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襲われる第八話


「で、あんたはなんで空から降ってきたわけ」

「メルの、えっと、今のパーティーメンバーの魔法に飛ばされたんだよ」

「へー、あんた、もう新しいパーティーに入ったんだ。良かったじゃない」

「え、お、おう。ありがとう」


 メルが放った上級魔法、"竜巻(ドラゴンストーム)"によって、森の中心部分に飛ばされた俺は、たまたまクエストで森に来ていた、元パーティーメンバーのリアスに出会った。俺は、同じパーティーにいた頃から、この女が苦手だった。


「それにしても、人一人飛ばせる魔法って、相当な風魔法使い(ウインド・ウィザード)ね。羨ましいわ」

「ああ、メルはすごいよ」

「まあ、せいぜい()()されないように頑張りなさい」

「言われなくても分かってるよ」

「あっそ。ならいいけど。

 私はクエストがあるから、あんたはさっさとこっから去りなさい。邪魔だから」


 もう俺に興味を無くしたのか、リアスは、手に持っていた杖を構え直し、この場を後にしようと歩き出す。はあ、もうちょい言い方ってもんがあるだろうに。

 俺は、もうこれ以上リアスからの毒をもらわないように、彼女とは反対の方向へと足を進める。さっさとメルと合流しよう。


「ちょっと」


 後ろから声が聞こえた気がしたが、気にせず前へ進む。


「待ちなさい」

「ふげっ」


 背後から誰かに首根っこを掴まれ、無理矢理足を止められた。まあ、誰かは分かりきったことなのだが。


「なんの用だ。もうお前とはパーティーメンバーじゃないんだからどこに行くかは俺の勝手だろ」

「あっそ。じゃあ勝手にしなさい。森の奥に行って死にたいのならね」

「こっちは街の方だろ」

「逆よ」


 しばらく俺とリアスの間に沈黙が続く。その間に俺は頭をフル回転させる。


「え、今って何時」


 どうやら、俺がクルドの森に来てから一日の四分の一が過ぎてしまっていたらしい。





 視界が全て黒に染まるほどもう夜はそこまで近づいていたようだ。森の中の開けた場所で、リアスの魔法で生成された炎を挟み、俺達は座っていた。リアスはいくつかの中級の炎魔法を使える優秀な魔法使いだ。


「悪いな、俺のせいでこんな時間になっちまって」

「別に。この辺りの魔物の出が良かったから、たまたまここにいただけよ」

「そうか」

「そうよ」

「俺が抜けた後の"ベスト・オン・アース"の調子はどうだ。順調か、いや、聞くまでもないか」


 質問をしてすぐに自分でその質問を撤回する。惨めなものだ。


「ねえ、リスト」

「なんだよ」

「今は、楽しいかしら」

「なんだ、急に」

「いいから答えて」

「お前らからパーティーを出ていって欲しいって言われてさ、俺はすげえショックを受けた。あの時は、お前らのことすげえ恨んだよ、いや、正直今も恨んでる。ていうか、まだそんな経ってないしな」


 俺が苦笑しながらそんなことを言うと、リアスは俯く。


「でもまあきっと、俺がお前らにとってお荷物だったことは、間違いのないような事実だろうし、だから、簡単に割り切れるわけじゃないけど、もうそのことは気にしないことにするよ。お前にもこうして助けてもらったわけだから、ずっと恨むってのもなんか違う気がするしな」


 リアスは少し黙った後、言葉を発する。


「リストは、お荷物なんかじゃなかったよ」

「は、何言って」

「しっ、静かに」


 突然、リアスは自分の口に指を当て、俺にそう指示する。

 周囲に何かの気配を感じた。


「なんだ」


 俺がそう呟いた瞬間俺たちを囲むようにゴブリンが現れた。


「な、囲まれた、だと」

「"火球"」


 リアスの杖から火の球が現れ、一体のゴブリンへと向かう。その玉は、見事に命中して、ゴブリンを黒焦げにする。


「キー」


 仲間がやられたことにより、他のゴブリンたちは、怒り狂ったように俺たちへと飛びかかる。


「"火球"、"火球"、"火球"、"火球"、"火球"」


 だが、次々とリアスの杖から繰り出される魔法にあっけなくやられていく。そして、残ったゴブリンたちは、恐れをなしたのか、闇の中へと姿を消した。


「さすが、相変わらずの魔力量だよな。いくら初級魔法だっつっても、あんだけの数の"火球"の連発は並の魔法使いにはできないよ」

「これは、私の実力じゃないわ」

「はー、自分の力はこの程度じゃないってか、やっぱSランクの魔法使いは、言うことが違うねー」

「だから、違うって言ってるでしょ」

「どうしたんだよ、そんなに怒って。せっかく魔物を撃退できたんだから、素直に喜んどこうぜ。ま、俺は何もしてないんだけど」

「あんたは、悔しいと思わないの。小さい頃から、周りから"無能"だって馬鹿にされて、パーティーメンバー集まる時だってそのせいで誰も組んでくれなくて、ようやく組めたパーティーだって、Sランクに達した途端、用済みだって追い出されて、悔しくないの」

「急になんだよ」


 リアスは、何も言わない。


「それを」

「聞こえない」

「それを、お前が言うなよ。

 お前が、お前らが、俺を"無能"だって追い出したんだろ。なのに、お前がそれを言うなよ」

「違う。あんたは、リストは、パーティーを追い出される前から、ずっと自分のことを諦めてた。だから、私はっ」


 その時、闇の中から、草むらをかき分ける音がした。


「またゴブリンか」

「リストさんっ、無事でしたか」

「メル」


 現れたのは、今の仲間だった。




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