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 案内された部屋は小さな会議室のような作りをしていた。

 書類が散乱しているので、それなりに手続きが大変だったことが窺える。確かに、任務のせいで不法出国したようなものなので、その辻褄あわせが大変なのだろう。

 数十分ぶりの再会なのだがウィリアムはややげっそりしているように見えた。


「待たせたか? 結構色々手間取っちまってな」


「いえ、本がたくさんあったので時間は潰せましたよ」


 あまり丁寧な言葉になりすぎないように気を付けながら返事をする。

 ウィリアムだけならば本来のしゃべり方でもいい。しかし、部屋にはもう一人いた。小麦色の髪をを持つ眼鏡をかけた細身の青年だ。


「こいつは特 C クラスの冒険者兼冒険者ギルド職員だ。名前はカイム。

 特 C クラスの説明をするために呼んだんだ」


 特Cクラスという耳慣れない単語。それがどういったものかを説明する前にカイムが話し出した。


「まずはあなたが売ろうとしていたものを見せてくださいますか? それが特クラスに値しなければ説明の必要もありませんので」


 なんとなくナチュラルに喧嘩を売ってくるような物腰だ。上から目線とでも言えばいいだろうか。とはいえ、相手の意図が読めないのでまずは言うことに一応従ってみる。


「別に構いませんよ。売り物は大量にあります。

 ですが、どのようなものか指定していただけません?」


「では、あなたが売ろうとしていたものの中で一番価値の高いと思うものを見せてください」


 やはり言動の端々から試されているような気分になる。

 カイムという人はどちらかというと冒険者よりは商人のような雰囲気が感じられた。纏っているものが軽鎧ではなくスーツなせいかもしれない。細いフレームのメガネも戦闘には不向きだろう。

 ほんの少しだけ、あとで見てろよ、という気持ちになってしまった。


「一番価値のあるもの…ですか」


 だが、一口に一番価値のあるもの、と言われても少し困ってしまう。

 何が一番価値のある魔法なのかという論争はジャナンナでも日常茶飯事だ。だがそれも所詮は研究者目線。ここで求められるのは、冒険者にとって価値が高い、ひいては売ったときに値段が高くなるものが求められているはず。

 付与道具は高く売れる、ということは聞いていた。しかし、王都で商人ギルドの実績作りのために売りさばいた付与アクセサリーはどれも差がなかったように思う。


 ルイは少し迷ってから、異空間を開く。その中からあまりモノを詰め込んでいなかったアイテムボックスを取り出した。


「一番価値が高い、となるとこれになると思います」


 取り出したアイテムボックスは女性用の小さな鞄だ。ルイが通学していた時に愛用していたものである。


「この中には何が入っているのですか?」


「いえ、中のものも確かに付与魔法はかけてあります。

 ですが、一番価値が高いとおもったのはこのバッグそのものです」


 ルイが一番価値があると判断したのはアイテムボックスだ。

 このアイテムボックスは、ルイが学園生時代に丸一日かけて作った愛用品である。当時のルイにできるいちばんの魔力を丸1日かけて込め完成させた代物だ。失敗すればバッグ自体がなくなってしまうということもあり大変緊張したの覚えている。お気に入りのバッグに付与魔法をかけることで緊張感を高め、当時の自分の魔力以上の結果が出せたものだと自負している。

 あれからそれなりに修行を積み、今ではこのランクのものをもう一度作ることは不可能では無いはずだ。しかし価値という時点ではこれが最も高いと思われる。

 このバッグの容量は、ルイができる空間魔法の中で最高のものだ。ちなみに、実はいくら積まれても売る気はない。


「なんと…」


「アイテムボックスまで作ることができるとは…」


「一つ先にいっておきますが、量産は不可能と思って下さい。

 それと、このバッグの中に入るのは両手で一抱えほどの荷物です。大魔道士にでもなればこの部屋一つぶんくらいは作れるのかもしれませんが、私にはまだ無理です」


 いくら研鑽を積んだとしても当時のルイはまだ学生の身分だった。魔法の研鑽を積む以外にも雑務が山ほどあったので、それだけにかかずらわってるわけにはいかなかったのだ。才能だけの話でいえば、いずれは出来たかもしれない。そしてもちろん、これから修行していつかはこの部屋くらいの収納は出来るようになるつもりだ。


「いえ。そもそもアイテムボックスというだけでかなり貴重品ですから…。

 確かにこれは一番価値があると言われても納得できますね」


 冷たそうな印象だったカイムの雰囲気が変わる。

 少なくともギルドに有用である、という評価になったのだろうか。そのことで少し溜飲が下がった。


「逆に、そこまで価値がないとルイが判断してるものの方が俺は怖いんだけどなぁ」


 微妙に苦笑しながらウィリアムが続ける。


「どういうことですか」


「どうもこうも。このお嬢さんは出身がジャナンナ国だ。

 結構いいところのお嬢さんみたいでね。正直ダリアムの庶民感覚や冒険者感覚とはかなりかけ離れた価値観の持ち主っぽいぜ。

 それの中身見せて貰えばわかるさ」


「…正直言い返せるような材料がありません。

 とりあえず見たければどうぞ。そちらに入っているモノも、この国で売ろうとしていたものばかりですから」


 ちょっとムスッとしてしまう。

 文化が違う国から来たのだから当然ではないか、と主張したい。

 が、そんなルイの些細な主張も、アイテムボックスの中身を見たいカイムには吹けば飛ぶほど軽いモノのようだ。

 せめて度肝を抜いてやろうとアイテムボックスをひっくり返して大量の付与アクセサリーをぶちまけてやった。


「…な、付与アクセサリーがこんなに!?

 しかも包装も何もせずにむき身のままで!?」


「自分の付与物ですし。いちいち包装してられません」


「まさか、これを全てあなたが?」


「何度もそう言っているではありませんか。

 その耳は飾りですの?

 ちなみに他のアイテムボックスもこんな感じです。ほとんどがかさばらないアクセサリーですから量だけは結構あります」


 今までの態度にほんの少しだけ腹を立てていたため、ちょっぴりイヤミな口調をしてしまうのはご愛敬というところだろう。

 付与道具の量と、ルイの言葉にカイムは若干バツが悪そうな表情を見せた。


(とりあえずはこのくらいで勘弁してもいいでしょうか)


 中身を一つ一つ丁寧に見ていたカイムがウィリアムへ言葉をかける。


「なるほど。だからウィリアムさんは弟子にして、安全にダリアムに連れ出したんですね。

 最初は何て酔狂なことを、と思いましたが彼女の保護が目的であれば納得です。

 特 C クラスであればたぶんすぐにでもランクをもらえると思いますよ。

 ウィリアムさんが保護する必要はそこまでなさそうですね」


「すみません。

 話が見えないので、そろそろ特 C ランクというのはどういったものか教えていただけます?」


 そろそろこの部屋に呼ばれた理由も知りたい。特Cクラスという耳慣れない言葉を説明するためにカイムを呼んだ、というのはどういうことだろうか。

 恐らくは、Cランクになれば徒弟関係から解放される、ということに関係があるのだろうが、流石に中身までは推測しようがなかった。


閲覧ありがとうございます。


明日も12時頃更新予定です。


よろしくお願いいたします。

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