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喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~  作者: 中島健一
三國魔法大会編

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その239

 オンヤ・ツーリストはレナード・ブラッドベルのせいでいつも目立てずにいた。きっと他国の学校にいたら彼はトップになれただろう。両親やその周りからは将来、宮廷魔道士や魔法士長になれると言われて育ってきた。だがこの国、この学校にはレナード・ブラッドベルがいた。


 しかしオンヤはこの立ち位置をわりと気に入っている。プレッシャーをかけられる訳でもなく、自分らしさを出せばそれで良い。


 代表選考会ではその実力を遺憾なく発揮できた。


 ──対戦相手は1年生か……


 オンヤは歴史を感じるダボダボなローブを着こなし対戦相手を見据えた。


 ──落ち着いているな……まずはファイアーボールで様子見といこうか……


『始め!!』


 試合開始の合図とともにオンヤはファイアーボールを5つ唱えた。オンヤの着ているローブが火の球の出現と同時にはためき、身体をメラメラと赤く染めた。


 オンヤは手を前へ出し、対戦相手のルベアという少年に向けてその5つのファイアーボール放った。


 どよめく観客。


『第二試合にしてようやく魔法大会らしくなってまいりました!!』


 この実況を聞いて第一試合を勝利でおさめたオーウェンが舌打ちする。


「ちっ!俺だって魔法唱えたかったっつの!」


 ヴァレリー法国のエミリアはオンヤのファイアーボールを称賛する。


「いい魔法使いになりそう」


 シルヴィアがそれを肯定する。


「確かにな……」


 しかし、その言葉には何か含みを持たせていた。


(先程のダーマの選手オーウェンよりは危うさを感じないが、洗練さで言えばこのルベアという少年の方が上だ……正直、ルベアが第一試合に出ていれば、そのことに気づかなかった……)


 シルヴィアはまた、ダーマ王国宰相の顔色を窺った。


 シルヴィアが一瞬目を離すと、先程まで騒がしかった観客が急に静まった。


 シルヴィアはすぐにリング上を見やると、すでに試合は終了していた。


 フルートベール王国の選手が場外へと飛ばされている。


『しょ、勝者!ルベア・ルーグナー!!』


 少し遅れてから勝者を告げるアナウンスが聞こえる。


「な、何が起きたんだ!?」


 シルヴィアの隣にいるヴァレリー法国議長のブライアンは誰に尋ねるわけでもなく叫んだ。


 その問いに反応するエミリア。


「シルヴィア様……今のって……」


「すまない。目を離していた。フルートベールの選手が場外に飛んでいくのは見たんだが、説明してくれないか?」


「……たぶん──」


───────── 


「さっきのオーウェンと同様、ただの掌底打ち……だと思う」


 スコートは持ち前の洞察で少し考えながら自身の考察を口にした。


「魔法でバフかけてないの?」


 アレンがスコートとデイビッドに訊く。


「わからない…」


 デイビッドが即答した。そして、戸惑いながらスコートは答える。


「…使っていないと思う……それより、さっきの奴といい、今の奴……今年のダーマの選手はどうなってるんだ?」


 そんな魔法学校Aクラスの何気ない話に耳をそばだてている黒いフードを被った男は怪しげに笑っている……


───────────


 水色の髪を腰まで伸ばし、頭頂部が風船のように膨らんだ帽子を被っている少女シャーロットは今の試合を見て心の中で叫んだ。


(きゃーーーーー!!アベルーーー!!!)


 本当だったら大きな声で声援を送りたいところだが我慢していた。大事な作戦を私情で台無しにはできない。それよりもシャーロットはその前のオーウェンの試合を見て肝を冷やした。オーウェンのあの動きは洗練された戦士達が見れば、レベルを悟られてしまうのではないかとシャーロットは心配していた。


「きゃーーー!!ルベアーーー!!!」

 

 アベルの偽名を叫ぶ少女の声にシャーロットはドキリとする。今の試合を見てファンになったのか。しかし、何か親しみを込めた言い方にシャーロットは違和感を覚えた。そして自分のライバルになりえる者を殺気を込めながら睨み付けた。


 そんなシャーロットの近くにいる、ダーマ王国魔法学校の先生ツヴァイが口をひらく。


「あれは……マリウスの妹……なぜ!?」


 ツヴァイは立ち上がり名前を叫んだ少女のもとへとかけつける。


「何故あなたがここにいるのですか!?観覧は禁止だと学校で伝えた筈ですよ!?」


「いいじゃん!もう来ちゃったんだし!」


 何の悪気も感じていないコゼットにツヴァイは頭を抱える。そして、宰相トリスタンから言い渡された作戦が頭の中で反芻した。


『よいか?この作戦はダーマ王国で国王と私とお前しか知らない』


『何故そのような作戦に私が?』


『最も生き残る可能性が高いからだ』


『し、しかし……』


『作戦が始まれば私の護衛に加わってくれ。アナスタシアやバルバドスはその場でフルートベール側につくかもしれぬからな』


 ツヴァイはこれから起きることを考え、そして結論をだした。


「……決して私の側を離れぬようにしていてくださいね」


「はーーい!」


 授業中もそんな返事をするのだろうかとツヴァイは疑問に思った。すると、後ろの席からツヴァイに話し掛ける声が聞こえる。


「あの~、ダーマ王国のツヴァイ先生?ご無沙汰しております。私のことは覚えていらっしゃるでしょうか?」


 ツヴァイは少し怯んだが、すぐに答えた。


「勿論です!ヴァレリー法国のヴォリシェヴィキ先生」


(もう探りを入れてきたか!?)


 ツヴァイはヴァレリー法国の勘の鋭さに驚いた。

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