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喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~  作者: 中島健一
英雄戦争編Ⅱ

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その368

~ハルが異世界召喚されてから2日目~


〈獣人国〉


 黒いつやのある体毛をなびかせ、熊のような獣人バーンズは手に嵌めた魔道具に魔力を通して、敵対する獣人国軍の兵士達を殴り飛ばす。


 クーデターを長年企て、隠密に過ごしてきた。同胞達は肩身の狭い思いをしているだろう。それらの鬱憤を晴らすかのようにバーンズは拳を振り抜く。1人、また1人と獣人国軍兵士の顔面や胸部を捉え、兜や鎧に守られている骨や臓器を破壊した。


「ハッハッハァァァァァ!!俺は無敵だ!!」


 バーンズはクーデター計画を企てたモツアルトから賜ったグローブ型の魔道具に魔力を通し、両腕を振りかぶって地面に叩きつけた。


 拳とぶつかった大地は地割れを引き起こし、獣人国軍の兵士達の何人かを飲み込み、更には隊列を乱した。その隙に自分の部下達が攻めいる。


 獣人国軍の左翼が壊滅的な状況をバーンズは満足気に眺めた。


 しかし、突然強風が吹いた。


 バーンズは横殴りに吹き付ける風を顔を歪ませながら、耐え忍ぶと正面の戦況が一変していることに気が付く。


「あ?」


 先ほど突撃した自分の兵が全て倒れている。そんな倒れた兵の上に佇む1人の獣人。


 遠目からでもわかるその強さと幼さにバーンズは驚いたと同時に歓喜する。


「ハッハッハッ!!待ってたぜお前みたいな奴が現れるのを!!」


 バーンズは巨体を上下させながら笑った。そして続けて口にする。


「名前はなんだ?」


 佇む獣人はバーンズと目を合わせた。


 しかし、次の瞬間バーンズはその獣人を見失う。そしてバーンズの右耳が声を聞き取る。 


「ダルトン・コールフィールドだ」


 声のする方を目視することもなく、バーンズは脚を開き、身体を捻って声のする方向を殴りつけようとしたが、その脚が動かない。


 側に接近してきた少年の獣人ダルトンの顔をここでようやく捉えたバーンズだが、直ぐに視線を動かない足元に移すと、両足が氷付けとなって大地と一体化していた。


「痛っ!!」


 目視したことによってか、氷った脚に痛みが走る。バーンズは視線をダルトンに向け直すと、ダルトンの持つ青白い冷気を伴った刃の短剣が見えた。


 その短剣を鞘に戻しながらダルトンが口を開く。


「しばらく大人しくしていてくれ」


 ダルトンは腰を捻り、拳を振りかぶるとバーンズの脇腹に一撃を見舞う。


 バーンズの脚を固定していた氷は、ダルトンの攻撃によって大地と切り離され、バーンズは宙を舞う。この時既にバーンズの意識は無くなっていた。そしてそのまま受け身も取らずにバーンズは地面に着地する。


 その様子を見た反乱軍の兵士達はダルトンに恐れ慄き、降伏した。


─────────────────────


~ハルが異世界召喚されてから2日目~


〈フルートベール王国領・王立魔法学校〉


 試験会場に着いたアレックスは瞳を奪われた。今までこの玉のような瞳を奪った相手はキラキラと輝く宝石や暗闇に広がる未開の地ダンジョンだけだった。しかし、1人の男の子を一目見て恋に落ちる。


 女の子なら誰だって自分を迎えに来るドラゴンにまたがった王子様を想像するものだ。


 アレックスは筆記試験会場にいる斜め前のその男の子の名前を確かめた。


 ──ハル・ミナミノ……


 アレックスはうっとりとため息をつくようにハルの手を見た。


 ──綺麗な手……綺麗な回答……


 無意識にその手の動きを真似てしまうアレックス。気が付けば、苦手な筆記試験の答案を全て埋めていた。


 実技試験に移り変わり、練習した火属性魔法を放つ。見事2つの火の玉を的に命中させることができた。


 親友のマリアのできはどうだったのかと気になるが。


 ──ごめんマリア……どうしてもあの王子様の結果が気になるの……


 自分はなんて薄情なやつだとアレックスは反省する。そんな時、実技試験会場に続く廊下を同じ受験生達がヒソヒソと話していることに自然と聞き耳を立ててしまっていた。


「第二階級魔法唱えたやついるらしいよ」


「ブラットベルが?」


「いや、別の違う奴だって」


「はぁ~、なんで今期の試験受けにくんだよぉ~これでAクラスの道が絶たれたな……」


 きっとその第二階級魔法を唱えたのはハル・ミナミノで間違いない。アレックスはそう確信すると、親友のマリアが実技試験を終えたらしくアレックスと合流した。


「そっちはどうだった?」


 マリアに尋ねられ、アレックスは薄情者の自分を罰するようにマリアに抱きつきながら答えた。


「ん~できたよぉ~!!ごめんねぇ!!」


 どうして謝られたのかわからないマリアは、アレックスのショートヘアにうなじをくすぐられながら、背中をさすった。 


 試験が終わって直ぐにハルを探したが、とうとうアレックスは見つけることができなかった。

 

─────────────────────


~ハルが異世界召喚されてから2日目~ 


〈帝国領〉


 ミラに聖王国へと向かう旨をマキャベリーと共に伝えてから獣人国にいたダルトンを救い、フルートベールの魔法学校の試験を受けた。魔法学校では一応スタンにマキャベリーから帝国の密偵が入学すると伝えられ、合格したその日にスタンに顔を見せた。スタンは緊張した面持ちでハルと接していた為、過去の世界線を知るハルとしてはどこかむず痒さを感じたのはここだけの話である。


 そして、魔法学校の試験を終えた現在。


「あの……ご趣味は……?」


 聖王国を目指して馬車に揺られ、変わりゆく景色を眺めながら2人しかいない車内での会話がこれだ。


 ──お見合いかよ!!


 ハルはミラとどう接して良いかわからないでいた。折角マキャベリーが気を遣って2人だけの空間を作ってくれたにも拘わらず、親交を深めるどころか会話がまず成り立たない。


 初めてミラと時間を共にした時は、ミラがハルを敵視していた。寧ろその時の方が会話していた気がする。


 ミラは脚を組み、窓枠に頬杖をつきながら外を眺めたままハルの質問に答えた。


「ない」


「あ、そうですか……」


 揺れる馬車、されど会話は弾まぬ。ハルは後頭部をかきむしりながらがっくりとうなだれる。


 そんなハルの行動をうるさく思ったのかミラは言った。


「馴れ合いはしないと決めている。お前が誰なのかはどうでもいい。それよりも何故今聖王国へ行くのか、それを知りたい」


 彼女の親しかった者や彼女と関係のある殆どの者が死んでいることを鑑みて、ミラのこの対応は妥当なものなのかもしれない。馴れ合わない、これが彼女のささやかな好意であることをハルは受け止めた。そしてハルは居住まいを正して口を開く。


「聖王国にはチェルザーレ・ゴルジアという方がいます。彼に協力を仰ぎ帝国の国防にさらなる補強を加えます」


 嘘ではない。しかし真の目的は、ミラをルカとダンジョンから遠ざけることだ。


 不確定要素の多いルカとおそらくアジールのアジトであるダンジョンにミラを近づけたくなかった。


 ハルの説明を聞いたミラは了承の意を示すと、また黙って外の景色を眺める。ハルはこれ以上無駄口を叩かなかった。その代わりにミラと過ごすこの時間とその姿を瞳に焼き付けた。


─────────────────────


~ハルが異世界召喚されてから3日目~


〈聖王国〉


「それで、信じたのか?この子供の言うことを」


 昨夜聖王国に到着したハル達は、目立たぬよう宿屋で一泊してからチェルザーレ枢機卿の屋敷に入った。ミラには宿屋に待機するよう伝えている。基本的には自由に行動しても良いと言ったが、マキャベリーはダンジョンには入らないようにと念を押していた。黙ってダンジョンを探索しようとしていたのか、はたまたそんなことを言われなくてもわかっているのか、ミラの表情が少しだけムスっとしたのをハルは目撃する。


 チェルザーレの屋敷は赤を基調とした煌びやかな調度品や価値があるのかよくわからない絵画が至るところに敷き詰められていた。それらを視界の端に捉えながら、チェルザーレを見つめるハル。


「まさか貴様が見た夢を言い当てられたからと言って、全幅の信頼を寄せてしまうとはな……」


 前回の世界線で、ハルは入念に下準備をしていた。ハルが未来を知っていないと出来ないような行動をとっていたことで、チェルザーレはハルのことを信じたのである。しかしそれもメルの限界突破、シーモアとゾーイーの復活と条件がついた状態でようやく信じてくれたのだ。


 確かにマキャベリーの夢を言い当てただけで、チェルザーレも信じるかと言われればそれは難しいだろう。


 ハルは一歩前へ出てチェルザーレに近づくと、アイテムボックスを出現させ、手を入れた。それを見てチェルザーレは身構えるようにして魔力を高めた。しかし、ハルが取り出したモノを見て、目をしばたたかせる。


「これは……」


 ハルは答えた。


「貴方の鱗です」


 オレンジ色に輝くその鱗は、部屋を彩る調度品よりも煌めいていた。


「本当の姿をした貴方の背中に乗せてもらい、帝国へと向かいました」

 

 チェルザーレが息を飲むのが窺える。


「それにまだ信じてもらわなくて結構です」


 ハルは続ける。


「2日後、アジールのメンバーの1人と接触します」


「なっ!!?」


 チェルザーレの反応とは対称的にマキャベリーは冷静だった。既にハルから聞かされていたようだ。


「その者の名前はベルモンド。聞いたことはありませんか?」


 チェルザーレは平常を取り戻しながら答える。


「…いや、聞いたことはないな……」


 ハルはやはりと言った面持ちで述べた。


「僕が今まで出会ったアジールのメンバーはエレイン、レガリア、ヴァンペルト、そしてペシュメルガです。どれも歴史や本に出てくる英雄達ですが、明日接触するベルモンドは僕も聞いたことがない名前です。もしかしたら捕らえることができるかもしれません」


「本当にソイツはアジールの構成員なのか?末端の者なら危険の割に利は少ないぞ」


「ロンギヌスの槍を持っているという情報を手にしております」


「ロンギヌス……神の杖か……」


「それを僕が持ってくれば、僕の話を信じてもらえませんか?」


「論外だな」


 粗方予想通りの返答が返ってきた。チェルザーレはハルの提案の穴を指摘する。


「お前がアジールのメンバーである可能性が残っている。ロンギヌスの槍を今既に持っているかもしれない」


 ハルは用意してきた反論を口にする。


「じゃあ僕がこんな提案をする必要は──」


 チェルザーレがハルの言葉を遮った。


「確かにその必要はない。しかしお前自身揺れているんじゃないか?」


 ハルは心を見透かされている気になった。しかしチェルザーレ自身、ハルの話を信じていないとこの指摘はできない。


「お前は色々な所に安全策、予防線を張っているようにみえる」


 言い当てられた。ハルはそう思うと前回の世界線での最後の記憶を思い出した。


 ペシュメルガは何故エレインの攻撃を受け止めたのだ?ハルはそれがわからないでいた。


 ミラをルカとダンジョンから遠ざけ、ハルの知る限り最もレベルの高いチェルザーレのいる聖王国に置くことで、ミラの安全を確保する。そして2日後クロス遺跡へと向かい、ベルモンドなるアジールの構成員と相対する。できれば対話を試み、叶わなければ戦ってレベル上げをする。


 それがハルの考えていたこの世界線でのプランだ。


「まぁ良い、アジールは我々の戦力など取るに足らないと思っているだろう。貴様の話を全て信じたわけではないが、アジールが貴様を寄越すような愚策などとらない。それに私がするのは今までと変わらず国防だけだ。小娘1人の面倒くらいみてやろう。2日後、貴様が帰ってきた時に対応を考えるとするか」 

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