週間前から聖女の護衛を務める若い騎士団員だ。


 護衛と言いながら口うるさい監視役のようなシャルルは漆黒の短髪をさらりと靡かせ、銀飾りのついた懐中時計を閉じて再びミーシャを呼びつける。


「聖女ミーシャ、聞こえているのか」


「はいはい、聞こえてますよシャルル卿。じゃあねハル、ポーション製造マシン出動しま~す」


「またそんなこと言って。ミーシャ、あんまり無理しちゃだめよ、あなただって聖女の前に人間なんだから」


「は~い」


 まるでシャルルに連行されるようにラボの奥の研究室へ連れられて行くミーシャの後ろ姿を見送ったハルは、どうにもやるせなくなって煙草に火をつけた。


 いったいパラティンは、この物語にどんなオチをつけるつもりなのか。もし世話焼きで頑張り屋な親友を当て馬扱いしてポイ捨てにでもしようものなら、異世界恋愛ファンタジーから復讐バッドエンドR18Gにテコ入れしてやるからな、転生者ナメんなよ。そんな悪態を吐きながら、気だるげに煙を吐き出した。




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