エルフの少女とパーティーを組んだ第三話
「すいませんでした!!」
場所は街の居酒屋。俺はエルフの少女に深々と頭を下げた。
「全くですよ。突然腕を掴まれたと思ったら泣き出すんですから。意味がわかりません」
エルフ少女は腕を組んで少し頬を膨らませてそう言った。
「いやほんとその通りです。ほんとすんませんでした」
俺は謝ることしかできなかった。突然泣き出した俺をこの子はわざわざここまで連れてきてくれたのだ。本当に優しい子だと思う。そんな変なやつ放っておけば良かったというのに。
「でも、何も話を聞かず突き放した私も悪かったです。すみませんでした」
そう言って彼女は頭を下げる。
「いやいや、明らかに俺が悪いから。ここは俺が払うから、食べたいものどんどん食べて」
「それはとても助かります。この街に来てからろくなご飯を食べていないので」
「そうなのか?」
「ええ。どこかのパーティーに入れてもらって冒険者として稼ごうと思ったのですが、先ほどパーティーを追放されましたので」
「そ、そうか」
その現場は俺も目撃している。俺がこの子に話しかけたきっかけなのだから。
「そういえば、お互い名前も知りませんね。私はメルと言います。あなたは?」
「リストだ。よろしく、メル」
「ええ、こちらこそ」
「ところでさ、聞いてもいいか? メルがパーティー追放された理由」
「構いませんよ」
「え? いいのか?」
「そんなに驚くこと?」
「いやそういうのってあまり人に言いたくないんじゃないのかなと思って」
「リストが言ったのでしょう? 慰め合わないかって。もちろんリストも話してくれるのでしょう? それならお互い様よ」
それから、メルは"パーティー追放"の全貌を語ってくれた。
「私がこの街に来た時に初めて出会ったパーティーが、"ブルーメジスタ"でした。
ちょうど彼らのパーティーの魔法使いが風邪を引いていて、代わりの魔法使いを欲していたのです。それでちょうどパーティーを探していた私と目的が一致してパーティーに入れてもらいました。
ただ、その時彼らは私がエルフだということにだけ囚われて私が言った最大の弱点を聞き逃していたのです。私はてっきり"役立たず"の私をこのパーティーは受け入れてくれたのだと思っていました。しかし、そんなことはありませんでした」
「最大の弱点って何だ? 確かエルフ族って風魔法に長けてるんだよな? まさか風魔法が使えないとか?」
「いえ、そうではありません。私は風魔法を使えます。それも超強力な」
「だったらどこが"役立たず"なんだ?」
「それしか使えないからです」
「どういうことだ?」
「強力な魔法ほど魔力を必要とします。だから強力な魔法を持つものは必然的に強大な魔力を持ちます。通常は」
「まさか」
「ええ。私には自分の魔法を操れるほどの魔力がありません」
「そんなことが」
俺とは真逆だ。俺には力があってもそれを使う手段がない。メルには手段があってもそれに必要な力がない。
「そのせいで私は村でも"無能"といじめられました」
「っ!?」
"無能"。俺もかつてのパーティーメンバーに言われた言葉だ。
「だからあなたの話を聞いてみたいと思ったんですよ。あなたも私と同じ境遇なのだと感じたから。
エルフ族は魔力の波長を感じ取ることができます。あなたからは強大な魔力を感じた。それは私にないもの、私が最も欲しているもの。だからあなたが私と同じだと言った時怒りに震えました。何を言っているのだ、それだけの力があるのに、私と同じ、笑わせるな、と。
でも、あなたの涙を見て、あなたの叫びを聞いて、ああ、この人も同じなのかもしれないと思ったのです。結局私も見た目に囚われてその本質を見れてなかったんですよ。私を追放したパーティーと同じ」
「それは違う。メルはこうして俺の話を聞こうとしてくれてる。自分の辛い話までして。自分の弱さをこうして会って間もない俺にまでさらけ出して。だから、メルはそいつらとは違うよ」
メルはじっと目の前の水に入ったグラスを見つめる。唇がわずかに震えているように見えた。
「私は弱いんです。それは魔法が使えないからではありません。心が弱いから。この街に来たのだって逃げなんです。あの村にいると自分の弱さが身に染みたから。でも、この街に来ても一緒でした。自分が弱いから強いパーティーに縋り付いて、結局自分は何も変わろうとしなかった。私は弱いんです」
彼女の目から一粒の雫が落ちる。
「だったら強くなればいい。"無能"がなんだ、"役立たず"がなんだ。能力が強さなんて誰が決めた。俺達は俺たちなりのやり方で強くなればいい。なあ、メル。
俺と、パーティーを組まないか?」






