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喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~  作者: 中島健一
対帝国戦争編

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316/395

その314

~ハルが異世界召喚されてから20日目~


<フルートベール王国>


 ギラバは重厚感のある机の前で、従来の1.5倍の早さで書類に目を通す。その整った顔立ちは憔悴しきり、目の下には大きな隈ができていた。


「なんで私がこんなことを……」


 5日後の帝国との休戦協定に関する書類と戦争の後始末で、ここ4日ゆっくりと睡眠をとった記憶が彼にはない。


 帝国軍の総大将にして、四騎士の一人シドー・ワーグナーを討ち取ったにしても、こちらの兵士達の損害を考えれば、一体どちらが勝利したのかわからない。


「くそ……あの時、奴等の背後を叩けたら……」


◆ ◆ ◆ ◆


「何故です!?敵は撤退しているのでしょう!?今すぐ追い討ちをかけるべきです!!」


 ギラバは天幕に入ってきた戦士長イズナ、レオナルド、エリン、魔法士長ルーカスにそう怒鳴った。


 しかし、彼等は押し黙り、互いの顔色を窺っていた。


「何を黙っているのです!?貴方達が指揮をしないなら私が……」


「落ち着いてくださいギラバ殿」 


 ギラバを遮るようにしてイズナが口を開いた。


「千載一遇の好機なのですよ!?これが落ち着いていられますか!!?」


 イズナは一息ついてから自分の考えを述べる。


「ハル殿が……追い討ちを禁ずると……」


 それを聞いたギラバは耳を疑った。


「あんな子供の意見をきくのですか!?確かにシドー・ワーグナーを討ち取ったのは彼かもしれませんが、彼は子供だ。戦争のことを何もわかっていない!!」


 反応のないイズナ。ギラバは自分と畑が同じ魔法士長のルーカスにも意見を仰ぐ。


「ルーカスさんはどう思っていますか!?」


「彼等に従ったほうが良いかと……」


 ギラバは半ば呆れた表情をする。


「貴方もそんなことを……?ではそのハル・ミナミノはどこにいるのですか!?」


「……帝国との休戦協定を結ぶべく帝国領に入られました」


「なっ!!?休戦協定!?それを聞いて貴方達は黙って彼を行かせたのですか!?」


「「「「……」」」」


 戦士達は黙った。まるで親に叱られている子供のように。


「みなさんどうしたのですか!?お願いですから何か言ってください!!」


「…休戦協定に調印するための文官を用意してほしいと……」


 それを聞いたギラバはとうとう呆れ果てた。


「貴方達には王国の戦士としての誇りがないのですか!!?」


 イズナが口を開く。


「ギラバ殿は見ていないからわからないと思うが、直接帝国と戦えばわかります。帝国の強さが…そしてハル殿の一派の恐ろしさも……」


「は?この眼で見ました。レベルは貴方達と同程度でしたよ?」


 今度はイズナ達が呆れる。しかし、イズナは教え諭すように言った。


「ハル殿曰く…ステータスを偽装する魔法や魔道具があるようなのですが……」


「な…何を言っているのです……?」


 そこからフルートベール王国の誇る戦士達は、自分達が目の当たりにした戦闘光景を、ある者は絶望しながら、ある者は自慢するかのようにして話し合った。


「水で竜を形作ったかと思えば、敵将のノスフェルはそれを打ち破った……そして、互いに……おそらくだが第六階級魔法のタイダルウェイブを唱えあっていた……」


 ルーカスがそう言うと、エリンが割って入る。


「はい!その子なら私のところにも来て、その魔法を唱えました!でも私のところに来たエルフの女の子は綺麗な花をたくさん咲かせたんです!!その花がブワって舞い散って、その花びらが空まで埋め尽くしたかと思えば、信じられないくらいの破壊力で辺りを破壊していったんです!!あんなの唱えられたら国が滅ぶっす!!」


 イズナは訊いた。


「ルーカス殿……エリンのいう魔法についても知りたいのだが、黒い炎について何かご存知でないか?」


「黒い炎……思い付く限りでは……炎と明記されている訳ではないが大魔導時代に魔族の長が一つの街を闇で覆い尽くしたという記述が……それがもしかしたら黒い炎だったという仮説は成り立ちそうですね……」


「私のところにきた獣人は……」


 ギラバは全く会話についていけなかった。


◆ ◆ ◆ ◆


 ギラバは汗で額に張り付いた髪をきれいに整えてから呟いた。


「ステータス偽装……」  


 ギラバは虚ろな表情をしたまま、新たにやってきた書類に目を通した。


─────────────────


 帝国とフルートベール王国の休戦協定の情報は四国軍事同盟を結んだ国は勿論、聖王国にも届いていた。


<聖王国>


 門を管理している2人の衛兵が会話している。


「どうなっちゃうのかな?」


「何が?」


 惚けた表情をする衛兵。


「フルートベールと帝国だよ!」


「あぁ!まっ、戦争しないって言うならいい話じゃないか?」


 2人の会話が途切れる。


 2人は何もない一本道をいつものようにただ見ていた。


「なあ?」


「ん?」


「俺達どうなんのかな?」


「知らね。変わんねぇんじゃねぇの?」


「この先ずっと?」


「だから知らねぇって!」


「……結局俺らもさ、この門の向こう側の連中と対して変わらねぇな」


「そうか?奴等は犯罪者だろ?俺達は真面目な人間さ」


「そう意味じゃなくって、俺らも結局何かに縛られながら生きてるんだと思うとさ……むしろこの監獄にいる奴等はここから出るほんの一瞬、自由を満喫できるんだ。そういう幸せは俺達じゃ味わえないよな」


「あのなぁ……」


 衛兵の1人が反論しようとすると、重たい門がゆっくりと音を立てて開いた。


「おっ!幸せ者のお通りだぞ!」


 バスティーユ監獄から外へ出る犯罪者。いや、元犯罪者だ。まだ呆気なさの残る茶色い髪の色をした少年が自由と言われている外へ足を踏み出す。


「よぉ!レッド!!お前がいなくなるのは寂しいぜ」


 衛兵が言った。そしてレッドは返す。


「よく言うよ!」


 レッドは軽く伸びをした。


「もう捕まんじゃねぇぞ!!」


「もう犯罪に手を染めるなって言えよ!!」


「ハハハハハ!」


 レッドの明るい笑い声が響く。レッドは衛兵に一礼してから告げた。


「じゃあ、オイラ行かなきゃいけないところがあるから!じゃあね!!」


 レッドは走り出した。


「アイツ、これからどうすんだろ?」


「さぁな、でも行くあてがあるらしい」


 衛兵達は先ほど迄、縛られていた若者が自由に走り出す後ろ姿を目に焼き付けた。


 レッドは走った。身体全身に自由が駆け巡る。パンを盗んだだけで捕まった、監獄で希望を抱いただけで両目を抉られた。自殺した筈なのに死にきれなかった。しかし、目が覚めると両目は復活していた。


 ──きっとハルのお陰だ。アイツには感謝してもしきれない。


 そして、レッドはハルに字を教わった。


 とある手紙を読むために。


「待っててルクレツィア!」


──────────────────


<帝国領、チェルザーレの屋敷>


「そうか。あの武人は使命を全うしたか……」


 透明度の高い2つのグラスにそれぞれ赤ワインが注がれる。赤黒い色をしているそのワインは、年代の古いそれであることがわかった。チェルザーレは一つを自分が持ち、もう一つを情報を届けにきた来客者に渡す。


「はい。そしてシドーさんを討ち取ったハル・ミナミノが休戦協定を提案してきております」


 マキャベリーはグラスを受け取り、軽く一口だけ飲んだ。


「なるほど……それで?その休戦協定に調印するつもりか?」


「ええ…そのつもりです。しかし、シドーさんを討ち取られたからと言って下手に出るわけではありません。向こうの腹を探りつつ、いつでも再戦の準備ができていると……」


「脅すのか……」


「はい」


「ならば調印する場所は……」


「フルートベールとの国境付近にある帝国領の街で行う予定です」


「ぬかりないな……いや、向こうに焦りが生じている……」


「えぇ、今回の戦争でフルートベールの損害がかなり大きいこともありますがそれ以上に……」


「向こうはお前と話がしたいようだな……」


 チェルザーレとマキャベリーの会話を聞いている第三者がいる。チェルザーレの妹、ルクレツィアは隣の部屋から、二人のいる部屋を覗き見していた。


 ルクレツィアは二人のやりとりを聞いていて思った。


 ──ハル・ミナミノ……貴方は一体どちらの味方なの?


───────────────────


<聖王国>


 小高い丘には草花が敷き詰められていた。その場に足を踏み入れると、小気味いい音がする。


「あの時と全然変わってないなぁ……」


 レッドはルクレツィアと内緒でよくこの場所に訪れていた。


 一歩一歩、あの頃の思い出を噛み締めるようにレッドは丘の頂上を目指す。


 丘の頂上には一本の大きな木が聳え立っていた。レッドとルクレツィアはその木に登ってよく遊んでいた。


 目的地の木に到着する。木の根が地中から飛び出している。この木の生命力の強さを感じられた。


「この木も変わっていない……変わったのはオイラか……」


 レッドは木の根元に不自然におかれた丸石を発見する。その丸石をどけて、手で土を掘った。爪の間に茶色い土が入ってもお構いなしだ。


 結構深くまで掘ったが目的の手紙は見つからない。レッドは額にかいた汗を、土で汚れていない腕で拭うと、土の中に硬質な箱のようなものが見えた。


 レッドは箱の周りをなぞるようにして掘り出した。そして手で掴めるようになるまで掘ると一気に持ち上げる。箱の底についた土が掘り出した穴の中にパラパラと落下した。


 レッドは突き出た根の上に腰を下ろして、箱を眺めた。蓋の部分にはゴルジア家、ルクレツィアの家の家紋が印されている。


 レッドは高揚する気持ちを抑えながら蓋を開けると、中から綺麗に包まれた手紙が2つ入っていた。


 一つは『親愛なるレッドへ』と書かれており、もう一つは何も書かれていなかった。


 この『親愛なるレッドへ』という文字が読めるだけでレッドは幸せを感じた。すぐにその手紙を読もうとしたがレッドは、近くの小川へ行き手を洗ってからにした。


 びちょびちょに濡れた手を着ている服で拭き、十分に乾いたことを確認してからレッドは手紙を読んだ。


◇ ◇ ◇ ◇


 親愛なるレッドへ


 まず始めに、貴方に謝らないといけないことがあります。それは私が貴方のことを利用するために近付いたことです。


 ごめんなさい。


 レッドも知っての通り、私はとても可愛くて綺麗で由緒ある家系の出身なの。そのせいなのか何なのか、信頼のできる人が周りにいなかった。貴方に近付いたのは、私の知っている秘密を、私の生きた証を知って欲しかったからなの。


 でもね、貴方と心を通わせる度、私の身勝手な寂しさのせいで貴方を危険に巻き込んでしまうのは、よくないことだと思った。私の生きた証なんてどうでもいいとさえ思った。


 だけど私のおかれている環境は放ってはくれなかった。


 貴方から私を引き離し、私の大好きなお兄様は破滅の道へと進んでいる。


 レッドはどうかこのまま、自分の幸せに向かって生きていて欲しい。私のことが大好きなのはわかってる。それで字を一生懸命覚えて、この手紙を読んでいるのだから。


 でもここから先は進まない方が良いわ。字が読めるなら安全で、それ相応の仕事にも就けることでしょう。


 もしそれでも私を追い求めるのなら箱に入っているもう一通の手紙を読んで、その手紙を貴方が最も信頼できる人。そうね、手始めに貴方に字を教えてくれた人にでも読んでもらうと良いわ。きっと信じてもらえないと思うけど……最悪、貴方は監獄送りになるかもしれない。それだけ危険なことなの。いい?注意したからね!?


 もう一通の手紙は読まないことを勧めるわ。


 最後に、貴方と共に過ごした時間は決して忘れない。だから貴方も忘れちゃ駄目なんだからね!!


 ありがとう


◇ ◇ ◇ ◇


 レッドは不適な笑みをこぼし、もう一通の宛先のない手紙を手に取った。


「監獄送り?オイラがそんなんで怖じ気づくと思ったか!?もうあの頃のオイラじゃないんだ!」


 レッドはもう一通の手紙の入っている封筒を開けると折り畳まれた手紙が二枚入っていた。


 一枚目には大きな文字でこう書いてあった。


◇ ◇ ◇ ◇


 読むなって言ったでしょ!!バカ!!!


◇ ◇ ◇ ◇


 レッドは笑った。


 そして、二枚目に目を通す。


「…これは……」 


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