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「いやー、清々しいほどのオーバーキルだったな」
はっはっはと笑うウィリアム。彼は今回のことが予測できていたらしい。
確かにルイも周りの惨状を見ればやり過ぎたと思わなくもない。ルイが魔法を放った空間だけ地面が凹み、周りの草木は焼けただれ、生木の燃えた匂いが充満している。
しかし、一応ルイにだって言い分はあった。
「仕留め損なったら、だめじゃないですか。
だから焦ってうまく当てられなくても何処かに着弾したら爆発するように火球を作ったのですが…」
ルイは自分に実戦経験が少ないという欠点がわかっている。だからこそ、そこを補うために少しヘマをしても確実に倒せるようにした。確かにオーバーキルは否めないが、逃がしてしまうよりはマシなはずだ。
「発想は悪くないけど、ハネウサギ相手と考えるとオーバーキルどころか、15回くらい殺してるな。
でも、正直やりすぎ」
「そうですか」
やりすぎは確かにそうだがそんなに悪いことだろうか、と考えてしまう。
「ハネウサギは、初心者が初めて受ける討伐依頼としては難易度が高いのは確かだ。
けれど、君の魔法は並の冒険者とは一線を画す。その自覚もあるよね?」
「そう…なのでしょうね」
確かに、魔法大国でトップを走ってきた以上、純粋な魔力で冒険者に劣っていると言われてしまうのはちょっとイヤだ。
「祖国でどうだったかは分からないが、少なくとも現役の冒険者の中に君と同等の魔法を使える者はいないと思う。君より上手い魔法の使い手はいないと考えていいわけだ。
現在最強の冒険者魔法使いと言われている人がいるけれど、君とその人のレベル差はそこまでないと思っていい」
「会ったことがあるんですか?」
「まぁ一応な。見かけただけだけど。
で、話を戻すけれどその人はハネウサギ一匹倒すのに、あんな大掛かりな魔法は用意しない」
「あれは特に大掛かりでは…」
ちょっと魔力を練ってちょっと爆発するよう工夫するだけだ。
が、ウィリアムはバッサリルイの言い分を両断する。
「いや、大掛かりなんだって。
君は大分魔力が多い方だから、何発でもあれを撃てるんだろう。けど、基本的に冒険者ってのは余力を残しておかなければいけない。
全力を尽くして戦うのは物語の中ではいいけれど、現実世界でやっちゃだめだ。
強敵を倒したあともきちんと生き延びなきゃなんだから。
全力を尽くして戦ったのち、普段なら倒せるような相手に殺される末路なんてイヤだろ?」
「そう、ですわね」
確かにそんな末路はイヤだ。
それでも、ルイとしてはまだ反論したい気持ちはある。あの程度で余力がなくなるほどヤワな鍛え方はしていない。
けれど、ウィリアムの次の言葉で、そんな気持ちもふっとんだ。
「あとな、あれ目立つ。
無駄に目をつけられた冒険者の末路もまぁ知れてるよな」
「…倒せるギリギリを見極められるようにがんばりますわ」
目立ちたくない。というより、目立って変なモノに目をつけられたくない。
ルイはただ平和に料理や魔法の研究が出来る生活がしたいだけなのだから。ただ、その研究が魔法大国でもちょっと知られていない技術なだけで。
「うん、それがいい。
こんな浅い階でダンジョンがこんなに壊れることそうそうないから」
先程からルイが破壊したダンジョン、木々や地面はゆっくりと修復を始めている。
燃えた草木はゆっくりと青々とした葉に戻り、えぐれた地面を覆っていく。その様はちょっと不気味でもあった。あと少しすればここでオーバーキルがあっただなんてわからなくなるだろう。残るのは何かが燃えた匂いくらいだろうか。
ダンジョンというものは自己修復機能がある、と教わったけれど自分の目で見るととても不思議な光景に見えた。
「…エヴリーヌさんが魅せられるのもわかる気がしますわ。なぜ修復するのでしょう?
時間があれば思う存分調査したいところですね」
「うん、その辺りは共感しづらいな!」
頭を使う分野は俺の専門ではない、と良い笑顔でウィリアムは言い切る。そんな師匠に苦笑しつつ、ルイはこれからの方向性を考える。
「…ともかく、殺傷力を落として…それと、周りへの影響も考えなければいけませんね。
風魔法で狙いを正確に首を飛ばすのがいいかもしれません」
「うん、いいかもな。
それなら外で狩りしたときも肉が残るから食える」
「あっはい」
ウィリアムのブレない肉への情熱を流しつつ、試行錯誤する。
その後何度かハネウサギに遭遇しては、考え得る方法をできるだけ試してみた。結局、風魔法を操ることがルイには一番やりやすいということがわかった。
その結論が出るまでにそれなりの量のハネウサギが犠牲になっている。おかげでギルドのランク昇格には困らなさそうだ。
「大分サマになってきたんじゃないか?」
「そうですね。
…このくらいの魔力でいいのでしたら属性魔法の付与は不適でしたね。魔力が強くなりすぎて微調整が難しいです。特に風魔法は目に見えづらいので周りに人がいたら巻き込みかねません」
「ああ、そうか。もともとめちゃくちゃな魔力してるのに今属性魔法強化してるんだったか」
出力を強化すると、どうしてもその力が強くなりすぎて制御がしづらい。魔力の制御は得意な方だという自負はあったが、やはり実戦となると難しいことが多いというのは新たな発見だった。
「ええ、どの魔法が適しているのかわからないので満遍なく強化したのですが…裏目にでましたね。
明日以降は威力強化よりも調整できるような付与をかけた方がよさそうです」
「次の課題を自分で見つけられてりゃ立派なもんだよ」
上出来だ、とウィリアムに褒められてちょっと頬が緩みそうになる。
(…褒められるってこういう感覚ですのね。むずがゆいというか、なんというか。
表情が崩れてはいない、と思うのですけれど)
ジャナンナにいた頃は、誰かに褒められたことなどまずない。何をやっても当然だった。むしろ、努力が足りないとすら言われていたのだ。
いつか見た書物には「褒める」とは上下関係の始まりだ、と書いてあった。それ以来、誰かに褒められない自分は上下関係に囚われていないんだとポジティブに解釈して褒められない理由を肯定していた。
けど、実際に褒められてみると、むずむずとした感覚を抑えられない。
(ウィリーさんは私の師匠で、上の立場の人間ですわ。
だから、褒められたって不自然じゃない。だから、喜んだっていい…はず)
けれど、長年貫いてきたスタイルはそうたやすく崩れない。
「ありがとうございます。明日はもっと成長してみせますわ」
本当はもっと可愛げのある言い方をしたかったところだけれど。素直に嬉しいと口に出すことがなんとなく憚られてこうなってしまった。
しかし、ウィリアムは特に気にせず笑う。
「んじゃ、この勢いで回避と探知スキル獲得しに下に潜ろうか」
「スパルタですのね。
まぁ、魔力もまだあるので構いませんけれど」
「はっはっは。頼もしいな。
ま、何かあったらちゃんと守るから安心していいぞ」
「…頼りにしてますわ」
地図を確認しながら下層へと降りる階段を探す。
多分、一瞬だけ昇った熱には気付かれていないはずだ。
(…褒めるとか、守る宣言とか…普通の女性なら当たり前にされていたことなのでしょうか)
今までされたことのない扱いに、どうしても反応が一瞬遅れてしまう。
多分ウィリアムには気付かれていないとは思うけれど。
「あると便利だからなー、回避も探知も」
「でも本音としてはお肉が食べたいのでしょう?」
「うっ…。
いやまぁそっちも否定しないけど、弟子の成長も願ってるぞ? ホントホント」
相変わらずのウィリアムの言葉に笑みを零しながら、今日の献立を考える。
きっとウィリアムは大量の肉を狩るはずだから、それを使って好きそうなものを作ってあげよう。
回避と探知スキル獲得のために、体力が尽きなければ、の話だが。
閲覧ありがとうございます。
明日も12時頃更新の予定です。
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