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ギルド長であるピーター直々に声をかけられた優秀な冒険者達と共に、ルイとウィリアムは「機械の廃墟」へ来ていた。
事前に機械仕掛けのキマイラ対策として、全員に付与飯は分配した。今回の任務に就くにあたり、ギルドから支払われる報酬の一部という形だ。本来であればギルドから相応の金額が支払われるべきなのだが、その辺りはルイの交渉術で押し切った。
エヴリーヌは、あのダンジョンへの情熱以外はごくごく普通の、いや、優秀なギルド職員だった。書類仕事があまり得意ではないピーターの補助をし、もめ事を起こしそうな血の気の多い冒険者には上手く釘を刺し、金勘定部門でも上手くやりくりしていた。金勘定においてはクラーラがいるのでそこまで大変でもないだろうが、ルイとしては出来る支援はしてあげたかったのだ。
付与飯は秘密厳守できる人限定で希望者のみとなったが、一定以上の実力がある冒険者はむしろ付与飯の方を喜んでくれたのは嬉しい誤算だった。考えて見れば冒険者としての実力があれば金の稼ぎようはいくらでもある。お金よりも手軽に強化できる付与飯は大変魅力的に映ったようだ。もちろん、本当のコトを全て言うわけにはいかないので結構誤魔化している。付与飯はルイの手作りでは無く、魔法大国ジャナンナの研究成果を元研究員のルイがちょっと拝借してきた、という設定だ。
「いやぁ…ジャナンナこれ売ってくれねぇかな」
「一般販売するのはちょっと難しいでしょうね。
口にするだけでお手軽に強化というのは、変な勢力に渡ってしまえば世界をひっくり返しかねませんもの」
「違いない。
それに、お手軽に強化というわけでもないよな…。飲み込むのにかなり苦労した」
「だな…大量の水が必要だ」
「かみ砕くためにも、そして飲み込むためにも水がいるな…」
ジャナンナ産という信憑性を出すために、断腸の思いでとても美味しくないビスケットを作った。固く焼いたビスケットであればそれなりに日持ちはする。その固さは、大量の水がないと噛めないほど。そして、ひとたび水を含むと内に含んだ青臭さや鉄臭さが解放されるように工夫した。
作りながら何故こんな冒涜的な食べ物を作らなければならないのかと苦悩したほどだ。しかし、朝の忙しいときに作り直すような時間の余裕もなく、過去最高にまずい仕上がりで完成させてしまった。その甲斐あってか皆ジャナンナ産のヒミツ道具であるということに全く疑問を抱かなかった。それはそれで悲しい。
「おーい! 第二陣そっちつれてくぞー!」
「はーい! じゃんじゃん連れてきて頂いて大丈夫です!
それより、巻き込まれないように気をつけて!」
現在ルイたちを含めた冒険者総勢10名は2班に分かれて行動している。高火力砲台であるルイの護衛と、ルイの元に敵を集めてくる言わば釣り役だ。護衛役の一人が司令塔となり、地図を見ながら効率の良いルートを指示してくれている。お陰でルイは集まってきた魔物を片っ端から切り刻むだけという楽をさせてもらっていた。
これで探知スキルのレベルを上げることは出来ないだろうけれど、今回の目的はダンジョンの間引きなため仕方がないだろう。何かしらのレベルがあがれば儲けもの、という程度だ。
「…純粋なジャナンナ人の魔法ってのはやっぱすごいな」
「えーと…全員が私ほどだと思われるとちょっと困ってしまいます。
これでも一生懸命技術を磨きましたので」
本心で言えば「努力を怠ったジャナンナ人なんて冒険の役に立ちませんよ」とか「私は国でもトップクラスでしたから」と言いたいところだ。
だが、自慢ともとれる好感度ダウンな言葉は御法度である。相手はいつどこで協力することになるかわからない冒険者たちだ。謙虚さは残しつつ、のちの亡命や国外脱出をするかもしれない故郷の人間のために誤解はといておきたい。
「いや、うん、この技術が努力無しにできたとは思ってないさ。
ただ本当に凄いなと思って…。
どのくらいから研鑽をつんできたんだ?」
「物心ついたときからですね。あと、ちょっと事情がありまして、ある時から毎日欠かさず寝る前に魔力を使い果たしていました」
釣り役が連れてきてくれたアイアンスパローをバッサバッサと風魔法でたたき切っていく。出来れば同時進行で修行もしたかったので、目線は今会話をしている相手に向け、魔力と気配を頼りにしている。
「…それでこんな常識外れなことができるのか」
「あの…今は一応探知スキルのお勉強中ですので…。
それで前を見ないで頑張っているのですが…あ、打ち漏らしがあったら教えて下さいね!
まだまだスキルが未熟なので」
「いや、今のところ漏らしてない。大丈夫だ。
だからこそ驚いてるわけだが」
ギルドの密偵であるウィリアムは、その能力を生かして釣り役及び偵察役をしている。いつまたあの機械仕掛けのキマイラが出てくるかわからないからだ。
つまり、今ルイは軽く自己紹介をしただけの冒険者と雑談をしながら任務を遂行している。
(社交の、裏の読み合いをする会話は慣れているのですが…。
なんというか、普通に褒められたり感心されるだけの会話は慣れませんわね…)
ルイは人見知りというわけではない。むしろ未来の王となる球体を支えるために、一生懸命社交技術を磨いてきたつもりだ。だが、情報収集でもなく単純な雑談となると結構難しい。
(ウィリーさんとはそうでもなかったんですけれどね。
彼が特別話しやすい…というわけでもない、はず。隠さなければならないことがあるせいでしょうか)
「第一層はこれで粗方なんとかなってると思うぞ。
二層突入準備してくれ」
そんなことを考えていると、にゅっとウィリアムが顔を出した。あちこち駆け回っていたはずだが汗一つかいていないのはやはりベテラン冒険者というところだろうか。
「ルイ、大丈夫か?
疲れていないか?」
ルイはこのダンジョン間引きの要である。だから、ウィリアムがこうやって体調を気に懸けてくれるのは普通なはずだ。
普通なはずなのだが、心配されるという行為自体が何故だかとても心臓に悪い。
「二層の魔物も風魔法で対処可能でしたわよね。
魔力の残量も十分ありますし、まだまだいけますわ」
「少しでも体調不良を感じたらすぐに言ってくれ」
「そうだぜ。冒険者なんてのは体が資本だからな」
周りの冒険者達も気遣ってくれている。それが、なんだかむずがゆい。
「ええ、少しでも異変があればすぐに頼らせて貰いますね」
にっこりと笑顔を浮かべたつもりだが、果たしてそれは上手くいっているだろうか。戸惑いだとかが表に出ていないかヒヤヒヤしてしまう。
「さて、とりあえず俺が偵察行ってくるか。
もし二層も魔物で溢れているようだったら入った瞬間から危険だしな」
「それに機械キマイラだったか? そんなんもいる可能性があるだろう?
俺ぁここのダンジョンほとんど来たことないが、剣が通じないってだけで寒気がするぜ…」
「その辺りの謎は全然解明されていないからなんとも言えん。だが、謎を解明するために街の人間を危険に晒すわけにはいかないからな」
「あぁ。それは当然だとも」
周囲の冒険者達の会話を聞いて、ルイは自分の思考がそれほど世間から外れたモノではないことに少しだけ安堵した。
それと同時に、エヴリーヌのことを考えてしまう。研究が彼女の倫理観を外したのか、それとも元から外れていた彼女がたまたま研究に没頭したのか。答えはわからないけれど、どちらであってもルイと道が交わることはなさそうだ。
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