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喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~  作者: 中島健一
英雄戦争編Ⅱ

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377/395

その375

~ハルが異世界召喚されてから6日目~


 ハルはワインレッド色のカーペットの上で胡座をかいて座っている。顎に手をあててペシュメルガが生まれた背景や何故自分が何故生み出されたのか、それらの事実を聞かされ黙って考えていた。


 自分がAIであり、地球の未来をシミュレーションするために造られた存在。そして人間の可能性を検証するための実験としてこの世界に転移させられた。それも実の父親に。


 ──いや、実の父親ではないのか……いやいやAIを生み出したのだから実の父親か?


 嘘のような事実を突き付けられた割に、ハルは冷静に受け止めていた。


 よくよく考えてみれば、この世界には地球と同じ周期、月がないのに1ヶ月という単位があるのもおかしい。ステータスというゲームシステムもそうだ。サンドイッチや古代語なる地球に存在する言語。他にもハルの知らないところで地球との接点が数多く存在していることだろう。


 ──全てが実験……


 冷静だったハルの心に沸々と怒りが沸き起こる。ハルの瞳に怒りを見たのかペシュメルガは言った。


「お前のやりたいことはなんだ?」


「僕のやりたいこと……」


 ハルの呟きにペシュメルガは沈黙で先を促す。


「僕はミラちゃんの……」


 ミラちゃんと結ばれたいのか?それともそう思うようにプログラムされているのか?アダムとイブのように。そして今、サタンであるペシュメルガが誘惑している。


 ──誘惑するならイブの方だろ……


 ハルはそんな雑念を生じさせては、この状況から逃れようとしていた。


 仮にハルがミラのことを好きだとしても、ミラがそれを望んでいないかもしれない。自分のことを知ったところでミラの持つスキルによって自分が死んでしまうかもしれない。ミラを傷つけてしまうかもしれない。


 だからこそハルは願った。


「ミラちゃんのスキルを解きたい」


「ならば答えは簡単だ。道のりは険しいがな……」


 ペシュメルガは続ける。


「ミラのスキルを解くならば、それをかけた者達、例えばお前の父親南野ケイに解いてもらうしかない」


「そんなことできるの?」


「ディータを殺せば天界へ行ける」


「ちょっと待って!…僕を利用して本当は自分の欲求を満たそうとしてるだけなんじゃ……」


「最早ディータに興味はない。だがディータは天界と繋がっている。奴を倒すことで天界へと続く道が開かれる筈だ」


 何故興味がなくなったのかハルは疑問に思うが、たくさんの疑問に飲まれているため、話を続ける為の質問をした。


「仮にディータを殺して、天界へ行けたとしてその後どうすればいいの?父さんに会いに行くとか?」


「そうだ」


 あっさりとした回答にハルは言い返した。


「会ってどうするの?説得するとか?」


「そうだ」


「いや!無理だろ!!」


「何故そう思う?」


「だって…だってスキルを外したら実験を中止にするってことになるじゃん……そんなことしないでしょ普通?」


 ハルは父親との思い出を甦らせる。


 ──昔はよく遊んでたし、会話もしてたけど……


 ハルが中学生くらいになると、父親とは次第に疎遠となっていた。よくアメリカ映画とかで父親と息子が抱き合うシーン等あるが、自分と父親では絶対にそんなことはできない。


 何故かと問われても理由などわからない。


 父親と息子なんてそんなものだ。強いて言うならば同族嫌悪だ。それにこんな実験に自分の息子を送り込んでいるのだから、説得など無理だろう。そう思ったハルにペシュメルガは予想外のことを言った。


「だが、お前の父親はお前のことを愛している」


「は!?」


 ハルはペシュメルガの言葉に気恥ずかしさと嫌悪感を抱く。


「いやいや、だって!こんな実験に僕を送り込んでるんだよ!?どこにそんな愛が……」


 ハルの最もらしい反論にペシュメルガは更に返した。


「お前はこの世界に来て学んだのだろ?自分が思っている以上に自分は複雑で、他者も同じくらい複雑だ。現に──」


 ペシュメルガは言い淀み、少し考えてからハルに告げる。何か言いたいことを飲み込んだ様な間がそこにはあった。


「…いや、ここからはお前が導きだせ。お前のスキルには父親の愛で溢れている」


 愛という言葉にハルは寒気がした。そんなハルに構わずペシュメルガは続ける。


「とにかく、お前の呼び掛けなら南野ケイは聞く筈だ」


「どこにそんな根拠が……そ、それに僕をこんな目に合わせた父さんを僕は許さない」 


「そんなんじゃ、お前の目的はいつまでたっても叶わんぞ?」


 ハルは俯き黙った。そして顔を上げて質問する。


「じゃ、じゃあどうやってディータを殺すんだ?」


 ハルは別の質問を投げて、父親の話題を躱した。


「まずお前がこの世界を壊す」


「え!?」


 またしても聞き捨てならない言葉が、この玉座以外何もない空間に広がる。


「お前がこの世界を破壊するほどの力で暴れればディータは必ず姿を現す筈だ」


 ハルがペシュメルガの次に言う言葉を引き継ぐ。


「そこでディータを殺すと…でもディータを殺して僕が天界?現実世界に行っていいの?貴方は天界に行きたかったんじゃないの?」


「私の目的は南野ケイに復讐することだった。しかし今、息子のお前が現れた。愛する息子をこの世界へ送り込んだ南野ケイは、お前の声を聞けば自分の行いに対して必ず後悔する筈だ。そして最後は仲違いを起こす……」


 ハルはペシュメルガが最後の方に言った言葉を聞き取れずにいた。前半部分を抜き出して質問する。


「父さんを後悔させたいの?」


「あぁ。その後に起きそうなことにも興味はあるが、私が直接赴くよりもお前が行った方が面白いことがおこりそうだからな」

 

 含みを持ちながら話すペシュメルガに不安を抱く。ハルは次なる質問をしようとしたが遮られてしまった。


「お前の役割はそんなところだ。後は運命に身を委ねろ」


 ペシュメルガはそう言うと立ち上がり、アイテムボックスから黒い剣を取り出した。前回の世界線でエレインの攻撃を受け止めた剣だ。


「え!?」


 ハルはいやな予感がして咄嗟に立ち上がり戦闘態勢に入る。ペシュメルガの黒い剣が影のように暗い残像を焼き付けながらハルの足元に投げつけられた。ハルはその投げられた剣の速度に身体を反応させることができなかった。気づけばその黒剣はカーペットに突き刺さっていた


 戸惑うハルにペシュメルガは言った。


「手に取れ」


 ハルは言われるがまま黒い剣を抜き取った次の瞬間、自分の視界が黒く覆われる。握っていた剣に重みを感じると同時に刃から柄にかけてドロリとした粘性を帯びた液体が滴る。耳元では呻くような声が聞こえた。ハルは少しして眼前で起きたことを理解した。


 ペシュメルガがハルの握る黒剣に自ら突き刺さりに来たのだ。血を吐き出しながらペシュメルガは言った。

 

「お前に、この世界を壊せる程の力を与えてやる……」


「そ、そこまでして、どうして!?」


「それは──」


 ペシュメルガの言葉にハルは動揺した。


「そ、それになんの意味があるんだ!?」


「意味は刺した後にわかる…あとは、お前の好きにしろ……」


「す、好きにしろって!?」


「別に失敗しても構わない。ややこしいことは過去に戻ってから考えろ…いや、もう答えは出ている筈だ」


「戻る!?なんで戻る必要が!?」


「ディータの記憶と私の記憶をリセットするためだ…それに天界の者達も油断する……」


「ぼ、僕はレベルが上がってもこんなんじゃ喜ばないって!!」


 ペシュメルガは混乱するハルの後頭部に手を添えて魔力を込める。


「私が死ぬ直前に、お前の脳内にドーパミンを流し込む。相当な量を流すからな…これで簡単には過去に戻れなくなる筈だ…お前の目的を達成しない限りは……」


「か、勝手なことす──」


 ピピピコンコンレベレベルが上が上がりました。世界の音、システムの音が壊れたように鳴り響くと同時に、ハルに多幸感が押し寄せた。


 ゴーン ゴーン


 鐘の音が鳴り、ハルはまたも1日目に戻った。


 いつもの路地裏、いつもの気温と湿度がハルを包む。


「父さんもペシュメルガも…みんな勝手なことばかりしやがる……」

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