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喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~  作者: 中島健一
対帝国戦争編

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315/395

その313


 ノスフェルとの死闘を終えたメルは戦場を駆け巡る。


『3日だ。私も軍を背負う身。この戦いを無責任に降りるつもりはない。しかし、3日は私の軍を引かせよう。その間にメル、お前達の答えを示せ』


 シーリカに掴まりながら言ったノスフェルの言葉をメルは思い出す。


「ぬおぉぉぉぉぉぉ!!!」

「はあぁぁぁぁぁぁ!!!」


 獣人のダルトンと帝国の将軍ドルヂが素手で殴りあっている。その周りを帝国兵と王国兵が入り乱れ、まさに乱戦となっていた。メルは戦況を見極めつつ、その場を通り過ぎた。


 ──ノスフェルの軍に押されていた王国軍が直にこの乱戦に参加するはずだ…それに……


 メルは中央軍を見やると、勇ましく立っていた帝国軍の旗がなくなり、変わりにフルートベール王国軍の旗が立ち始めた。


 ──神様と剣聖が上手くやってのけたか……


 メルがそんなことを考えていると、強大な魔力を察知し気圧される。


「この魔力はユリの……」 


 魔力を感じる方向へ視線を向けると、大量の何か、が密集し空へと続く支柱のようにして帝国軍を襲おうとしていた。


 ──花びら?何、あの魔法……


 メルは急いで現場へと向かった。途中黒い法術陣が花の柱を抑え込んだかのように見えたが、それも失敗に終わったようだ。だが、ユリの魔法が弱まった今なら、


 ──打ち消すことが出きるかもしれない


 メルは花びらの柱に近寄り、蒼く輝く宝玉を取り出して第六階級水属性魔法を唱えた。


 大量の水が津波となり花びらの刃に襲い掛かる。水は斬れないという概念を嘲笑うかのように花びら達は津波を細切れにしていく。しかしメルは更に魔力を込め、津波を放出し続けた。水の飛沫が周囲を突然の雨のようにして降り注ぐ。


 花びらの勢いが弱まる。


 メルは魔力を限界まで放出し終えると、花びらは津波と共に消滅した。

 

「メル、どういうこと?」


 糾弾されること待ったなしだ。メルは中央軍を指差し戦争の終結を告げる。 

 

───────────────────


 ユリが第七階級魔法を唱える数刻前……


<フルートベール王国・帝国中央軍>


 明滅する光。草原を照らしては甲高い音ともに消滅する。上空からそれを見下ろすときっと美しく見えるだろう。それは神にのみ許された光景だった。草原に立つ両軍の兵士達はただただ黙って2人の戦う姿を目に焼き付ける。


 恐れ、羨望、崇敬、自己憐憫、そこには様々な感情が渦巻く。1つの芸術作品のようにそれを見た感想は人それぞれ違うものだ。


 生き方、経験、価値観、それら全てを剣に込めるシドー・ワーグナー。対してハル・ミナミノはそれらを魔力に込めて放出している。


 先程からハルの周囲に無数の魔法陣が出現し、その中心から光り輝く剣が放出されていた。一つ一つが第五階級光属性魔法で造られた剣だ。シドーを串刺しにせんと大気を突き破りながら直進する。


 シドーは大剣のように長く、長剣のように細い刀身の剣をふるっては、向かってくる光の剣達を打ち消していた。


 その様子をフルートベール王国総大将のイズナは見て畏れ慄く。


「なんて……戦いだ……」


 魔法陣の中心が一瞬煌めくと、シドーは長剣を振るう。するとシドーの周囲を光の粒子が舞い上がる。これは直進する光の剣を叩き斬っていることの証明だ。


 始め、イズナはシドーが素振りをしているのかと勘違いしていたが、自分がその速度に追い付けていないことを後に自覚した。


 もうこの激しい剣檄?がどのくらい続いただろうか。シドーが長剣を薙ぎ払い、光の剣を滅してから口を開く。


「ハル・ミナミノ。お前のことは理解した。お前は未来を翔る者だ」


「……」


 ハルは構わず光の剣を放ち続ける。


 シドーはそれ打ち消しながら続けた。


「しかし、お前には迷いが見える」


「……」


 ハルはこの時、初めて攻撃の手を止めた。シドーはフン、と鼻をならしてから言った。


「お前は自分の求める未来を実現せんとしているが、なまじ選択肢が多い為に決断が遅い」


「最善を尽くすには当然の帰結でしょう?」


「果たして本当にそうか?こうしている間にもお前の兵や私の兵が死んでいく。お前が悩んでいるその時間、誰かが虐げられているかもしれない、誰かが悪行の限りを尽くしているかもしれない。お前のその迷いが誰かを不幸にしている」


「……」


 ハルは黙って先を促す。


「私を殺すべきか生かすべきかで迷っているようだが…お前はわかっていない……」


「何を?」


「過去は変えられる」


「っ!!?」


「驚いているようだが、事実だ。お前が迷った末、選択した道が間違っているように見えても、その先の努力でそれを正すことができる。過去は努力次第で変えられる」


 ハルはこれを受けて、胸を撫で下ろした。


「なんだ……そういうことね……それで?それを僕に伝えて何がしたいの?」


「助言だ」


「それりゃどうも」


 ハルは全身に魔力を纏った。それを見てシドーは長剣を構え直す。


「決断できたようだな」


「お陰様で。望み通り貴方を殺すことにします。もしそれが間違っていたとしても貴方の言う通り、過去を変える」


 二人はほぼ同時に間合いを詰めた。片や素手で、片や柄物を握って。決着は一瞬だった。


 ハルとシドーは互いにすれ違うようにして一撃を入れあった。シドーが黒い炎に包まれる。


ピコン

レベルが上がりました。


 ハルは自分のレベルが上がったことを告げるアナウンスを聞いて思った。


 ──おわった……


 ハルは振り返ると、


 ──っ!!!?


 黒い炎に包まれたシドーがハルに向かって長剣を振り下ろそうとしているところだった。


「なっ!?」


 驚きの表情を浮かべるハルだが、シドーは崩れ落ちるようにして地面に倒れた。草原を暗黒の炎が包んだ。


 ハルはシドーの握る長剣を手に取り、アイテムボックスへしまった。


 この瞬間を以て戦争は終結する。

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