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「借りる、とはいったい…」
いつもとお馴染みのギルドの個室。普段であれば大量の納品を行っている部屋だ。
そこにはギルド長であるピーターと、彼に呼び出されたウィリアム。そして何故かルイもその場に居座っていた。
「あら、師匠の今後の活動は弟子にも関係ありますでしょう?」
ニコリと笑顔を見せると、ピーターはウッと詰まった。
ルイはそこに畳みかける。
だいたい、既にこれから話し合う内容は見当がついているのだ。今ここで言葉に詰まったのが良い証拠である。
「今回のエヴリーヌさんの件を、ウィリーさんに託すおつもりなのでは?」
ウィリアムもそのことは予想していたのか口を挟まない。
ピーターは軽く肩をすくめてみせただけだった。が、否定はしない。つまりそういうことだ。
「読まれてんなぁ」
「こういうことに関しちゃルイに勝つのは無理だと思うぜ?」
「オマエ、尻にしかれそうだな」
いやぁ、と頬をかくウィリアム。
尻にしく、とは夫婦間のことではなかっただろうか。少なくともルイとウィリアムはそういう関係ではない、はずだ。
「何の話をしてますの?
それよりも、それはピーターさん個人からのお願いですわよね?」
尻にしくとかいう発言は聞かなかったことにする。
それよりも、今確認すべきなのはピーターの依頼の方である。
「あぁ。エヴリーヌを止めて欲しい」
ピーターの表情が引き締まった。
それに釣られて、場の空気もヒヤリと下がった気がする。重々しい声でウィリアムが問いかけた。
「一つ聞くが…説得では無いんだな?」
「…説得は、無理だろう?」
苦々しい顔でピーターがうつむく。
エヴリーヌと話したのはほんの少しの時間だ。けれど、きっとあれは紛れもなく彼女の本心。ピーターに伝えてはいないはずだが、それでも彼は何かを感じ取っているのだろう。仮にも、ずっと愛情を持ち続けた相手なのだから。
「エヴリーヌは…変なところ頑固でな。
実は、ほんの少し倫理観やギルドに対する姿勢に首をかしげるところがあった。
ただ、ギルドが欲しい人材はギルドに対するイエスマンじゃねぇ。ギルドという組織がきちんと冒険者のために運営されればそれでいいってな組織だ。
だからこそ、違う視点をもったアイツがいれば、また新しい価値観としてギルドのためになる。…そう思っていたんだ。
だが、それは俺の見込み違いだった」
苦しそうな、悔しそうな独白。
エヴリーヌの夫としてのピーター個人の本音なのだろう。
「俺は、確かにアイツに惚れている。こんなことをされてもなお、だ。
だからこそギルドは、俺にギルド長のままでいることを強いた。そうじゃなければ今すぐにでも追いかけて一緒に死にかねないからな。
いや、一緒に死ぬだけならばまだいい。
返り討ちにあってのたれ死ぬ可能性だってある」
「…否定出来ないな。彼女は俺も知らない"鑑定スキルを欺く何か"を持っていた。
そして、能力の一端も見せつけてきた。
ということは、俺が追っ手になろうとも逃げ切る算段があるということだ」
「それに惚れた欲目のあるピーターさんが追っ手であれば、情に訴えかけて隙を見て殺すことも可能ですわよね。
…正直、殺さず拉致して説得あるいは洗脳しそうですけれど」
ルイは恋愛経験など無い。
それでも、エヴリーヌはエヴリーヌなりにピーターに情をもっているように見えた。ピーターがギルドの一員であることを譲れないように、彼女もダンジョン研究家であることを譲れないだけで。
もし、そんな垣根がなければ二人はまだ幸せに一緒にいたのかもしれない。が、それは考えても無意味な空想だ。
「…俺もそんな手段を持ってれば同じ事してそうだな。
似たもの夫婦ってことかい」
ピーターが自嘲した。
けれど、彼にそんな手段はない。だから、彼は別の道を選ぶしかないのだ。
「だが、俺にそんなモンはねぇ。
そして自分でケジメつけることすら止められた。それが、俺への罰だからな。
だからといって、成り行きに…他の知らんヤツに任せるのもイヤだ。これは俺の意地でありワガママだ。
頼む、ウィリアム。オマエに託したい。
アイツを止めてくれ」
「…俺に依頼するってことは、いいんだな?」
「あぁ。止めてくれさえすれば"手段は問わない"」
「了解したぜ」
これはつまり、エヴリーヌを殺してくれ、ということだ。
言葉にするのは無粋なのでしないけれど。
友に、嫁を殺して欲しいと思う男の気持ちはルイには到底想像できそうもなかった。
なので、ルイは自分にできることをするだけである。
「で、それは個人でのご依頼ですか?
それとも、ギルド長として?」
「「え?」」
男性陣の声がハモる。だがここで怯んではいけない。
冒険者たるもの稼げるときに稼がないといけないのだ。
「その辺りはハッキリさせときませんと…師匠にタダ働きなんてさせられませんわ。
というか、私もついていきますので危険手当くらいはいただきませんと」
一瞬流れた沈黙のあと、ピーターとウィリアムは揃って苦笑した。
「…オマエ、すげー弟子とったな」
「おう、将来有望だろ」
「依頼は俺個人としてだ。ギルド長としてとなると、今度はギルド本部に話を通さなきゃならん。それはめんどいしな」
「あら、通したっていいじゃありませんか。
むしろその方が組織として筋が通っているのでは?」
「おま…二重に支払えってか」
給料カットになったピーターにはきつい条件だろう。だが、別にそこは馬鹿正直になる必要は無いのだ。
「あのですね。重要なのはピーターさんが嫁よりもギルドを選ぶということを周知徹底することです。
その手段として個人としても、ギルド長としても依頼を出す。
正直値段は建前みたいなものですよ」
ギルド内外に、ピーターの立場を明言するための方便だ。個人としてだけでなく、ギルドとしても依頼を出す。これで、ピーターは情に狂ってギルドを捨てることはないと言い張れるのだ。
彼の内心はどうあれ、変なイチャモンをつけてきた輩はこういった事実で封殺できる。
「…ほんとは、手続きはこっちでするから師弟関係の解消を俺からお願いしようと思ってたんだがなぁ」
「あら、おあいにく様ですわ。
そのことでしたらもう既に師匠と相談済です。
まだ学ぶことが残っていますのに、師匠をとりあげないでくださいな」
「ちょっと怖いけど有能で良い弟子だからなー。俺を凌ぐ部分も多い。
あと研究者目線からも色々知恵を借りられると判断した。
実戦不足はこれから解消すればいいだけだしな」
ちょっと怖いけど、という部分は余計だが概ね褒められているようだ。
少なくとも足手まといと言われていないだけで、ちょっと気分が良くなる。
「弟子卒業したら普通にペアとして冒険者できそうだものな。
わかった。んじゃ嬢ちゃんの案でいく。
ただ、正式にギルド長として依頼するとなるとちょっと時間がかかる。その間メグルに滞在してもらっていいか?」
「正直キマイラの方もまだ心配ですしね」
機械の廃墟が元に戻るまでは滞在する予定だったので問題はない。
「…なんつーか、オマエらには世話になりっぱなしだなぁ」
「おう、今度なんか奢ってくれて構わねぇぞ」
「出世払いも可、ですわ」
「勘弁してくれよ。この似たもの師弟め」
参った、という表情をするピーターだが、そこに悲壮感はあまり見えない。
だからこそ、こちらも冗談を交えて笑い飛ばした。
閲覧ありがとうございます。
2章もあと1話で完結です。




