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喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~  作者: 中島健一
帝国ライフ編

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その357

~ハルが異世界召喚されてから9日目~ 


 ハルはメルが夢にうなされ、起きたのを確認した。レッドが予定通り死に、メルは自我を保てていなかった。もう監獄は消灯の時間だ。薄暗い檻が建ち並ぶ中を歩く、2つの足音が聞こえる。


 足音はハル達の檻の傍で止まると威勢の良い声がした。


「メル!連れ戻しに来たぜ?」


 暗殺集団『海の老人』ゾーイーと長老と呼ばれるマクムートがメルを迎えに来たのだ。


 ハルは思う。


 ──これも予定通り……


 ハルは牢屋の中からマクムートとゾーイーを見つめる。


「お前さんか?例の少年とは?」


 ハルは頷くと、ゾーイーが刑務官から拝借してきた鍵束を指の第一関節付近でクルクルと回転させながらハルとメルの牢屋まで歩いてくる。


 音を立てて牢屋の扉が開いた。ゾーイーは、鍵の束を別の牢屋に投げ込んだ。投げ込まれた牢屋の住人はいびきをかいて寝ている。


「全然気付かねぇ、流石じいさんの魔法だ……ってオイ!メル、早く来いって!」


 メルは小さく呟いた。


「ぃやだ……」


 メルの声が小さかったのもあるが、ゾーイーとマクムートは驚いた。


「お前?喋れんのか?……って今なんつった?」


「いやだ……お前らとはもう、関わりたくない」


 メルの口調がしっかりしてきた。


「もう僕は誰も殺したくない!!」


「いや……マジだったのかよ……ハハハハハハハ!!お前が…良心を持つなんてな!!いやぁ流石、若様だな!!なぁじいさん?」


「左様……しかしまさかメルをここ迄成長させるとは……そこの者もは……」


「でもアイツがいたからこの作戦もうまくいったんだろ?」


 メルはゾーイーが何を言っているのか理解できなかった。


「作戦……?」


「そうそう!お前に近付く者を殺すって作戦だ!ん?遠ざけるだったっけか?まぁこれには理があったからな、お前に近付く者を排除できるってきいたから俺は了承したんだ(それにそこにいるガキの戦力も測れる)」


 メルはゾーイーが何を言っているのか半分しか理解できなかった。理解できた半分が重くのし掛かる。


「じゃあ僕のせいで…レッドが……」


 ゾーイーは槍を構えた。


「まぁいい、とりあえずお前は連れて帰る。じいさんはまだ手を出すんじゃねぇぞ?俺がもう1人も片付けるからな!?」 


「いや……そうもいかんな……」


「は?」


 いつの間にか牢屋から出ていたハルを見てたじろぐゾーイー。


「コイツは……確かに強ぇな……」


「まぁコヤツはワシに任せて、お前はメルを頼んだぞ?」


「わ、わかった……行くぞ!メル!!」


 ハルとマクムートはお互いメルとゾーイーから距離をとった。


 ゾーイーの攻撃をギリギリで躱すメルを尻目にハルとマクムートは暫くお互いを見あっていた。


「本当に良いのか?あのままではメルが死んでしまうぞ?」


「そうはならないと知っております」


「件の話を若様から聞いた時は驚いた。いや、今でも信じられん……」


 ハルとマクムートはお互いの間合いを保ちながらメルとゾーイーの戦いを見守っていた。


 昨日のマキャベリー達との講談で、ハルはチェルザーレが実行している作戦を続行させることを提案していた。


 メルを孤立させることで、メルの持つ情報を守り、メルに近づく者の排除と戦闘力を測る作戦を実行することにより、メルは限界を突破することができる。勿論、この作戦を知っているのはこの場にいるハルと、マクムートだけだ。


 監獄の壁を穿つ音や、牢屋を破壊する音がマクムートの魔法範囲内に木霊する。


 メルが自分のいた牢屋に吹き飛ばされた。


 マクムートはハルの表情を不安げに見るが、ハルは黙って様子を見ているだけだ。


 ハルが呟く。


「きますよ?」


 メルが『苦悩の首都』という本を片手に詩を朗読し始めた。


 メルが纏う魔力の質が変わったようにマクムートは感じる。


「なっ!!?」


「これがメルの正しい道です」


「なんと……」


 先程までゾーイーの攻撃をギリギリで躱していたメルは、とうとう完璧にゾーイーの攻撃を躱し始めた。メルは、間合いを詰め、ゾーイーの腹部に第四階級水属性魔法をかける。


 倒れるゾーイーにマクムートは固唾を飲んだ。


 ハルはメルに声をかける。


「おはよう。ようやく目が覚めたみたいだね」


「神様……僕は夢を見ていたようだね……」


「ようこそ、現実へ」


 ハルは倒れたゾーイーの元へ歩き、膝を曲げてゾーイーの背部に触れた。


「レイズデッド」


 第五階級聖属性魔法を施し、ゾーイーは復活する。


「ぅ……な、なんだこれ……」


 メルは意識を取り戻すゾーイーを見て何とも言えない、安心したような表情を見せた。


「神様……?」


「メル、君はこれ以上誰かを殺める必要なんてないんだ」


 ハルは知っていた。メルがゾーイーを殺してしまったことに深く後悔していたことを。


 ふらふらと立ち上がるゾーイーにマクムートが寄り添う。


「じぃさん……さては知ってたな?」 


「そうじゃ……全ては若様とそこの少年の指示通りに」


 ゾーイーは、ハルを睨んだ。


「てめぇの目的はなんなんだ?」


「メルの救済だ。そのために貴方との戦闘が必要だった。貴方を生き返らせることを条件にチェルザーレ枢機卿は了承してくれた」


 ハルはメルに向き直る。


「メルにも申し訳ないことをしていたね。ごめん。あと、レッドも生き返らせたから心配しないで……」


 ハルはレッドを道具の様に扱っていることにきちんと自覚を持っていた。しかし、これ以外の方法で状況を改善する手段をどうしても思い付かない。


 メルはそれでもハルに感謝を告げてきた。それがハルにとっての唯一の救いでもある。


「さぁ、メルは僕と一緒に来てもらおう。マクムートさん達はチェルザーレ枢機卿のところへ行ってください。僕らはこれからユリと戦っているシーモアを生き返らせに行くので……」


 生き返ったばかりのゾーイーを肩に担ぐマクムート。老人に担がれる成人男性を見るとなんとも不釣り合いな感じがする。ハルは、2人に別れを告げ、このバスティーユ監獄を後にしようとしたその時、監獄内を覆い尽くす異様な雰囲気に飲まれた。


「え?」

「ん?」

「は?」

「なんじゃ?」


 辺りを見回す4人のバラバラな視線が次第に床一点に集中し始める。視線を注がれた床から、水面の波紋を想起させる波が漂ったかと思うと、その中心から音も無く、全身漆黒の鎧に頭部を守る兜を被った者が現れた。兜には視界確保の為の十字の穴が空いていたが、陰っていてその奥にある瞳を確認することはできない。


 マクムートは驚愕しながら呟いた。


「ヴァ、ヴァンペルト様……?」


「はぁ!?あの!?」


 ゾーイーは肩に掴まりながら驚く。メルはランスロットのパーティーメンバーであり、海の老人出身である伝説の暗殺者ヴァンペルトにただ見とれていた。


 ハルはヴァンペルトの出現に驚きつつ、監獄の入り口から現れた新たな来客に心臓を握り締められる感覚に陥った。


 その者は緑色の髪を揺らしながら、腕に幾つもの金色の細い腕輪を身に付け、身の丈程のこれまた金色のロッドを携えてやって来た。


「全く、この国に来る度、ヘドが出そうになるわ」


 ハルは呟いた。


「レガリア……」 


─────────────────────


~ハルが異世界召喚されてから9日目~


 夜の帳が下り、ルカは自室から廊下へ出た。一度妹のアレックスと会って、ことの顛末を説明しようと思ったが、会えずじまいのまま今を迎える。


 記憶を取り戻し、妹の元気な姿が見れただけでもよしとしよう。


 ルカは廊下に誰もいないことを確認してから、静かに城を後にする。


 帝都を眺めながら、約束の南門まで歩いた。


 ──あんなところに美味しそうなケーキ屋がある。

 

 ──あそこには、お洒落な洋服屋さんが……


 ──あそこに、ミラ様の好きそうな武器が売ってる……


 いつもは何気なくただ通り過ぎる道なのだが、これが最後だと思うとつい観察してしまう。新しい景色を再発見する度に、もっとよく見ていればよかったなと思ってしまう。


 そして、あっと言う間に約束の場所へと到着してしまった。


 南門の両脇には衛兵が立っている。ルカは衛兵にバレないよう瞬時に門をくぐって、夜目の効かない闇の奥へと消えた。


 ──この辺りまで来れば……


 すると、両肩に重みを感じる。辺りは緊張に包まれた。現れたのは紫色のドレスを纏ったエレインである。


「さぁ、貴方の答えを聞きましょう……まぁその答えは既にわかっているのだけれど……」


 エレインはいつもの澄ました表情を浮かべ、ルカと共に自分達の故郷へ帰ろうと手を伸ばしながら促した。


 しかし、ルカは俯いたままだ。


「どうしたの?さぁ、行きましょう?」


 ルカは震える声で呟く。


「…行か…ない……」


「は?何を言っているの」


 エレインは一瞬にして冷酷な表情を浮かべた。ルカは両肩にのし掛かった圧力が更に高まったと感じる。


「…わ、妾はここに、ここに残る!!」


 エレインはため息を吐き、うんざりしたような口調で言った。


「はぁ、やっぱり最初から殺しておくべきだったのよ……ペシュメルガ様の恩情を無下にした者は、私が許さないわ」


 圧力とは別に、エレインの凄まじい魔力が辺りを覆った。


「でも、驚いたわ。貴方がわざわざ死ぬ選択をするなんて。言っておくけど、涙を流す前に殺すなんて簡単なことなのよ?」


 ルカは恐怖を噛み締めた表情でエレインを見据える。この時何故か思い出すのは、自分に負けるとわかっていても向かってくる戦士達の表情だった。ただの一般兵もいれば、フルートベールの剣聖オデッサのような手練れの顔も思い出す。


 ──ようやく奴等の気持ちがわかった気がする……


 ルカは勇気を振り絞りながら、右腕を地面と水平に伸ばし、アイテムボックスから大きな鎌を取り出す。そして言い放った。


「人族と暮らして学んだんじゃ……」


「何を?」


「勝つか負けるかは関係ない……生きることに於いて重要な選択は、やるか、やらないかだ!!」


 ルカは過去にペシュメルガの国から逃げ出した自分の一歩を思い出していた。その一歩は今、エレインに向かって駆け出す。

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