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喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~  作者: 中島健一
対帝国戦争編

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その308

~ハルが異世界召喚されてから16日目~


<ノスフェルの野営地>


 シーリカは自分用にあつらわれた天幕の中で膝をおり、陽光が降り注ぐもとで手を合わせ、祈りを捧げていた。


 戦況を聞く限り、帝国軍が有利にことを進めているようだ。これはつまり、多くのフルートベール王国兵達が命を落としているということだ。


 シーリカはノスフェルと帝国の兵士達の無事を願ったが、これは敵国の兵士達の死を願っているものではない。


 酷い人体実験により成長が止まったシーリカは、自分と同じような悲しみを経験する人が今後いなくなればと常に思っていた。


 しかし人の思想は止められない。側にいた筈のノスフェルは復讐にかられている。


 ──私はずるい女です。ノスフェル様に甘えてばかり……


 幼いシーリカの顔に陰りがさした時、天幕の外から兵士達の驚きの声があがった。不安が募るシーリカは急いで天幕から出ると兵士達は空を見上げていた。シーリカもそれに倣って空を見上げる。被っていた大きな三角帽子を抑えながら。


「え……!!」


 水で型造られた竜が空を漂っていた。


「第五階級魔法……」


 三角帽子を抑えていた手が無意識的に離れ、帽子は地面に音もなく落ちた。シーリカは直ぐにハッとした表情を浮かべる。


「あそこは……ノスフェル様の軍がいるところ……」


 鼓動が早まり、シーリカの小さな身体を脈打たせた。


─────────────────


 魔法士長のルーカスはメルとノスフェルの戦闘をただ見ているだけだった。


 お互いボロボロであるにも拘わらず、力を振り絞りながら戦っている。


 メルはノスフェルの剣檄を受けながら、メルを囲むように四方から小さな竜巻が襲ってくるのを掻い潜り、避けていた。


「わ、我々はこれ程の者達を相手どろうとしていたのか……?なんと愚かな……」


 そんなルーカスを尻目にメルとノスフェルは死闘を繰り広げていた。


 まるで嵐に囲まれたかのように攻撃が飛んでくる。右方向から向かってくる竜巻を避けながら正面のノスフェルの振り下ろす剣をメルは捌いた。直後、左下から竜巻が出現し、メルの左頬を掠める。


「くっ!!」


 左頬を手の甲で抑えながらメルは後方へ下がる。手の甲に血が付着した。


 ノスフェルは言った。


「人を殺す生業にいたお前が、私を否定することなどできはしない!」


 冷静なノスフェルはそこにいない。ただの復讐者と化している。


 メルは言った。


「怒りは……怒りをもたらす……僕は!その殺し合いの螺旋からおりたんだ!!」


「フッ……」


 ノスフェルはメルを一笑に付し、掌を空に向けて翳す。


「今まさに私を殺そうとしているではないか!?」


 ノスフェルはそう言うと、魔力をまとった。メルの周囲を囲うように緑色の魔方陣が無数に出現する。


「!?」


 それぞれの魔方陣の中心から竜巻が射出され、メルを襲う。前後左右、そして上空からも竜巻が襲ってくる。メルは正面の竜巻に向かって前進した。


 前へ飛び、正面の竜巻の側面を滑るようにしてそこから脱出したメル。命からがら地面に突っ伏した状態のメルをノスフェルが長剣で首をはねるようにして振るう。メルは横になりながら、それを何とかナイフで受ける。首ははねられなかったが、代わりに、衝撃で横へ飛ばされた。


 地面を転がるメル。ダメージにより受け身を取れず、勢いが弱まるまで衝撃に身を任せる他なかった。ようやく止まったがメルはそのまま暫し動かけなかった。それを見たノスフェルは、メルに近付いた。しかし、メルはゆっくりと立ち上がる。そして言った。


「僕は目の前が真っ暗だったんだ……」


「?」


 突然訳のわからないことを言われ、ノスフェルは首をかしげる。そんなノスフェルに構わずメルは続けた。


「今の貴方と同様に……それでも僕は暗闇の中で光を見たんだ……」


 ノスフェルは無言でメルに近づく。メルはようやく立ち上がったが、中腰で立つのがやっとだった。


「目は口ほどにものを言う……貴方の目を初めて見たとき、とても優しい人だと思った……」


「フン……何を言い出したかと思えば」


「教え、諭すのがとても上手そうで……貴方を慕っている人が大勢いるのでしょう?…だから僕はその人達の為にも貴方を殺す……」


「フッ……接続詞の使い方が違うが、それで良い……私を殺しにこい」


「僕は貴方の価値観を殺す!!」


 メルはアイテムボックスから蒼い宝玉を取り出すと同時に、宝玉が光る。メルを中心に発せられる魔力に風が舞う。地面に生える草は激しく揺らめき、土埃が舞った。ノスフェルの着ている服もそれに煽られはためかせている。


 ──まだ、こんな魔力を!?


 ノスフェルはメルから視線を外さぬよう、顔を腕で覆うと、持っている大きな本がメルの魔力に共鳴するかのように光だした。


 本は自動的に開き、今まで読むことができなかったページで止まる。


「よ、読める……?この本は、私にこの魔法を唱えろとでもいうのか!?……良いだろう!!」


 ノスフェルはニヤリと笑うと、今まで自分でも感じたことのない魔力を纏い始める。2人の魔力が渦巻き、ぶつかり合うだけで、大地は揺れ、烈々たる風が2人を戦場から隔絶させた。遠くから2人の戦闘を見ていた魔法士長ルーカスは更に遠くへ飛ばされる。


 メルとノスフェルは同時に同じ魔法を唱える。


「タイダルウェイブ!!」

「タイダルウェイブ!!」


 青色の魔方陣が術者達の上空に出現し、そこから大きな荒波が押し寄せてきた。荒波同士がぶつかり合い、凄まじい飛沫と衝撃が生まれる。2人は荒波に飲まれた。その時、少女の声が聞こえてきた。


「ノスフェル様!!!」


────────────────

 

「……フェル様……ノスフェル様!!」


 ノスフェルはぼやけた視界の中で、自分の名前を呼ぶシーリカの声が微かに聞こえてくる。


 ──シーリカ……


 身体を動かそうとしても動かない。ノスフェルの視覚と聴覚は回復の兆しを見せなかった。地面に足を横たわらせ、シーリカがか細い腕で自分の上半身を抱きかかえていることがわかった。ノスフェルは声の出し方を確かめるようにして発する。


「…シ、シーリカ……」


「ノスフェル様!!」


 シーリカの腕が先程よりも力強くノスフェルを抱き締めた。


 ノスフェルは首もろくに動かせないため、視線を周囲に向けると敵であるメルがこちらに歩みを進めているのがわかった。


「…わ、私は……負けてしまったのだな……すまない……シーリカ……」


 シーリカはその言葉を聞くともともと流していた涙の量がさらに増えた。


「…謝るのは私の方です!!私はノスフェル様に甘えてばかりで……本当はもう復讐などしなくても良かったんです!!私は貴方と一緒にいるだけで幸せなんです!!」


 シーリカの発言にノスフェルは答えた。


「…知っていたさ……お前にもう復讐心がないことなど……」


「では、どうして!!?」


「私は…許せなかったのだ……お前の未来を奪ったアイツを……だが、結局私は……お前の為と言っておきながら自分の為に復讐を果たそうとしていただけだった……愚かな私を許してくれ……フッ、他者を許せぬ者が許しを乞うなど矛盾しているな……」


 メルがノスフェルとシーリカに近付いた。シーリカはノスフェルを守るようにして抱き寄せる。


 しかしメルは気にせずアイテムボックスから回復のポーションを取り出し、ノスフェルにかけた。


「「!!?」」


 驚愕する2人、ノスフェルは動かなかった手足に感覚が戻るのを実感する。


「なぜ……?」


 ノスフェルの問いにメルは答えた。


「神様に頼んで造ってもらった。僕はもう誰も殺したくないから」


 ノスフェルは目を瞑る。メルと相対してから自分の死の間際に感じた寒気について思い出していた。初めは魔法による攻撃、次に背後からのナイフでの攻撃。


「通りで勝てぬ筈だ……お前は初めから私を殺すつもりなどなかったのか……」


「貴方はきっと、多くの人に光をもたらすことができる」


 メルの言葉を受けて、ノスフェルは明瞭となった視覚でシーリカの顔を見た。シーリカはニコリと笑った。笑った目から涙が滲み出る。


 シーリカの笑顔はとても眩しかった。


 ノスフェルはメルに質問する。


「お前の名前は?」


「メル……メル・ヴァンペルト」


「光をもたらす暗殺者か……良い名だ……」

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