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02


「さて、準備はしてきたとは言え、ここまで急に事を起こされるのは想定外ね。

 手持ちの武器をどうやりくりしようかしら…」


 生家であるガルニエ公爵家に向かう馬車の中でルイーゼは思案する。

 もともと国を出る予定で準備は進めてきたが、今回のことは予想外だった。早くても夏を過ぎてからだとばかり思っていた。夏の長期休暇中に未来の王子妃として王子とともに行う公務があったからだ。だが、アリエンティオ王子はそれを待たずに公衆の面前での婚約破棄という暴挙にでた。

 それほどまでにアリエンティオ王子に嫌われていたのだろう。もしくは、巷で流行っている小説通り「運命の恋」とやらにでも出会ったか。ルイーゼにはその辺はどうだって構わない。


 アリエンティオ王子だけでなく、現王妃であるアリエーヌ王妃にもルイーゼは嫌われている。

 どちらかというとそっちの方が問題だ。

 王子に権力はなくても、王妃には多少ある。

 王家お抱えの騎士やら暗殺者やらを差し向けられてはたまらない。

 現国王であるリアリズ王は話のわかる人物ではあるが、情には流されないということを知っている。これから国を出奔する公爵令嬢と、現在の王妃。どちらをとるかは明白だ。


(というか、あの国王様がもう少し情のわかる人だったらよかったのだけれど)


 現国王リアリズは徹底した現実主義者だ。

 その気質は国王には向いている、といえるかもしれない。常に国にとっての最善を選ぶことができる人物だ。わかりやすく言えば、千を生かすために百を殺すことを厭わない。

 そして今回のことでルイーゼは国王にとって切り捨てられる側に回るのは確実だ。

 ルイーゼはリアリズ王と、ちょっと話が合いすぎた。

 何を生かし、何を切り捨てるべきかという話でウマが合いすぎたのだ。そのせいで、アリエーヌ王妃から国王との浮気を疑われてしまった。

 王妃から嫌われている理由はここにある。お陰様で王妃教育は嫌がらせの山。ついでにマザコンのケがあるアリエンティオ王子にも毛虫のように嫌われた。もっともアリエンティオ王子は「大事な母上が嫌いな女」としか見ていなかったように思うが。万が一王子までも浮気を疑っているのであれば相当だ。そうじゃなくても相当おつむが心配な王子なのに。

 もし、王妃が今日の婚約破棄事件を知ったら嬉々として抹殺しにくるだろう。勘違いの嫉妬だというのに理不尽な話である。それもこれも、リアリズ王がきちんと夫婦の会話をしていなかったせいだ。


 とまぁそんな理由で、ルイーゼには時間がない。

 王家から何をされるかわからないのだ。その上見栄っ張りな実家の問題もある。

 実家の方はもうルイーゼが何を言おうとも変わらない。普通に考えれば、一方的に公衆の面前で罵倒ついでに婚約破棄してきた王子に非があると思うだろう。だが、相手はこの国でも珍しい全ての属性魔法に適性がある王子。かたや水魔法の名家に生まれながら水魔法に適性のない落ちこぼれ。

 彼らがどう判断を下すかなんて火を見るよりもあきらかだ。


「何をしようとしても妨害されるでしょうね。

 最悪もう話が伝わっていたら中に入れない可能性もある…。大事なものはアイテムボックスに入れているけれど…部屋にある大量の魔道具は惜しいわ…」


 国の外に出れば、魔道具は高く売れる。

 特に、隣国はダンジョンが資産であるダンジョン大国だ。たくさんの冒険者がダンジョンに潜り、生計を立てている国。国内外からたくさんの冒険者が集まってくるあの国であれば、ルイーゼお手製の魔道具はそこそこの値段がつくだろう。

 それがあるとないでは今後の生活が違ってくる。世の中先立つものはやはりお金なのだ。


「貴族として多少の戦闘経験はあれど、実戦とは程遠いわ。

 無謀にもダンジョンに挑戦して死ぬなんて未来はまっぴらよ。目標は魔道具でほどほどに稼いで、最終的には趣味で生計を立てて気ままに暮らすこと」


 自分を嫌ってくる人達のいない世界で、自分一人で出来るだけ長くゆったりと生きていきたい。それがルイーゼの願いだ。

 ダンジョンに潜って常に命の危険と隣り合わせという生活は御免被りたい。

 その点、自分の付与魔法という特技を生かせる魔道具売りは当座の生活費を稼ぐのに大変都合がよかった。

 そのためには、今まで練習のために作ってきた在庫も出来れば持って行きたい。


「時空魔法の適性がもっとあればよかったなぁ…。大きめの鞄サイズになると丸一日は潰さないと上手く付与できないんだもの」


 この世界の魔法は大まかに光・闇・風・土・水・火の6要素魔法と、時空魔法や身体魔法などの特殊魔法に分かれる。ルイーゼが得意とする付与魔法も特殊魔法に分類される。

 付与魔法とは、6要素魔法や特殊魔法を何かの物体に付与する魔法だ。例えば、身体魔法に分類される身体強化や身体回復などの魔法をアクセサリーにつければ常時強化及び回復されている状態になる。火を付与した剣で焚き火を起こしたり、風を付与した弓矢を遠くに飛ばしたり、など様々なバリエーションがある。

 特殊魔法の中でも更に別枠として扱われ、日夜研究が行われている。魔法の研究はまだまだ途上でわかっていないことも多い。だからこそ、この国はその魅力にとりつかれ日夜研究を行っている。


 アリエンティオ王子は全属性の適性持ちなので、このどれをやらせても人並み以上にできる、というわけだ。

 ちなみにルイーゼは水が壊滅的で、土と身体が得意、それ以外が全て人並み以上、といった感じ。水魔法が不得意とわかって以来、それ以外の魔法を血反吐を吐く思いで努力した結果だ。ダルニエ公爵家にさえ生まれていなければ、かなり優秀だと評価されるだろう。


 先ほどルイーゼが言っていた時空魔法とは、空間を操る魔法だ。もしこの魔法に適性があれば、時空の狭間に自分だけの異空間を持つことができる。何日もダンジョンに潜る冒険者や、運搬業に人気の魔法だ。だが、この魔法は8種類の中でも一番燃費が悪い。何せ異空間を維持し続けるということは、ずっと魔力を使い続けていることに他ならないからだ。

 かなり努力をしたルイーゼであっても、一日中ずっと維持できるのは両手で抱えられる箱一つ分の大きさくらいである。

 ただし、付与魔法を使えば話は別だ。上手く鞄に時空魔法を付与できれば、それは魔力消費なくたくさんの荷物を運ぶことができる。これは通称「アイテムボックス」と呼ばれ、なかなかの高級品として国外で取引されている。その分付与魔法を定着させるためには丸一日以上の時間と莫大な魔力が必要になるのだが。

 そういった理由で、ルイーゼが今異空間に収納しているものは厳選された箱一つ分の荷物だ。中身はこんなことになるとは思っていなかったため現金や貴金属が多い。それと、時空魔法を付与している大きめの鞄一つだけ。

 ちなみに異空間の中にアイテムボックスをいれるのは可。しかし、アイテムボックスの中にアイテムボックスを収納する、というのは不可だった。何故かいれようとしても入らない。これも日夜この国の誰かが熱心に研究している課題だ。これが出来ればいくらでも運搬が可能になるが、世の中そう上手くは回っていないらしい。


「持って行けるモノは厳選しないとだし、家族に見つかってもいけない…結構ハードル高いわね」


 頭の中で持って行くモノの算段を始める。

 まず、かさばる武器の類いは速攻で諦めた。逆に、小さくとも効果が変わらない付与魔法の練習に使ったアクセサリーの類いは全て持って行く。勿論、数は多くないがアイテムボックスもだ。アイテムボックスの中にアイテムボックスを収納するのは不可だが、自分で維持している異空間にアイテムボックスを入れることはできる。

 そうやって脳内で持って行くモノを粗方ピックアップし終えたところで、公爵家に到着した。


 これからルイーゼの荷物回収RTAが幕を開けるのだった。

毎日お昼更新頑張ります!

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― 新着の感想 ―
[一言] 国王がソシオパスなのはちょっと大丈夫なのかと。
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