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ギルド内の一室にて。
誘拐犯からの聴取も終わり、クラン「黒羽の使者」の方も、文字通り終わりとなった。
大半は犯罪奴隷へ。売る側から売られる側になるとは、皮肉なものだ。
残りの騙されて入った奴や、まだ何も知らなかった新人は気の毒ではあるがペナルティが課された。まぁ、今後のための社会勉強といったところだろうか。それなりに真面目にやればすぐに解除されるようなものなので頑張って欲しいと思う。
ちなみに誘拐実行犯は当然のことながら犯罪奴隷行きだ。武士の情けで「か弱い女性にしてやられた上に諸々を垂れ流した」という情報だけは流さないでおいたが、それでもこの先の人生が真っ暗なことには変わりない。
そんな戦後処理が決定する前に、ウィリアムは被害者であるルイからも事情を聞いていた。
「一応調書は作らなけりゃならんのだが…多分、他に聞かれちゃまずいことしたんだろ?」
ルイの素性はできる限りばらさない方が良い。
ウィリアムはギルド内ではそれなりに顔が利くので、こうして調書づくりを一任された。
「勿論ですわ。
どう取り繕おうかと思っていましたが、ウィリーさんでしたら全部教えた方が早そうですね。
判断はお任せします」
悠然と微笑むルイだが、未だ女帝モードの影を残している。
ウィリアムであってもちょっぴり怖じ気づきそうな迫力があった。殺気とはまた違う、貴族の迫力、とでも言えば良いのだろうか。
「ただなぁ…お前さんにめちゃくちゃ怯えてるってことはギルドの協力者全員見ちまったし、どうしたもんか…」
「ただのか弱い魔法使いですのにね。
まぁ一部の種明かしはしても構いませんよ。
その方がつじつまが合いやすいでしょう?」
「んじゃ、ざっくりと聞かせてくれ」
「わかりましたわ。
…ところで、ウィリーさんはどのくらい身体魔法のことをご存じでしょうか?」
種明かしが始まると思ったら、何故か身体魔法の知識を聞かれてしまう。
ウィリアムには魔法全般の知識はあまりないとわかっているだろうに。
「身体魔法っていうと…魔力で体を強化したり、回復したりするやつだろう?」
「えぇ、そうです。
ちなみに、ウィリーさんは身体回復を受けたことはありますか?
自分で回復するのではなく、他人に回復して貰った経験という意味で」
ルイの目の前で回復魔法を使った覚えはある。とても拙い魔法だが、それでも無いよりは大分マシだ。
「回復してもらったことはあるっちゃあるが…あんまり覚えてないな。
すぐに治るが、あれバカみたいに値段が高いだろう?」
回復魔法を受けたのはかなり前。やっと駆け出しの身分から脱したと言えるようになった頃、身の丈と合わない依頼を受けたときだろうか。話せば長くなる上情けなくなるので言葉を濁す。
ともかく、一瞬で治りはしたが暫く借金生活に陥るような値段だった。
「どのくらいかはわかりませんが、たぶん正当な技術料だと思いますよ。
そもそも、他者の性質に合わせた魔力を過不足なく流して傷を癒やすなんて、並大抵の腕じゃ出来ないことですから」
ルイが言うには、魔法で傷を癒やすには相当なコントロールと魔力がいるらしい。
そして、それを悪用することもできる、と。そう言いたいらしい。
「体の中に無理矢理合いもしない魔力を流すんです。
そりゃあもう、筆舌しがたい苦痛だとは思いませんか?」
そう言いながら、ルイはウィリアムの手を取る。女性らしい小さくて、柔らかい手だった。
動作があまりにも自然で、警戒したときには遅かった。
「まさか…っっ~~!?」
取られた手から、激痛とも怖気とも言えぬ何かが走った。思わず手を振り払う。そのこと自体は予測していたようで、振り払われてもルイは笑顔を浮かべたままだった。それが大変恐ろしい。
「こんな風に、意識があると大抵は逃げられます。
ですが、怪我人は逃げられないんですよね。なのでもともとの傷も相まってショック死してしまう場合もあるんですよ」
「つらっと恐ろしいことを言わないでくれ…。
でもまぁ…あいつがペラペラ話す気になった原因はよくわかった」
先程の一瞬だけであの苦痛だ。恐らく身動きがとれなかった誘拐犯はいったいどれほどの苦痛を味わったのか。
正直、想像するだけで恐ろしい。
「これが、あの方にしていたお仕置きですわ」
「お、おう。からくりはわかった」
それなりに痛みなどには耐性のあるウィリアムですら反射で逃げ出す苦痛。それをどのくらいの時間浴び続けていたかは知らないが、ちょっとだけあの男に同情してしまった。
「ただ、これは知ってるやつは知ってる情報だよな」
「えぇ。回復術士として活動している方は当然知っているかと。
なのでこの辺りは別に周知しても問題はない、とは思っています」
「ってことは、アイツが身動きとれない状況に追い込んだ方法がヤバイってことか…。
もしかして、グラスが転がっていたがアレか?」
ほぼ何も無い室内にあったのはテーブルとグラス。それと壊れかけたスツールくらいだ。
「ご明察。
私の前で飲食をするんですもの…付与して下さいと言っているようなものです」
「ってことは、毒もあつかえるのか!?」
毒魔法というのはウィリアムは聞いたことがない。しかし、スキル同様魔法の世界は未知数だ。そんなものがないとは断言できない。
ただ、ルイは今回は違うと首を横にふった。
「そこはナイショです。
ただ、今回使ったのは毒ではないことはきちんと宣言しておきますね。
ちなみに、また身体魔法の話になりますが、ダリアムでは医者が回復術士を兼任していたりはするのでしょうか?」
「そういう奴もいるな。
医術の知識と魔法の知識があると病魔をとりだしやすい、とかなんとか」
この世界では怪我と病気では病気のほうが恐れられている傾向がある。何故なら、病気は原因が分からないからだ。
一般常識としては、病気は病魔が体内に入り込み悪さをしているから起こる、と言われている。そして、病魔は薬で退治出来なければそのまま死んでしまうことが多い、とも。
「どうやって病魔をとりだすか、までは知らないと言う感じでしょうか?」
「そりゃまあ…一応この年齢まで医者にかかる病気はしてないからなぁ」
「それは大変幸運でしたね。
なにせ、病魔を取り出すというのは、文字通り病魔に侵された部分をえぐりとる、ということに他ならないのですから」
「はぁ!? なんだそりゃ!
わざわざ怪我させるってことか?」
「そうなりますわ。そうしないと病魔が体を支配して死んでしまうんですもの。
でも、わざわざ怪我をさせて、病魔に侵された部分を抉るなんて…とても苦痛が伴うことだと思いません?
どんなに我慢強い人でも暴れたくなりますわよね」
想像するだけで痛い。
確かに病魔に侵された場合、その部分をなんとかしなければ余命は長くないだろう。だが、自分の体にわざわざ傷をつけ、抉られるなんて正気の沙汰とは思えない。
「そりゃそうだよ。俺はできれば遠慮したい…」
「えぇ。ですから、回復術の心得がある医者は、暴れられないように麻痺させるのです」
「麻痺…あの、しびれクラゲが使ってくる?」
海辺や、海を模したダンジョンでたまに出てくるのがしびれクラゲだ。ふよふよと水中空中どちらでもお構い無しに浮かび上がる半透明の物体。個々の強さはそれほどでもないが、柔らかくて弱そうな見た目に反して強敵だ。何せその触手に触れられると体が思うように動かせなくなる。そして動けなくなった獲物をしびれクラゲは食らうのだ。動くこともできないまま、補食される恐怖は想像を絶する。
「あぁ、そういう魔物がいるんでしたね。たぶんそれであっていると思います。
で、その麻痺という症状は単純に動けなくなるものと、痛覚などの感覚も遮断するものがあるんです」
「へぇ、そりゃ知らなかった。
なるほど、動けなくした上で痛みもないならまぁ…抉られてもいい、のか?」
「死ぬよりはマシだと思いますよ。うまくすれば病気の苦しみもなくなるわけですし」
「なるほどなぁ。
つまり、麻痺させる魔法をあいつの飲んでたやつに付与した、と」
「えぇ。もちろん痛覚も麻痺させては実のあるお話ができないので、動けなくさせるだけの麻痺ですけれどね」
「…えげつねぇ」
この先、この恐ろしい弟子を怒らせないようにしよう、と誓うウィリアムだった。
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