TS転生ヤンキー悪役令嬢、婚約破棄される
「クラスタベル・チチェスター。その方の悪行の数々、この目に余る」
「? はあ……?」
俺、クラスタベルにそう言うのは、皇太子ダミアン・バックコリンだ。彼はこの国を支配する王家の嫡男であり、それと同時に俺の婚約者であった。
現在、俺は貴族学園の卒業会に出席している。
なんか、貴族が集まる学校の卒業だけあって、あっちを見てもこっちを見ても国の重鎮ばかりだ。
聞いたところによると、国王陛下まで来るらしい。終わりのところにちょっとだけって話だけどな。あの人忙しいらしいし。
まあ、正直言って前世では考えられない状況だよな。
日本って国で普通の喧嘩っ早い高校生だった俺は、ある日素手の喧嘩に刃物を持ち込むような卑怯者に刺されて死んだ。
だが、何が起こったのか、俺が目ぇ覚ましたら今みたいな世界でお嬢様になってたってわけだ。
意味わかんねえだろ? 俺もだ。せめて男にしてくれっての。
初めは結構混乱ったんだが、今ではどうにか女を演じれてる。昔から習うより慣れろって感じでな。やってみたら割と上手いみたいなんだよ俺。
女言葉がうまくても全然嬉しくねえけどな。
「然る処罰に加え、私との婚姻関係を解消。そして、今後一切のエミリー・クレイトン嬢との関わりを禁ずる」
「? 殿下、私状況が飲み込めませんわ」
「くどい! この期に及んでは一切の誤魔化しなど効かぬものと思え!」
「そもそもなんでそんな喋り方なんですの? 普段はもっと砕けておりますのに」
「うっさいな! そんなとこ口挟むなよ!」
あ、やっぱり取り繕ってたのな。いきなり頭良くなったのかと思ってビックリしたぜ。
こんな程度でボロ出すようじゃまだまだだな。俺なんて今じゃ一日中お嬢様モードになりっぱなしなんだ。自慢じゃないがな。
……ホントに自慢じゃないな。
「それで殿下、エミリーさんがどうされたのですか? 私にも分かるように説明して下さいな」
「ふん! しらばくれてももう遅い! ネタは上がってるんだからな!」
おい今度は古い刑事ドラマみたいな事言い始めたぞ。
つうか本気で何の話してんだ?
エミリーっつったらこの身体になってから一番の友達だけど、なんで近付いちゃなんねえんだよ。
俺はそれなりの有名人だから変な奴にガン付けられる事ぁあるが、まさか王子に言われるたぁ思ってなかったぜ。
「貴様がクレイトン嬢にした数々の悪行! 忘れたとは言わせん!」
知らねえええええええ!!
なんだそりゃ。なんで俺がんな事すんだよ。
「あの、全く身に覚えが……」
「とぼけるな! 貴様がクレイトン嬢を校舎の階段から突き落としたのは知っているのだ!」
……あ、もしかしてあれの事か?
「殿下、それは……」
「やはり身に覚えがあるようだな!」
話し聞け!?
あれは、俺が落ちそうになったところをエミリーが庇ってくれたんだ。代りに俺は助かったが、エミリーは膝を擦りむいてしまった。
ホントに悪いと思ってるが、別に突き落としちゃいない。
くそったれ! 馬鹿王子が騒ぐせいで周りの客が注目してんじゃねえか!
このままじゃ俺がエミリーをいじめてた事になる……!
完全に勘違いなのに!
「他にも、クレイトン嬢の昼食を奪った事もあるな! 彼女が平民の出で、金銭的に困窮している事を知っての事だろう!」
はいまた勘違いぃ!
あれはエミリーと二人で弁当を食ってただけだわ! アイツ料理すげえ上手えんだ!
なんでこいつ全部変な風に思ってんだよ!?
「他にも学園で迷うエミリーに間違った案内をして迷わせた事もあるな!」
普通に二人して迷っただけだわ!
「頭から水をかけた事もだ! お前は身分を盾に彼女を貶めていたのだ!」
学園の噴水で水遊びしてただけだわ!
あと、さらっとエミリーを名前で呼んでんじゃねえよ。ナンパ野郎が。
それにしても困った。
このままじゃこのへっぽこ野郎の言葉が嘘でも、勝手にホントの事にされちまいかねねえじゃねえか。
……いっその事逃げるか?
これだけの人数に勝つのは無理だろうが、逃げる事くらいはできるかもしれねえ。これでも前世じゃ喧嘩で鳴らしてたんだ。刃物がねえならムリって事ぁないだろ。
由緒ある学園の卒業式に凶器持ち込むバカはいねえだろ。
「お待ち下さい!」
俺が上手い事逃げるためのルートを考えてると、そんな凛とした声が会場に響いた。
助かった。正直逃げ出すなんてダサい真似ぁしたくなかったんだ。
この何年で聞き慣れちまった友達の声だ。
「エミリーさん!」
「ああ、クラスタさん! 遅くなって申し訳ありません。準備に手間取ってしまって」
エミリーは平民の出身だが、その言葉遣いはこの学園にいても悪くない感じだ。俺が教えてやった。
口調が違うと結構目立つんだよな。俺も男言葉で話したら母親に凄え怒られた事がある。
「王子殿下! これはどういう事でしょうか!」
「え……いや、その……君のためを思って……」
「私のためを思って、なんでお友達にこんなひどい事をするんです!」
それな。
「お、お友達……!?」
はぁん、コイツさては、エミリーの事が好きなんだろ。んで、良いとこ見せようとしてこんな事したんだ。
ついでに俺との婚約が解消できりゃ一石二鳥と。
その後でエミリーと婚約しようとか考えてたんだな。
ナンパモンが。
「殿下、私こんな屈辱を受けたのは初めてでしてよ。淑女の顔に泥を塗るなんて、何をお考えですの?」
「だ、黙れ黙れ! エミリー、君は脅されているんだろう!? 安心してくれ! 僕が守る!」
「や、ちょっと何を言っているのか分かりません。あと名前で呼ばないでください」
周りの目も、俺から王子に向けられるようになった。
ただ、馬鹿王子はそれでも自分を正当化したいらしくていろんな事をのたまってる。
「き、貴様クラスタベル・チチェスター! よくもそんな真似ができるな! 恥を知れ!」
「そんな真似ってどんなのですの? こんなのですの?」
なんか面白くなってきたからエミリーを抱き寄せる。
エミリーは俺より少しだけ背が低いので、俺を見上げるような体勢になる。
そして王子はめっちゃ怒る。
やっべ、これ楽しい。
「貴様、貴様! ふざけるなよ! この僕をコケにしてただで済むと思うな……!」
「——ほう、一体どうなると言うのだ」
「……!?」
王子の背後からかけられた、威厳のある声。
前世で見た偉そうなおっさんって言ったら学校の教師くらいのもんだが、あんなの全然ヘボだったんだな。今目の前にいるおっさんは、知らない奴が見てもとんでもなく偉いのが分かるだろう。
「ち、父上……!?」
「いかにも。貴様の父であり、この学園の来賓であり、この国の国王である」
「こ、これには訳が……」
「訳もなくこんな事をする筈もあるまい。話しなら城で聞こう。おい、誰か! この愚物を摘み出せ!」
「え!? あ、待って……」
馬鹿王子は近衛のおっさん達に引き摺られてった。
出て行きぎわに「貴様ら! 僕は王子だぞ!」とか言ってたが、だからなんなんだよ。意味わかんねえ奴だな。
こうなったらヤキ入れられるか未成年牢送りだ。
日本では少年院上りは箔が付いたもんだが、シャバ僧にゃあそうでもないだろう。
もしかしたらもう二度と、王族としちゃ振る舞えねえかもな。
全く可哀想とは思わんが。
◆
馬鹿王子のせいで、卒業会は台無しだ。
結局微妙な空気のまんま、解散になっちまった。
「クラスタさん、すみません。私がもっと早く行っていれば……」
「お前えのせいじゃねえよ。謝んな」
場所は、屋敷の控え室。俺とエミリー以外、誰もいない。
「それよか、口調が外行きのまんまだぜ。俺と二人の時は無理しなくていいって言ったろ」
「……あぁ、ゴメン。癖んなっちゃってて」
エミリーが、首を鳴らしてソファに座る。脚を開いて、股座を掻く。
ぶっちゃけさっきまでとは全然違うように見えるが、実際にはこっちが素だ。
エミリーは、他のヤツがいる時は態度を取り繕ってる。流石にこれ見られるのはダメだろうからな。
「まあ、他のやつがいる前でんな喋り方するよかマシだろ」
「違えねえや」
ちょいと……いやかなりおかしな事だが、実はエミリーも前世で日本に住んでたクチだ。おな前(おんなじ前世同士の略)ってやつだな。俺と違って前世も女だったみてえだが。
エミリーは前世について話したがらねえが、この喋り方と態度から考えると女不良かなんかだろうな。
そんなわけで、俺達はこの世界じゃ親友って事になる。
話ができるやつがそもそもいねえしな。
「ってかお前、いい加減足閉じろよ。嫁入り前の娘がよ」
「おいおい古い事言いっこなしだぜ。アタシとお前の仲だろ?」
「俺も男だぜ? 一応な」
「ホントに一応じゃん」
「ほっとけ」
こんな態度、エミリーにしかできない。
コイツがいてくれなかったら、俺はどうかしちまってだろうな。
前世ではそんなヤツ一人もいなかったから、正直結構今を気に入ってる。
唯一の悩みが馬鹿王子と結婚しなくちゃならない事だったが、今回の事で婚約解消みたいだしラッキーだ。
ああ、これで体が男だったらなあ。
◆
私、エミリー・クレイトンは、転生者である。
前世では日本という国に住んでいて、いわゆるオタクってやつだった。
もっぱら恋愛ゲームや二次小説なんかを嗜む、夢女子と呼ばれる類のオタクだ。
で、私は不良の喧嘩に巻き込まれて死んだ。
私は不良なんかとは全然無縁の生活を送ってたのに、それでもいきなり絡んで来るのが不良とかDQNとかいう連中だ。
酷い話よね。
でも、そんな私を助けてくれようとした人がいたの。「そんなところにたむろされちゃ邪魔だ」なんて言ってたけど、あれは私を守ろうとしてくれたに違いない。
しかもとっても強かった。相手は何人もいたのに、全然怯まずに倒していった。
颯爽と現れて悪人を倒すなんて、柄にもなくときめいちゃった。
だけど、途中から向こうがナイフを出してきて、その人と私は刺されて殺された。
流石に酷すぎじゃない? 素手の喧嘩に武器持ってくるなんて無粋よね。
そんな事があり、私は前世でプレイしていたゲームの世界に転生したのだ。
『Cheap Princess Emily』
中世欧州風の世界の平民に生まれたエミリーが、色々な国の王子様と出逢い、そして結ばれる乙女ゲームだ。
そのゲームの主人公エミリーちゃんになった私は、偶然にも私と同じように日本から転生したクラスタベルさんと出会った。
彼女は(前世では男性だったらしいが)、ゲームではエミリーが住む国の王子との婚約者で、ストーリーが進むとエミリーをいじめるようになる。
だが、私達は唯一の仲間という事で、とても仲が良くなった。
いや、それだけじゃあない。私にはわかる。彼が、不良に絡まれていた私を助けようとしてくれた人であるという事が。
乙女の勘ってやつよ。いろいろ探りを入れてみたけれど、まず間違いないようだ。
そうなると、クラスタベルさんは私の理想の王子様だ。本当なら男の方が良かったけれど、それはこの際気にしない。運命の相手だもんね。
必死に彼が話しやすそうな女の子を演じて、好感度を稼ぐために色々な事をした。
その最たるものが、卒業会での出来事だろう。
普段から「何が悲しくて男と結婚しなきゃならねえんだよ」と言っていたクラスタさんの為に、王子を罠に嵌めて追放処分にする事ができた。
私はゲームのイベントを全て記憶しているので、ある程度はキャラ達の行動が把握できる。
現に王子は私ことエミリーちゃんの事を好きになり、ちょっと与える情報を絞ってあげればゲーム通りにクラスタさんを追放しようとした。
あれは本来、エミリーをいじめていたクラスタベルを王子が糾弾するエンディング間近のイベントだったのだ。
あれが上手くいった事によって、クラスタさんは嫌がっていた王子との結婚をしなくて済む。
大成功だ。
クラスタさんは貴族なので、きっと今後も似たような縁談が来る事だろう。
でも、私がいるから大丈夫。どんな何があっても、クラスタさんが困るような事は絶対に起きない。
安心してクラスタさん。
あなたが私を守ってくれたように、私もあなたの事を一生守るわ。




