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からかい好きな男に出会った第六話


「メル!! 大丈夫か!?」


 背負っていた男をその場に寝かせ、風属性最高位魔法(スキル)の一つ、"無数の風刃(ロッツオブウインド)"を放った、メルの元へと走って近寄る。

 ただでさえ所持魔力量が少なかったメルが、魔力消費が最も激しいと言われている最高位魔法を使ったのだ。無事で済むわけがなかった、はずだった。


「......なんともない、どうして」


 しかし、俺の目の前にいるエルフの少女は、魔法を使う前と何も変わらぬ調子でそこにいた。かなりの混乱状態ではあったのだが。


「メル、無事なのか?」


 頭にいくつもの"?"を浮かべている少女に、無事を確かめるため、声をかけた。


「......え、ええ。なぜかはわかりませんが、五体満足です」


 俺の問いにメルは辿々しくそう答える。


「今、魔法を使ったはずだよな? しかも最高位の」


「ええ、間違いなく使ったはずです。実際に、先ほど現れた()()()()()()()も倒しましたし」


 その言葉に、俺はその"魔物らしきもの"()()()ものに目を向けた。それは、無数の刃に切り刻まれ、元の形を想像するのも難しい状態だった。


「......これが、最高位魔法の威力」


 その死体が物語るその力の強大さが、メルが魔法を使ったという事実を確実なものにした。


 だが、そうなると大きな疑問が浮かぶ。なぜメルは無事なのか、と。その疑問を解消するべく、メルと詳しく話をしようと思った矢先のことだった。


「いやいや、素晴らしい!! さすがエルフっすね!!」


 突然背後から聞こえた男の声に、俺は驚きながらもすぐに振り向き、警戒体制を取った。

 そこにいたのは、冒険者らしき格好をした紫髪の男だった。その男は、俺たちの反応に動じることなく、ニカッと笑みを浮かべ、言葉を続けた。


「これは失礼、驚かせてしまったっすね。俺は、マルフって言います。以後、お見知り置きをっす」


 マルフと名乗った男は大袈裟に腕を振り、貴族がするような礼をした。


「それで、マルフさんはここでいったい何をされてたのですか?」


 俺の隣でメルはマルフに対する警戒を解かず、質問を投げかけた。


「お恥ずかしい話なんすけど、さっきあなたが倒した魔物を見つけて、ビビってそこの草むらに隠れてたんすよ。

 襲われたらどうしようか、そうビクビクしていたところに!! あなたという救世主が現れた!! いやはやこれを運命と呼ばずしてなんと呼びましょうか? 

 是非ともあなたのお名前をお聞かせいただきたい!!」


 まるで舞台上の俳優かのように演技かかった口調で、マルフは今までのことの経緯とメルへの感謝を語った。


「私はメルと言います。そして、あなたの命を救ったのは私だけの力ではありません。こちらにいらっしゃるリストさんもあなたの命の恩人の一人ですよ」


「え、いや俺は何も」


 突然のメルの言葉に俺は困惑する。実際、俺は何もやっていないのだ。何もできなかったのだ。ただ、目の前で命をかけてメルが俺を助けようとしている姿を見ることしか。


「ほー、あんたもあの魔物に相当する力を持つわけっすか?」


 さっきまでメルにしか注がれていなかったマルフの視線がメルの言葉によってこちらへと向けられる。


「いやだから別に俺は何もしてなくて」


「何もしてないわけないじゃないですか」


 そんな無自覚に俺の口から出る否定の言葉をメルはすぐに遮った。


「リストさんがいなければ私はあの魔法を放つことはありませんでしたよ。リストさんの優しさが私に勇気をくれたんです。

 それに、こうして私が無事なのも、もしかしたらリストさんのおかげかもしれません」


「そんなことは」


 再び出かかった否定の言葉は一つの手拍子によって打ち消された。


「はい!! 痴話喧嘩はそこまでといきましょう!!」


 マルフは両手を合わせた状態でそう言った。


「ち、痴話喧嘩などではなく!!」


 メルはその言葉に顔を真っ赤にして反論する。


「まぁ、痴話喧嘩がどうとかよりも、今はその謎の魔物の方をどうにかしなきゃじゃないっすか?」


「そ、そうですけど」


 揶揄うような笑みを浮かべながらも至極真っ当なことを言うマルフにメルはそれ以上は何も返せなかった。


「それにしても、この魔物ほんと何なんすかね? なんかこの辺に生息してる食虫植物に似てますけど」


 疑問を呈しながら、マルフは魔物の死骸に近づいていく。


「ああ、それは俺も思った。モノトリソウっていう植物によく似ていた」


 俺とメルもマルフの後に続く。


「モノトリソウ......。聞いたことはありますけど、実際に見たことはないですね」


「大きな口を生やしているようなやつっすよ。ほんとよくこいつに似てるっす」


「単なる偶然、とは思えないな」


「ええ。......そんなところで一つ、俺の考えを聞いてもらってもいいっすか?」


「考え? この魔物についてか?」


「はいっす」


 続けてマルフが発した考えは、もし事実なのであれば、背筋を凍らせるようなどころでは済まないものだった。


「もしかしたら、植物、いや生き物全てを魔物に変化させることができるようなスキルを持っている人間が、いるのかもしれないっす」


 

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