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喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~  作者: 中島健一
対帝国戦争編

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その268

~ハルが異世界召喚されてから1日目の深夜~


〈ワーブレー難民キャンプ〉


 獣人族のジェイクは、人族よりも突出した聴覚により、同じ同胞のすすり泣く声や、遠くで言い争っている声が耳に入ってくる。


 耳をおさえて聴こえない振りをしていても、その声が途切れることはなかった。寧ろ、耳を塞ぐことで自分の内側の声のように聴こえてくる始末。


 ジェイクは眠ることを諦めて、少しだけ歩いた。誰もいない。自然の音だけが聞こえる場所まで。


 風がそよぎ、下草が揺れ、空を星が埋め尽くす。ここはジェイクの秘密の場所だ。


 ──あと少しで、俺達の勝利が確定する…だからもう少しだ……


 ジェイクは俯くのをやめて、自分に言い聞かせた。


 その時、


 耳をつんざく轟音がジェイクの鼓膜を刺激する。


「うっ!!」


 片目を瞑り、その風を背中に受けるように身体の向きを変えた。


 その風はフルートベールから獣人国に入国するようにして吹き荒れる。


 この風が吉兆なのか凶兆なのかジェイクには判別ができない。


 ──どうか、俺達種族が安全に暮らせる未来がきますように……


 ハルは教会を抜け出し獣人国に入国した。


───────────────


<獣人国 反乱軍本拠地>


 反乱軍の本拠地、木製の杭や柱に布を張った簡易的な天幕に反乱軍のリーダーモツアルト改め、狐の獣人に扮した帝国四騎士のサリエリと側近達3人がひざまずいている。


「明日、バーンズを右軍の将に、ヂートを左軍の将に、ルースベルトを中央軍の将に据えて進軍する」


 サリエリの言葉に3人の側近達は了承の返事をした。


「お前達が侵攻に参加してしまえば一気にかたがついてしまう。だから徐々に敵の士気を下げるよう侵攻するのじゃ」


 その提案には豹の獣人ヂートが意見を言う。


「どうしてですか?もういい加減、ちょいちょいっと殺っちゃいませんか?」


「こら!ヂートなんだその口の聞き方は!」


 虎の獣人ルースベルトが叱責するのをサリエリは諫める。


「フフフ、わかったわい…明日は存分にやると良い。しかしワシも最後は参戦しようと思っておるのじゃ。ワシの分も残して貰わんと、これからこの国を支配するワシの威厳がなくなるじゃろ?」


 おおぉと3人の幹部達は声を揃えた。


 サリエリは3人を解散させ寝室へと移動し、ベッドの上に座る。


 はぁーと今日1日の疲れを吐ききろうとしたその時、


「動かないで」


 少年の冷酷な声が聞こえる。


 サリエリは心臓が飛び出そうになった。老人にはよくない声のかけ方だ。


 ──どうやってここへ?


 そんなことに構わず少年は続ける。


「僕の話をよく聞いて」


 サリエリはベッドに座ったまま少年の声のする方を振り向き、瞬きの間に魔法を唱えた。


「ブラインドネス!」


 サリエリは立ち上がり、臨戦体勢に入るが、そこには誰もいなかった。


 そして、後ろから同じ少年の声が聞こえる。さっきよりも近い。


「今のは見逃すけど、次はないですよ?」


 サリエリの表情が強張る。


 少年はサリエリの後ろから手を前へ出して見せた。


「?」


 戸惑うサリエリだが、少年の掌から青い炎が出現する。


「こ、これは!!?」


「静に!!」


「これは…第四階級魔法の……」


「貴方のことは以前調べさせてもらいました。何でも魔法には目がないとか……」


「ああ……」


 サリエリは少年の狙いがわからないでいる。


「もし貴方が僕に魂を差し出すなら僕は貴方の望みのモノを何でも与えます。例えばこの第四階級魔法の習得とか……」


「あああ!!是非とも!!お願いします!!魂でも何でも差し出します!!先の短いこの老いぼれに是非!!ご教授を!!」


 ハルは老人の変貌ぶりにひいていた。


 ──えぇ……決断早っ!!

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