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喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~  作者: 中島健一
チュートリアル

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その8


 オデッサは女の持っている武器を確認した。


  ──鉄扇…それよりもこの圧力は…かつての……


 オデッサの脳裡には、膝をつき、剣を杖のようにして身体を支えている自分とそれを見下ろしている大きな鎌を持った白髪をツインテールにしている少女と燃えるような赤い髪色の精悍な表情をしている少女の記憶が甦る。


「くっ…!」


 そんなオデッサとは対称的に女は言った。


「まさか剣聖様とお会いできるなんて!!す、少しだけ…少しだけなら良いわよ…ね?」


 頬を赤く染めながら女はオデッサに攻撃をしかける。とじられた鉄扇は破壊を目的とした一本の武器となって、振り下ろされた。オデッサはその軌道を読んで、握り締めた長剣を斬り上げる。凄まじいスピードでぶつかった二つの武器は轟音を伴い、激しい衝撃が辺りを襲った。


 ルナは両手を覆ってその衝撃に備える。着ている服と髪が激しくはためいた。ルナは恐怖で震えていたが、その衝撃によって恐怖が吹き飛んだことは僥倖であった。


 そんなルナを尻目に、相対した二人の強者は、更なる一撃を繰り出していた。振り抜く2人の攻撃は残像を焼き付け、弧を描く。


 再びぶつかり合った武器は火花だけでなく雷を帯び始めた。路地裏を形成している石造りの建物が揺れ、塵が落ちる。


 既に幾度撃ち込んだだろうか。両者共に一歩も譲らず、互いの隙をついては最速の一撃を繰り出している。二人の足場はひび割れ、石畳の基となった地面が顔を出す。


 だが女の渾身の一撃を受け止めたオデッサは後方へ飛ばされた。


「くっ……」


 その時、オデッサの背後からルナの声が聞こえる。 


「プロテクションヒール」


 オデッサはルナを見やる。ルナはオデッサに第二階級聖属性の防御系魔法をかけたようだ。隣には左腕を元通りくっつけ、気を失ったハルがいる。ルナはオデッサに魔法をかけるより先にハルに回復魔法をかけたようだ。


 ──1人…ではない……


 実際に見たわけではないが訓練の合間にオデッサの剣を研ぎ、いつまでも側で支えていてくれたロイド、そして今は共に戦ってくれるルナがいる。


 ──1人ではない!


 そう感じると何故だか力が湧いてくる。ルナが唱えた魔法のせいもあるが、それにしては異常な程の力の湧き具合だ。


 紫色のドレスを着た女はオデッサの様子を見て発情するようにして息をしている。


「ンッ♡…はぁはぁ…でも、もう……」


 溢れる力によってオデッサは言った。


「推して…参る!!」


 オデッサが向かおうとすると、女は掌をオデッサに向けてこう言った。


「……ごめんなさいね…楽しい時間はあっという間。もう行かないと怒られちゃうわ」


 女は後ろを向いた。オデッサは叫ぶ。


「待て!教えてくれ!どうしてお前達は我々を痛め付けるように侵略する?戦力差は火を見るより明らかだろう?」


 女は何も答えず不気味な笑い声だけを残して去っていった。


 危機が去ってもオデッサとルナはその場で暫し、戦闘体勢に入ったままだった。そこへ、酔っ払ったベイブが用を足そうと路地裏へやって来る。


「あれ?お取り込み中?」


~ハルが異世界召喚されてから2日目~


 ハルは夢を見ていた。一緒にカードゲームをした金髪の巨乳美女がせまって来て、服を少しずつ脱いで、胸ぐらを捕まれて?


『次からはどこの路地裏かをちゃんと言え!それと、この世界では強くなければ誰も守れないんだよ!強くなれ!!』


 ハルはうなされた。


「起きろー!!」


 聞きなれない男の子の声でハルは目をさますとそこはベッドの上だった。見知らぬ5歳くらいの男の子が仰向けに寝ているハルの上に乗っかっている。


「ここは…」


「起きたな寝坊助め!朝ご飯できたから早く起きろ~!」


 男の子はハルの左腕を掴んで無理矢理起き上がらせようとした。


「痛っ!」


 男の子は自分の引っ張る力がそんなに強かったものかと不思議がっていた。


「?」


 ハルは斬り落とされた自分の左腕の記憶が脳裏にこびりついているせいで、男の子に左腕を引っ張られて咄嗟に声をあげた。しかし、自分の左腕がくっついているのを見て驚いた。


「あれ?もしかして?僕の腕がぁ、くっついてる~?」


「良いから早くこいよ!」


 ──確か、あの怖い女の人に左腕を切り落とされたんだよな…って、なんでくっついてるの?


 不思議に思いながらもハルは男の子についていき、食堂へ案内された。


 30人もの子ども達がワイワイ朝食を食べている。ハルも席に座らされて、朝食に手を着けた。


 正面にいるのはハルを実質二度、それとも三度助けたルナが座っている。尤も彼女は一回しかハルのことを助けた覚えはない。


「おはよう!ハルくん!よく眠れた?」


「あぁはい!とっても!えっと昨日のことなんですけど……」


 ハルは後頭部をかきながら言った。


 ルナはハルが気を失ってからの出来事を克明に話してくれた。


 剣聖が助けてくれたこと、左腕を聖属性魔法でくっつけたこと、あの暗殺者は帝国の手の者である可能性が高いこと等を教えてくれた。


 ──あの金髪巨乳、剣聖だったの!?


「それでハルくんは一体……」


「…僕は」


 この世界に来てから目まぐるしい時を過ごした。今こうしてゆっくりしていると自分はこれからどうしたいのかつい考えてしまう。


『強くなりな』


 剣聖オデッサに言われたことを思い出す。ハルは呟くように言った。


「…強くなりたいです」


 強くなればこの世界で生きていけるし、日本に戻ることも可能になるだろう。


「もしよければ…ここにいさせて頂きませんか?仕事なら何でもしますから…」


 それを受けてルナは昨日の出来事を思い出す。


◆ ◆ ◆ ◆


 オデッサは女の気配が消えたことを確認してから踵を返すと気を失ってるハルのポケットをさぐった。


♪~


「うるさいぞこれ!」


 スマホを取り出しオデッサはいろいろと弄り出す。


「どうやって止めるのだ?」


 思わず指に力が入り、


 バキッ


 スマホの画面に指がめり込んで、クモの巣状のヒビが全体に入った。


「ぅっ!…と、止まったぞ!!」


 ルナはそっと呟いた。


「それこわしt……」


「壊してなどない!それよりもお主はルナ・エクステリアであろう?」


「はい。お初にお目にかかります。あなた様はオデッサ・ワインバーグ様ですね」


「如何にも…その小僧は何者だ?」


 ルナはハルを抱きかかえながらその質問に答えた。


「名前はハル・ミナミノ。それしか私もわからないんです」


「名前しかわからない?どういうことだ?私はその小僧にお主を守ってほしいから来てくれと頼まれたんだぞ?」


 ルナの表情が驚きに変わる。


「この子は何者なのでしょうか?」


「わからぬ。しかし悪い奴ではない。暫くお主の所で面倒を見てやってくれぬか?私はこれから忙しくなりそうだからな……」


 オデッサは自分の手を見ながら言った。


「はい…わかりました。もう一つ宜しいですか?」


 オデッサは黙って先を促す。


「先程の者は……」


「……おそらく帝国の者だ。あれと同じような敵と以前戦ったことがあるからな」


◆ ◆ ◆ ◆


 ルナはハルの申し出に答える。


「ええ、ここにいてもいいわ!それよりも両親は…?どこからやってきたの?」


「ん~それが覚えてないんです。ハハ……」


「えっ!?覚えてない!?」


 ルナは驚き、ん~、と腕を組ながら考える。そしてハッとしてから、何やら思い詰めた表情になって言った。


「……もしかして魔族に襲われたんじゃ!?」


「えっ…」


 その時騒がしかった子ども達が静まり返った。少しの間があってその静寂は大きな笑い声で破られる。


「ハハハハハっ!!」

「キャッキャッ!!」


 バンバンバンと、テーブルを叩く音と笑い声が食堂に響いた。


「でたよwwシスターの勘違い!」

「今時魔族なんて子供騙しだよwww」


 ──お前らも子どもだろ!


 とハルは心の中でつっこんだ。


 子どもたちのはしゃぎようを見て、一人の女の子はおどおどしながら言った。


「シスターが可哀想だよぉ……」


 ──それを子どもに言われるのが一番可哀想だよ!!


 子供達のバカにする声を聞いてルナは言い返す。


「もぉ~!みんなぁ!!またバカにして!」


 ムスッとむくれ、そっぽを向くルナ。


 ──そんなルナさんも可愛い……


 ルナは気を取り直して口を開く。


「それにしても記憶がないのは困ったわね…今日学校の先生達にもどうすれば記憶が戻るのか聞いてみるね」


 ハルはルナの言葉に引っ掛かる。


「学校?」


「そうだよ!シスターはこう見えてもあの名門!王立魔法学校の先生なんだよ!」


 ハルを起こしてくれた男の子が自慢気に、先程笑いすぎたせいか涙を拭いながら言った。


「こう見えても、ってどういうことぉぉ!!」


 ルナは立ち上がって叫ぶ。


「ハハハハ…魔法か……」


 ハルが呟くとルナはまた閃いた顔をした。


「そうだ!ハルくんも魔法学校で魔法を習えば良いのよ!ハルくんならきっと強くなれるわ!」


 ハッとした。確か魔法学校に入学すれば魔法も覚えられるし、就職できる仕事の幅も広がると図書館の受付のお姉さんフレデリカが言っていたのを思い出した。


「魔法学校!僕、魔法学校に入りたいです!試験はいつなんですか?」


「今日よ!」

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