その251
「おっさん達の相手は俺様だからな!」
黒髪が揺らめき小さな瞳が特徴の三白眼は戦士長イズナ、副官レオナルド、宮廷魔導士ギラバ、魔法学校長アマデウス、国王フリードルフをそれぞれとらえていた。
イズナは自分の後ろにいるレオナルドをチラと見てから、オーウェンを睨み付けた。そして、長剣を構え、一呼吸する。
ゆっくり息を吐いて、一気に吸った。
床がひび割れたかと思えば、構えていた長剣をその場で一気に振り下ろしていた。
「斬空撃!」
長剣から放たれた斬撃は空を這うようにして進む。
オーウェンはアイテムボックスから魔剣フレイムブリンガーを取り出し、飛んでくる斬撃を容易く弾き、軌道を変えたが、オーウェンに安息はやってこなかった。イズナとレオナルドが追撃しに向かってくる。
2人は左右に別れ、同時に斬りかかった。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
「おぉぉぉぉぉぉ!!」
イズナは大上段から、レオナルドは光の剣で腹部から上半身と下半身を二つに別つように。
しかし、オーウェンは向かってくる二人に半歩間合いを詰め、魔剣を横一閃に振り払う。打ち立ての剣のように紅く発光するその魔剣から赤い斬撃が放たれた。
「剣技!火剣!!」
イズナとレオナルドはそれぞれの攻撃の構えのまま、追撃の速度を落とさぬようイズナは飛び上がり、レオナルドは姿勢を更に低くしてその斬撃を躱す。
「避けていいのか?」
オーウェンは言った。2人の後ろには国王がいる。
イズナとレオナルドは躱した勢いそのままに攻撃を仕掛ける。
2人の迷いない行動に違和感を覚える、オーウェンは飛びかかってくるイズナの大上段からの攻撃を魔剣で受け止めながら、レオナルドの腹部への攻撃を飛び上がって躱した。飛び上がったと同時にレオナルドの顔面に蹴りを入れようとしたが、レオナルドはそのままオーウェンの横を走り抜けこの場を離れた。
「ちっ!そういうことかよ!!」
オーウェンはレオナルドを逃がすまいと、片手で魔法を放とうとすると、受け止めていたイズナの剣が重くなる。
「くっ!!」
オーウェンはやむなく両手でイズナの剣に対応せざるを得なかった。
「ウォーターライズ」
国王に赤い斬撃が触れる前に床から水が吹き上がる。赤い斬撃は水の中に飛び込み、蒸発していく最後の雄叫びと煙を伴って消失していく。その水の壁に手を触れながらギラバは唱えた。
「スプラッシュ」
激しい水流が広範囲に飛沫を飛ばしながらオーウェンに襲い掛かる。
「ちっ!」
オーウェンは魔剣に魔力を込めた。
イズナは訝しむ。
「む!?」
咄嗟に押し合っていた長剣を引き離し、オーウェンから離れた。
オーウェンは向かってくる激流に手をかざして唱えた。
「フレイムランス!」
ドーーーーン!!
水が高温に触れ大きな水蒸気爆発を起こした。
レオナルドは背中でその爆発を感じながら他の者達の救助、応戦へと向かった。
レオナルドはダーマ王国の選手をイズナとギラバ、アマデウスに託し、周囲の状況をいち早く察した。
観覧に来ていた多くの一般人達は眠っていた。しかし魔法学校の生徒と教師達、冒険者達、貴族に雇われた護衛、そしてフルートベールの王国兵が観客に紛れた刺客達と戦っている。
──あれは……ダーマの教師とヴァレリーの教師……
二つの国の先生同士が戦っているのを見たレオナルド。
──先程ヴァレリーの将軍がダーマの選手と剣を交えていたというならばダーマの騎士団長は?
レオナルドは上階にあるダーマ王国の宰相らがいる観覧席を見た。そこには見慣れた後ろ姿の者がいる。
「レナードか!?」
ダーマ王国の者を拘束する為、レナードの加勢に向かう。
戦っている者達の声。即座に敵と味方を判断する冒険者達や護衛達の戦闘を後ろで悲鳴を上げながら見守る貴族達。
──なんとかなりそうだ……犠牲者もいるが、もう少しで事態はおさまる。
レオナルドはそう思うと、突然時間が止まったかのような感覚に陥る。それは心臓を鷲掴みにされたような殺気だった。
直ぐにその殺気の出所を見るレオナルド。
半壊し、円形をギリギリとどめているリング上に白髪ツインテールの少女が立っていた。
「あれは…剣聖様が言っていた……」
ドーン
またしても大きな音が鳴り響く。今度はダーマ王国宰相らがいる観覧席からだ。
「レナード!?」
レオナルドは先程の殺気をねっとり身体に残しながらもレナードのいる観覧席へと向かった。
─────────────
「どうして……?」
戦斧を食い止めながらレナードは質問する。
「悪いが、あの殺気を放つ少女を倒せる者などいないと判断した」
「見切りが早いんだね」
「生き残る為の術だ。お前にもいずれわかる」
「わかりたくないね」
その言葉を最後にレナードは戦斧に押し潰されそうになった。
プロテクションを解いたシャーロットは魔力を込める。持っているロッドが発光し始めた。そして身動きのとれないレナードに第三階級風属性魔法を唱える。
「トルネイド」
竜巻がレナードをとらえる。
暴風によりバルバドスやアナスタシア、トリスタンは目を瞑る。
一直線に進んだ竜巻がレナードがいたところを通過し、リングの頭上を通り抜け反対側にある観覧席を破壊する音が聞こえた。
バルバドスは抑え込んでいた戦斧に重みがなくなった為、ゆっくり閉じていた瞼を開く。
そこにはただ竜巻の通り道が残っているだけだった。
「す、すげえな……」
バルバドスは第三階級魔法の威力にたじろぎながら術者の方を見やった。
しかし、当の術者は綺麗に整った顔を少しだけ歪ませ、再び魔力を込め始めた。
「お、おい?俺はもう帝国につくって言ったろ?」
バルバドスはそう呟くと、聞きなれた声が聞こえる。
「成る程、騎士団長とはよく名乗れたものだな。聞いて呆れる」
レオナルドが息子のレナードの襟を掴みながら言った。
「レオナルド・ブラッドベル……」
バルバドスは唇を噛んだ。
「父上……離して……」
レナードはそっと呟いた。




