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「スキルについて…?」
本棚にある、ありとあらゆる本を種類を問わずに読み漁っていたルイが見つけた本。それが「スキルについて」と書かれたペラペラの…本というよりも冊子だった。分厚い本から優先して読んでいたため、発見が遅れてしまったようだ。
(そういえばウィリーさんも鑑定“スキル”で私の素性がわかった、と言っていましたね。
魔法はあまり使い慣れていないような感じでしたのに、死にかけから目覚めてすぐ鑑定スキルは使えた、と。
それは、考えようによってはかなり有用なのでは?
…昔、魔力を使わない魔法が研究されたことがありましたけれど、確か廃止にされたとか…。もしかして、ジャナンナでは不都合があると情報統制されていたのでしょうか)
魔法が第一のジャナンナ国にとって、魔力を使わないスキルというものの存在が許せなかったということは非常に考えられる。現王は現実主義なリアリストだが、歴代王は魔法のロマンにとりつかれたような人物が多かった。国政そっちのけで自分の名を残すような魔法の研究にあけくれていた人物もいるくらいである。
そんな、魔法こそ唯一無二の絶対、というような思考の持ち主であれば、スキルというものの存在を許せるはずもないだろう。もしかしたら魔法の存在を根底から否定しかねない、と考えてもおかしくない。
だから、情報が規制された。そう考えれば自分が全く知らないのも理解できる。
そしてそういった国民が多いからこそ、現王もわざわざ混乱を招きかねないスキルの存在を公表していないのではないだろうか。流石に王という立場の人間が知らないということだけはないだろう。
(まずは、スキルがどういうものかを知らないとなんとも言えませんね)
そう思ってペラペラの冊子を熟読する。
そしてわかったことは、スキルというものの定義はかなり曖昧だ、ということだ。詳しいことはあまり解明されていないらしい。
そもそもスキルとは魔法以外の雑多なもの、という分類らしい。魔法では説明がつかないものが全てスキルと見なされている、と言えばいいだろうか。
スキルの中には時間に制限なくずっと使い続けているものもあれば、意識して発動するものもある。その性能が多種多様すぎて、定義することすら難しいというのが正直なところらしい。
今分かっているのは、魔力を使わないか、使っても少量ですむということ。そして鑑定魔法や鑑定スキルがあるのであれば判別が可能である、ということだ。
(…わからないならわからないなりに、なぜ研究しないのでしょう?
わからないことがわかるというのは楽しいことですのに)
根っからの研究気質であるルイは密かに憤慨する。冊子の内容は「スキルはよくわからない」という説明が少しだけ。残りは「謎は解明されていないけれど、代表的なものはこういったものがあるよ」というスキル紹介だった。
例えば戦闘で使う、剣術・棒術・槍術・弓術などの武器ごとに異なるもの。これは概念的にはどの程度の腕前か、というものを表すもののようだ。これの他にも格闘術など武器を使わないものも含まれる。
他にも料理や掃除などの家事スキル。メイドなどが持っていることが多いとか。
珍しいところでいけば、採掘スキル。これは鉱山など、鉱石がある場所がなんとなくわかるのだという。熟練すると一発で金を堀りあてるなんてこともあるのかもしれない。
意識して発動するタイプであれば、瞑想が上がっていた。これは研鑽を積むことにより、ルイが普段食べている身体回復付与のかかった料理と同じような効果が得られるらしい。つまり、瞑想の効果時間のあいだは徐々に体力が回復しているのだ。
他にも農業をするのに便利そうな耕作スキルや、漁業を営むものであればもっていそうな釣りスキルなど。逆に能力全てにスキルがあると言われても不思議ではないくらい多種多様だった。
(ある程度極めていれば自ずとスキルとして鑑定で認識される、ということなのでしょうか? ではその基準はどこに…?
流石にこれは私一人で考えていても埒があかないでしょうね。残念ながら私には鑑定魔法も鑑定スキルも使えないのですから)
スキルも魔法と同様である程度使っている感覚で自分のレベルを認識するしかないようだ。正確なレベルを知るには鑑定してもらうしかない。
(それにしても…スキルというのは付与できるのでしょうか?
例えば、算術などもスキルに該当するんですよね。そうなると、算術スキルを付与したアクセサリーがあれば、経理の人なんかがもっと楽になるのでは…。
あるいは料理スキルを付与した包丁なんかがあれば料理がもっと美味しく…? それは大変興味深いです)
ルイにもスキルが使えるのであれば、もしかしたらスキル付与の道具や料理が作れるかもしれない。
だが、ルイは今までスキルというものを特に意識したことがない。付与魔法とは勝手が違うことが予想された。それでも試してみる価値はありそうだ。それにはまず自分にどんなスキルがあるかを見極めなければならない。
ウィリーは鑑定スキルを持っていると言っていた。であれば、ルイにどんなスキルがあるかが分かっているはずだ。
(今すぐではなくても、時間ができたら聞いてみましょう)
それにしても、こうしてラインナップを見ているとスキルというものは日々の努力で発露するものが多いようだ。算術スキルなどはその最たる例だろう。
それに対し魔法は、魔力がないとできない。
魔力がなくても努力次第でなんとかなるのであれば、スキルの方が万人向けではないのだろうか。
魔法大国がスキルの存在を知り、意図的に情報を統制した、という説がルイの中で濃厚になっていく。魔法が使える自分達は特別なのだ、というのが国民のアイデンティティーだからだ。かくいうルイだって魔法を使える自分は誇らしく思っている。
だが、それはそれとして、スキルを知らないままでいいという理由にはならない。
この本の結びには「魔法大国はこの世に存在するが、スキル大国はこの世界に存在しない。スキルが解明されないのも無理はないだろう」と書かれていた。その思想こそがスキルをよくわからないもののままにした原因なのではないかと思うのだが。
(私自身スキルというものを知らずに育ったので、責める資格はありませんね。
ですが、これからはできる範囲で研究してみましょう)
世の中には知らないことがまだまだたくさんある。
そう決意を新たにしているところで、声がかかった。
「すみません。ウィリアムさんの弟子のルイさんでしょうか?」
「はい、そうです」
ウィリアムの弟子という立場にまだ馴染みがなくて、返事に一瞬詰まりそうになった。おいおい慣れていかなければと思いつつ、にこやかに応対する。
「ウィリアムさんとギルド職員がお呼びですので、ご案内します」
言われてついていくと、ギルドの二階に案内された。
ここは許可の出た冒険者しか立ち入らないらしく、人は少ない。すれ違う職員たちは皆それなりに忙しそうだった。大勢の冒険者をこの人数でサポートしているのであれば当然だろう。
(…余裕がないと事故が起こりかねませんので注意してくださいね)
言葉にしたところで実現する権利も権力もないので心のなかでそう呟いておいた。
閲覧ありがとうございます。
大変な時期ですが、少しでも日々の楽しみに色を添えられれば嬉しいです。
明日も12時頃更新を予定しているのでよろしくお願いいたします。




