表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~  作者: 中島健一
聖王国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

221/395

その220

 僕はすぐに医務室へと走った。何故走ったのかは自分でもよくわからない。身体が勝手に動いたとでも言えば格好良いのかもしれないけど、兎に角走ったのだ。


 後から思えばレッドが心配だったからなのかもしれない。少なくともレッドがいなければ僕は字を覚えることがなかった。それにレッドは僕に希望を教えてくれた人物なのだ。


 医務室を開けるとレッドは両目があったところから血を流していた。そして頸動脈を鋏で切った痕がある。


 僕と神様は驚いた。そして僕は思った。これは自殺だと。


 両目を失くしたのは他者のせいだとわかる。きっとあの顔面に刺青を入れてる奴かその手下の仕業だ。


 では、何故レッドは自殺したのか。


 答えは簡単だ。ある女の子との約束、手紙を読むという希望が潰えたからだ。


 僕はこの時、レッドの両目を失明させた奴に対して、なんて酷いことをしたのだろうかと胸糞が悪くなった。レッドはどんな罪でこの監獄に入れられているのかはわからないが、女の子からの手紙を読む為に、いつから始まったのかわからない暴力に耐えてきたのだ。そんな夢や希望がなかったらレッドは直ぐに自殺をしていたのだろう。あんなにも健気に、字を読む勉強をしていたというのに……


 僕がそう思ったその時、透明人間の気配を感じた。気付いたときにはもう遅かった。透明人間は僕の肩に手を回した。あの顔面に刺青をしている男がレッドの肩にしているように。とても仲良さげに。すると、僕が今までやってきた殺しの場面が脳内で再生された。そうそれはフラッシュバックというやつだ。


 たくさんの人、たくさんの場所で喉をかっ切るシーンが次々と脳内に流れ込む。


 あぁ……そうか……


 初めの頃は頸動脈の位置を上手く切れなかったこともあった。中には頸動脈を切って、血を吹き出しながら何かを口ずさんでいた人もいた。


 よくわかった……透明人間が何を言いたいのか……


 僕が首をかっ斬った人が言っていたこと。あの時は聞き取れなかったが、今思うと、あれは誰かの名前を言っていたのかもしれない。


 透明人間は僕の耳元で囁いた。


「お前も散々誰かの希望を奪ってきたじゃないか」


 僕の声だった。


 僕はレッドの両目を奪った者に何も言えない。僕は今まで直接的に誰かの希望だけでなく命までも奪っていたのだ。


 本を読んでから僕はたくさんの想いを胸の中で具現化してきた。この透明人間は僕の過去だ。


 僕は自分の夢や希望なんてのを見付ける資格などなかったのだ。あの時自殺したのはきっと今の僕がやったのだろうか。何にせよ僕は生きていちゃダメだと再び思ったのだ。そして僕は気を失った。


──────────────

 

 ハルはレッドの遺体をそのままにした。刑務作業をサボったことによる懲罰を免れる為に、魔法を駆使して後始末をした。


 刑務官を魔法を使って騙し、ハルとメルが刑務作業に準じていたことにしたのだ。そして今は昼休憩だ。ハルは自分の牢屋で考えた。二段ベッドの上にはメルが眠っている。


 レッドの自殺にはハルも驚いた。甦らせようかとも考えたが止めにした。一度誰かを甦らせるとそこら辺の感覚が曖昧になってしまう。それにレッドは遅かれ早かれ自殺していたのではないかと考えている。顔以外の全身がアザだらけだった。昨日は顔にもアザがあった。字を教わることにレッドは希望を見いだしていたのだろう。しかしそれを面白くないと思う奴がいたのだ。


 ──そう考えると、僕が自殺を早めたのかもしれないな……


 それと何故、メルが気を失うまでのショックを受けたのかハルは考えた。


 自我が目覚めたことにより、自分がその前に行っていた殺人を思い出したのだろうとハルは予想した。これについては、ハルも似たよう経験をしている。しかしあくまでも似たような、だ。


 ハルは自分が正義であると信じた行動、もしくは卑怯な行動をとる奴を悪だと決めつけた。そんな思想の元、自分がその悪と同じ行動をとったことに絶望したのに対して、メルは元々思想など持っていなかった。そして今全く新しい思想や価値観の元、自分の過去を否定している。


 他人の価値観や心の傷を自分の尺度に当てはめてその深度を比べるのは些か間違ってはいると思うが、メルの場合、時間で解決するのではないかとハルは考えた。このまま邪魔が入らなければ……


 と思った矢先に、


「ハルくぅーん」


 パッグウェルがハルの前に現れた。


「レッドくんがいなくなっちゃったから、今度はハルくんが俺達の相手をしておくれよー」


 レッドの件もあり、ハルは冷ややかな声で返事をする。


「いいよ」


 ハルはパッグウェルとその手下達に連れられ、備蓄庫へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ