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そういえばそのために呼んだのだった、という顔をするウィリアム。これが本心かどうかがわかりにくいのが、やはり年の功ということなのだろうか。
「特別Cランク。冒険者としての実力はCランクにあたらないものの、ギルドとして保護する価値があると認められたものに与えられるランクです。
普通のCランクと変わらない権利がありますが、何処へ行くにもCランクより上の冒険者3名以上の護衛、もしくはAランク以上の冒険者1名の護衛が必要になります」
カイムが淡々と説明を始めた。
つまり、ウィリアムとジャナンナ脱出のため組んだ徒弟関係はこれですぐ解消できるということだ。
しかし、これにも弊害がある。
「まず確認なのですけれども、私はその特別Cランクに値する価値があると判断して貰えたのですね?」
「そうですね。
ここまで付与魔法を使いこなし、現時点でこれだけの付与アクセサリーがありますから。
申請すればまず間違いなく特Cランクと認められるでしょう」
「…同じだけをすぐ量産しろと言われても困りますけどね」
付与術師としてギルドに雇われると、毎日ノルマでも課されるのだろうか。
与えられればこなすだろうけれど、ソレが毎日だとちょっと息が詰まる気がする。魔法の研究は好きでもノルマとなるとやはり苦しいものだ。
それを懸念して予防線を張ると、カイムにそっけなく返される。
「こちらとしてもあまりすぐ渡されては困りますね。
在庫がたっぷりあると分かれば値段があまり上げられません」
「腹黒商人って怖いよなー」
ウィリアムが混ぜっ返すがカイムはそこは気にしていないようだった。
「事実ですから」
「ちなみにカイムはガチ商人で、その計算能力とかを買われてギルド内で勤務してる。
特にジャナンナからの冒険者向けに輸入される付与道具をダリアム国内全土に行き渡るよう調整してるってわけ」
「ギルド内に勤務かつ、居住地もギルドの敷地内ですので私個人に護衛はついていませんがね。
言わばギルド全体に守られているようなものですから」
「…それって結局ギルドの監視下ということですよね」
「まあ、そういう風にも言えますね」
あっさりと肯定するカイム。
彼は恐らくこの境遇に特に文句はないのだろう。ギルド内だけで生活を完結させてしまえば、確かに護衛はいらない。ただ、遠出や旅行はしないということになる。
それは、折角自由を手にするために出奔したルイにとってはちょっと遠慮したい。
「自由に動けない、ということですよね」
「まあそうなるなぁ」
見知らぬ誰かに監視兼護衛をされるか、ウィリアムの元で冒険者としてのアレコレを覚えながら行動を共にするか。
どちらも一長一短だ。
ルイは冒険者を毛嫌いしているわけではない。ただ、魔法で殺生できると思えないだけだ。そうなると通常の段取りで冒険者Cランクをとるとなると大変時間がかかることは窺える。
逆に特Cランクになり徒弟関係を解消し、誰かに護衛されながら街で好きなことをするという道も用意された。しかしそれは本当に自由なわけではない。もしかしたら今後やりたいことも制限される道のように思えた。
「今焦って答えを出す必要はない。選択肢の一つというところだ。
身の安全を守るために、様々な人間が周りにいるだけと思ってくれりゃ良い」
ウィリアムはそうフォローを入れてくる。
どちらにしても、お一人様で自由気ままな人生というのは楽に手に入るものではないようだ。自由とは結構お高い買い物らしい。
「正直あなたの護衛としてこの人を持っていかれるのはギルドとして困るんです。
この人以上に優秀なスパイがあまり育っていないので」
カイムが口を挟んでくる。
この口ぶりだとウィリアムはかなりの腕なのだろう。適材適所という言葉もあるし、優秀な人間にはそれなりの仕事をこなしてもらわないと組織が回らないというのはわかる。
だが、ウィリアム自身は暫く密偵の仕事から離れたいようだった。
「だから俺は一度失敗したって言ってるだろ。顔も割れた。
しばらくはほとぼりが冷めるまで普通に冒険者してるしかねーって。手伝いとか情報提供はするからその辺りで勘弁してくれよ」
ウィリアムの声音は疲れ切っていた。書類仕事が大変だったのかもとも思うが、それ以上に密偵という仕事をやり続けるのは心理的負担も大きいことは予想できる。
ついでに言えば、彼はジャナンナの国境を覆う結界に生身で突っ込んだのだ。
疲労やダメージが回復しきったとは思えない。
「…確かに私の一存では決められません。
が、それでもただの護衛にするには惜しいと思います。
というより宝の持ち腐れです」
「たまには冒険者らしいことしたっていいだろ。
俺もいい歳なんだしさぁ」
「…ここで話していても埒があかないと思うのですけれど。
それと一つお尋ねしたいのですが、冒険者ギルドとはこんなにも自由が認められない組織なのですか?」
カイムを見据え、ルイは口を開く。
どちらにしてもルイに行動の自由はない。そして話を聞いていれば、能力のあるウィリアムにも仕事を選ぶ自由が与えられていないように思えた。
「自由を謳っている割には、私の行動の自由も、ウィリーさんの仕事を選ぶ自由もないように思えますけど。
それはギルドの総意ですか?」
ジャナンナにいる頃から知っている知識。ダンジョン大国ダリアムは自由の国だ、と聞いていた。食事に一切の制限はなく、恋愛も自由で恋人が複数いる人間もいる。結婚も双方の合意があれば複数人、あるいは同性でも認められている。
ただし、それらの権利を行使した先の責任は自分に返ってくる。自分の命を懸けた自由になる、と。
他国ですらそういう風に認識しているのに、中に入ってみればこんなにも制限が厳しい。それは少し違和感がある。
正直に言えば疑っているのだ。この目の前の人物が、ギルドの利を考える余り越権しているのではないか、と。そんな雰囲気を滲ませて問えば、さっと目をそらされた。どうやらルイの予想は当たっていたらしい。
「…そう捉えられると少しばかり困りますね。
ここは保留にしておきます」
「そうですか、わかりました」
追撃しても良かったが、別に目的は彼を攻撃することではない。
どの選択がより良いものなのかを見極める時間が欲しいだけだ。
正直なところ、ウィリーがそこまでの手練れであるのであれば簡単に縁を切るのは惜しいと思っている。ウィリアムの口ぶりからすると、正当な手続きでルイをCランクにするつもりはあったように思う。
積極的に冒険者になりたいわけではないが、冒険者としての知識はあって損にはならないはずだ。
「んじゃとりあえず、ルイさんが決断するまでは徒弟関係据え置きってことで」
「わかりました」
カイムの顔にありありと不本意である、と書いてある。
そう簡単に顔に出すようでは彼もまだまだ、ということだろう。怜悧そうな雰囲気はあるが、多分彼はルイよりも少し年上なくらいだ。自分の考えを読ませず、相手の考えを引きずり出すのが社交界の常だったため、どうしてもそういった目線で観察してしまうルイだった。
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