線膨張の域
列車があっという間に通り過ぎ、粉雪が舞い散った。
「なあ、この隙間って何?」
「どれ?」
遮断機が上がる。
「このレールの隙間だよ」
「ああほんとだ」
踏切のレールにはわずかにだけれど、少し間隔が離れているところがある。
「設計ミスかな」
「どうだろうか」
「きっとそうだよ。埋めてあげよう」
かじかんだ指先を擦り合わせながら、その日はそのまま帰宅した。
後日、彼は家の工場で作ってもらった金具を、レールの隙間に挿した。金具はぴたりとはまり、どうにも動かせないくらいだ。
「すごいや、ちょうどいいね」
「そりゃそうさ、きちんと寸法を測ったのだから」
得意顔の彼を見ていると、何だか素晴らしい行いをしたような気持ちで、胸が高鳴った。
縁側でアイスを食べていたら、電話が鳴った。彼からだ。
「そんなに慌ててどうしたのさ」
「あの踏切で事故があったらしい」
「えっ、まさか。どうしてさ」
「脱線事故らしいのだが、もしかすると僕たちはとんでもないことをしでかしたのかも知れない」
この夏の秘密は二人の心にそっとしまい、これからもきっと誰にも明かすことはないだろう。
がっかりさせて悪しからず
むろん王道も書いてます