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誰も到達したことのない攻略難易度SSSのダンジョンにたどり着いた男の話

作者: 忘れん坊

 数々の困難な旅を乗り越え、俺はついに、前人未到の攻略難易度SSSのダンジョンにたどり着いた。ここに来るまで本当に長い道のりだった。多くの歳月を費やし、人々とのかかわりを断ち、たった一人で困難を乗り越えてきた。

 ようやく俺は人生の目的を夢を叶えることができる。

ダンジョンの第一階層に足を踏み入れ、俺は天に向かってこぶしを掲げた。


「おじさん何やってるの?」

「変なポーズだなーです」

「ポロ?」


 なんだ?このチビ三人組は。なぜ、こんなチビ共が前人未到の地にいるんだ?


「お前らはいったい何者だ」


 俺は静かに問いかける。


「私たちはねー、ここに遊びに来たのー!!」

「おじさんひげ濃いですー」

「ポア?」


 このダンジョンに遊びに来た?何を寝ぼけたことを。かつて数多の冒険者がこのダンジョンを目指し儚く散っていったのだ。こんなチビ共がたどり着ける場所ではない。これはダンジョンが見せている幻覚なのか・・・。


 直後、ダンジョンの奥から魔物が出現するーー。


 あいつは数多の冒険者を強靭な爪と牙で死に追いやってきたゴルデンドラゴン!まさか、こんな序盤の階層からやつが出てくるとは!


「おい!チビ共!危ないから下がって・・・。」


 なん、だと・・・。俺が今、目にしているのは誠に起こっている現象なのか?あんなに弱そうなチビ共が、ゴルデンドラゴンをまるで赤子同然のように扱っている!


「トカゲさん焼いたらおいしーかな?」


 赤髪の女はゴルデンドラゴンの頭と同じ大きさの長剣でドラゴンの腹を切り裂きーー。


「僕はトカゲなんて食べたくないですー」


 緑髪の男は目にも見えない速度で多種類の魔法をドラゴンに打ち込みーー。


「ポトポト!」


 猫耳のフードをかぶった女は、ゴルデンドラゴンの猛攻受けてもびくともしていない。


 ゴルデンドラゴンは一匹現れたら、国を一つ消滅させるとも言われている。これほどまでに強い奴らなら俺の耳に必ず届くはずだ。こいつらは本当に何者なんだ!?


 赤髪の女がゴルデンドラゴンの心臓に長剣を突き刺し、ゴルデンドラゴンは絶命した。


「おしまーい!早く食べよー!!」

「食べないですー!」

「ポロポロ」


 俺は恐る恐るゴルデンドラゴンを一瞬で討伐した三人組のチビ共に近づく。


「もう一度聞く、お前たちはいったい何者だ・・・?」


「何者?私はルーだよ」

「僕はライラですー」

「ポポパ」


「いや、名前を聞いてるんじゃなくてダナ・・・お前たちはどこから来たんだ?」


「何処から?ルーたちはずっとここにいるよー」

「そうです」

「ポラポラ!」


「ずっと・・・ここに?親は?」


「親?何かの食べ物―?」

「ルーは食い意地がすごすぎるですー」

「ポア?」


「・・・」


 まさか、この最果ての地で暮らしているものがいるとは・・・。人外の強さを得たのはこのダンジョンに巣食う魔物たちを狩り、食してきたからなのか・・・?


「おじさんは何しにここに来たの?」

「ライラたち以外の人を見るのは初めてですー」

「ポラポラ」


「俺はこのダンジョンを攻略しに来た」


 俺の人生最後にして最大の夢だ。このダンジョンを攻略して俺の人生は終わりを迎える。

否、攻略することは不可能だろう。俺は年を取った。全盛期の頃ですら攻略できるかわからないこのダンジョンを攻略することは不可能。仲間もいない。ここが俺の死に場所なのだ。

 だが、人生に悔いはない。夢にまで見たこの地で、誰も攻略することのできなかったこのダンジョンで、骨をうずめることができるのだ。

 さぁ、始めようか最後の冒険を。


「ダンジョンの一番奥に行きたいのー?」

「それならあそこにある転移魔法陣に乗っていけるのです」

「ポラポラ!」


「は?」


 今、なんて言った?


「あのダンジョンの一番奥へは1年前にルーたちがたどり着いてしまったのだ!」

「それは、それは、ものすごい時間がかかったのでしたーです」

「ぽルポる」


「じょ、冗談だろう?」


 たどり着いた?ダンジョンの最深部へ?攻略してしまったということか?このダンジョンを見つけ、攻略することに人生の全て捧げた俺がくる前に・・・。噓だ。噓だ。噓だ。噓だ。噓だ。噓だ。噓だ。噓だ。噓だと、噓だと言ってくれ・・・・・・。


「ジョーダン?」

「ルー、多分食べものではないです」

「ポラポラ」


「あ、あの、あの、ダンジョンは・・・誰も攻略したことがなくて・・・だから、だから俺が・・・ひとりで・・・。」


■□■□■□■□


『お父さん!お父さん!ねぇねぇ知ってる?』

『何をだい?』

『誰一人として見たことも、勿論攻略したこともないダンジョンがこの世界には一つだけあるんだって!』

『そうなのか』

『だからね、僕が攻略するんだ!!このダンジョンは僕だけのものなんだ!』



■□■□■□■□


『またあの人やってるよ』

『誰も見たことないダンジョンを探してるんだってさ』

『そんなダンジョンあるわけないだろ』

『ほっとけ、ほっとけ。ありゃもうダメだ』


『・・・そう思ってくれて都合がいい。このダンジョンは俺だけのものだ。誰にも渡しはしない』


■□■□■□■□


「俺が・・・俺が・・・俺が・・・俺だけが・・・!」


 俺の目の前は突如、真っ暗になった。


***


「ねぇ、おじさんー」

「起きてです」

「ぽルポる・・・」


「・・・ここは?」


 どうやら心身的疲労により、身体が限界を迎え気を失ったようだ。


「やっと起きたー。ここは、ダンジョンの一番奥だよ」

「おじさんダイジョブです?」

「ポルー!」


 ここがダンジョンの最下層。そうはとても思えない。生活感があり過ぎる。ガキ3人組が魔物の体を使って作ったのだろうか。この部屋の家具を売れば、一生食うことには困らなそうだ。

・・・本当にこのダンジョンは攻略されてしまったのだな。


「なぜ俺を助けた。」


「倒れたから」

「眠くなることはよくあるです。おじさんちゃんと寝てるです?」

「ポポ」


 余計なことをしてくれた。俺の生きる意味はお前らのせいでなくなったというのに。 

俺は死に場所を探すため、ゆっくりと立ちあがった。


「何処にいくの?」

「きっと、お腹が空いたです」

「ぽルポる」


 体が重い。早く、早く楽になりたい・・・。早く、早く、早く・・・。


 俺はダンジョンをしばらく歩き続けた。断崖絶壁が視界に映る。その後、重力に身を任せ落ちていく。暗いくらい世界の底へと。


「だーーーめーーー!!!」


 赤髪の少女は大声を出しながら断崖絶壁に飛び込み、落ちていく俺を空中で抱きかかえた。


「死んじゃ、だーめー!」


 俺は必死に助け出そうとしてくれる少女に問いた。


「どうして俺を助ける。俺には生きる意味がないんだ。もう死なせてくれ」


「意味?意味が欲しいの?」


 少女は断崖絶壁に足をつけ、勢いよく駆け上がり空へ舞った。


「じゃあ、私達を生きる意味にしてよ」


 少女はとびっきりの笑顔で笑う。俺にはその笑顔がとても、とてもまぶしく見えた。


■□■□■□■□


「紹介しまーす!この人が私達のパパです」

「わかったです!」

「ポポぽ!」


「誰がパパだ。勝手に話を進めるな」


「パパには私たちをここから連れ出す任務を与えます!」

「与えまーすです!」

「ポルポル!」


「連れ出すって・・・勝手に出てけばいいだろう。お前たちの実力ならこの世界のどんな魔獣も敵じゃない」


「ダンジョンの外にでようとすると何故かこのダンジョンに戻ってくるの」

「不思議なのです」

「ポロ・・・」


 このダンジョンが数多の冒険者に何千年も見つけられなかったのは、触れると五感を奪われ方向感覚を失う透明で特殊な結界が張られているせいだった。

 世界でもトップクラスに凶暴なモンスターが、蟻のように徘徊する大森林の中だから尚更。俺もよくここへたどり着いたと思う。

 特殊結界を破く方法を知ってるのは世界で俺だけだ。さすがのチビ共も特殊結界を破くことはできなかったようだな。


「わかった。結界を解いてやる、行くぞ」


「結界?」


 ルーが首を傾げると、続いてライラとポルパも首を傾げる


「外の世界に連れ出してやるってことだ」


「やったー!!」

「外の世界にでられるです!」

「ポロー!!」


 ガキ3人組は大はしゃぎ。それもそうか、生まれてからこのダンジョンの外に出たことがないのだから。

 俺たち四人は魔法陣を使って第一階層まで戻り、結界のある場所を目指して歩き出した。


「お外、お外、お・そ・と♪」

「楽しみです♪」

「ぽぷ♪」


 まるでピクニック気分だな。結界の外には魔獣が大量に待っているというのにのんきな奴らだ。


「私たちずっとパパみたいな人が来るのを待ってたんだー」

「僕たちは外の世界へずっと行きたかったのです」

「ぽルポる」


「それはよかったな」


「・・・パパ、ルーたちのこと怒ってる?」


「なぜそう思う?」


「パパの夢、奪っちゃったから」


「奪ってなどいない。元々あのダンジョンは誰のものでもない、俺がただ片思いしていただけだ」


「失恋?」


「そんな感じだ」


「じゃあ、いいこ、いいこーしてあげる」


 赤毛の少女は俺の背中に乗り、頭を撫でる。そういえば、人の温もりを感じたのはいつ振りだったか・・・。もう覚えてはいない。


 結界のある場所にたどり着くと、ルーが反応を示した。


「ここー!ここから先に進むとダンジョンに戻されちゃうのー!」


「今、結界を一時的に解除した。外に出ると凶悪な魔獣たちが、お前たちを獲物だと思って勢い良く襲ってくる。気を付けて行けよ」


「何言ってるの?パパも一緒に来るんだよ」

「パパと子供はずっと一緒です!」

「パパ!」


「パパの任務は終わっただろ。俺はここまでだ」


「うん。私達の願い事はかなえてもらったよ。だから、次は私たちがパパのために何かをする番だよね!」


「・・・」


「私達3人がパパの生きる意味になる!」


 3人はとびっきりの笑顔を俺に見せる。


「お前ら、意味って言葉わかって言ってるのか?」


「わかんなーい!」

「わからないですー」

「パパパ!」


「おい・・・」


「でも、一緒にいたい!」

「皆一緒ですー」

「パパァ!」


 三人組は勢い良く、外の世界へと飛び出す。真下には国一つ簡単に滅ぼす魔物がいるのに、すごいやつらだ。だが、そうは言ってもまだ子供。これから外の世界に出て、守ってやる人間が一人くらいは必要かもしれない。

 こいつらと一緒に第二の人生?冗談ならやめて欲しいな。俺は子守りどころか、普通に人と会話するすべも忘れた只のおっさんなのだから。

 

「うわぁ~美味しそうな動物さんたくさんいるね~パパも早くおいでよ!全部ルーが食べちゃうよ~」 

「あ~!僕にも残して欲しいです~」

「ぽルポる~!」


「しょうがないな」


 俺は頭をかきながら、満面の笑みを浮かべているガキ共に歩み寄っていった。




 これまでの人生を一人きりで生きてきた男は、3人の子供に出会ったことをきっかけに家族のぬくもりを知り、様々な人々たちとの出会いを重ねていった。


 男は息を引き取った後、数え切れないほどの人々に囲まれて見送られたという。


いかがでしたでしょうか。

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