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喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~  作者: 中島健一
聖王国編

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214/395

その213

~ハルが異世界召喚されてから10日目~


「もしかしたら、この、くそったれな、灰色の、塀の、中に?」


 レッドは自分の読みたい小説の一文に指を押し当ててゆっくりと確かめるように音読した。


「うん。合ってるよ」


 ハルはレッドの不安を払拭した。躓きながらもレッドはだいぶ読めるようになった。これはユリの件と一緒で、レッドがどのようにして理解しているのかをハルは把握していた。


 2人の様子を見ているのかメルは黙って牢屋に備え付けられている二段ベッドの上で横になっていた。


 刑務官の勇ましい足音が近付いてくる。


「373番!面会だ!!」


 刑務官がハルをそう呼ぶ。ハルは何故かその番号に愛着があった。レッドに別れを告げ、面会室へと向かった。


 ──きっとユリとソフィアだ。


 レッドは授業が中断してしまったことに少し文句を言っていたが自分の牢屋へと戻っていった。


────────────


「護衛長コバーンはただ金で雇われたに過ぎませんでした。なので海の老人のアジトや、どういう組織なのかは結局分からずじまいです」


 ユリは机に向かって、椅子に座っているソフィアを押し退けるように、前にのり出しながらハルに報告していた。その表情はハルに会えた嬉しさとハルの役に立てなかった為に落胆している二つの表情が読み取れた。


「そうか……それで?2人はこれからどうするつもり?」


 ハルが尋ねる。


「はい。これからロドリーゴ枢機卿の計らいによりフェランツァ枢機卿の暗殺現場にいくつもりです。何でも、遺体にはたくさんのナイフの傷があったようなので。何か手掛かりになるモノが見付かればと思いまして」


「そうか……わかった。また何かあったら知らせに来てくれ」


「はぁい!!」


 ユリが元気よく返事をした。ソフィアは椅子に座ってふるふると震えている。


「どうかしました?」


 ハルが尋ねると、


「一体何なのですか!?貴方達は!?海の老人とか枢機卿暗殺事件とかじゃなくて貴方達を取材したいんですけど!!」


 ハルはそれは困ると告げた。


「僕達はこの暗殺計画を企てたチェルザーレを失脚させたいだけなんです。どういうわけか彼や帝国は隣国に一斉攻撃を仕掛けずに、こういった策略を練ってはじわじわと僕達を追い込んでくる。それを僕は止めたいだけなんですよ」


「どうして止めたいの?」


「それは、僕の大切な人や国が侵略されてしまうから」


「貴方の国?」


「あぁそうでした。僕はフルートベール王国から来ました。そこにいるユリも」


「はい!」


 ユリがまた元気よく返事をする。


「じゃ、じゃあ、ロドリーゴ枢機卿を甦らさなければフルートベール王国は侵略されていたと?」


「そういうこと。ロドリーゴ枢機卿が暗殺されたことにより、チェルザーレが実権を握ります。そこは理解できますよね?」


 コクりと鉄格子越しで頷くソフィア。


「チェルザーレはその後、帝国と手を結び、フルートベール王国を攻撃します」


 ハルは説明を省略した。


「……それは難しいんじゃない?だって聖王国とフルートベール王国はそこそこ仲が良いし……むしろ聖騎士や国民達がそんなことをしようとするチェルザーレ枢機卿を許さないと思う」


 ハルは初めから省略などしなければよかったと思った。そして一から話した。


「…なるほど……ゲーガン司祭に媚薬のような薬を盛り聖女ルナ様を襲わせ、それを目撃した王国の騎士が激昂して、ゲーガン司祭を殺害した……司祭殺しによりフルートベール王国を攻め込む準備が整うわけですね……」


「この話を疑わないの?」


 ハルは首を傾けながら問いかけた。


「はい……私以外はそれを聞いて訝しむと思われますが、私は以前、ゲーガン司祭が行っている性的な懲罰を噂で聞いたことがあります。まぁ実証できずに新聞社を追い出されたんですけどね」


「やはり、貴方で良かった」


 ハルは笑顔を向ける。ソフィアは自分が取材していたことを裏付けるような証言を得られてとても嬉しかった。それに目の前の少年に感謝されるのも悪い気はしない。照れるソフィアは後ろからユリが僅かな殺気を漏らしていることに気が付いた。


 ──この娘を怒らせないようにしなきゃ……


 ソフィアは気を取り直して質問した。


「そ、それよりもそちらはどうなんですか!?海の老人メルについて何かわかりましたか?」


「いやぁ……それが全く……」


 ハルは後頭部をかきながら答えた。


「お願いしますよ!?一応海の老人についての記事も書かなくてはならないんですから!」


「わ、わかってるって……」


 ハルは面会室をあとにした。


 午後から刑務作業が待っていた。ハルとメルは手錠をしながら監獄から出され、少し移動する。


 広大な荒野についた。日照りが肌を焼く。ハル達囚人は手錠を外された。魔法が唱えられる者達は手錠ではなく、魔法封印の腕輪をはめている。


 刑務作業は柵を作る為に杭を地面に打ち込むという内容だった。ハルは打ち込む為にハンマーを選び、手に取ったが柄の悪い囚人に横取りされた。


「おいおい!これは俺のだぞ?なぁレッド?」


 囚人はハルが一度手にしたハンマーを担ぎ、近くにいたレッドの肩を組んだ。レッドは居心地が悪そうな顔をしながら柄の悪い囚人の意見を肯定する返事をした。


「あ、あぁ……」


 ハルはレッドの歩き方から察するに、肋骨に怪我をしていると判断した。


 ──僕が面会している最中か……


 また、昨日の時点でレッドの足や肩に青アザがあるのを確認していた。


 ハルは残っているボロボロのハンマーを手に取った。その時何人かの囚人達がハルを指差しながら笑っていた。ハルは構わず刑務作業に取りかかる。


 杭を地面にさして、ハンマーで打ち込む!打ち込む!


 こんなもんかと、ハルは刑務官に手を上げて質問した。


「あとはどこに打ち込めばいいですか?」


 刑務官と囚人達はあまりにも早い仕上がりに驚いていた。


「待て待て、そんなに早くできるわけ……」


 刑務官はハルが打ち込んだ杭に触れ、確認した。


「お、おう……次はあっちだ」


 ハルは指示された所に行って、また杭を打ち込んだ。するとハルの前に別の囚人が杭を持って現れた。メルだ。


 メルも指定された位置の杭を打ち終え、ハルの所までやって来た。


 ハルは杭を打つ、そしてメルの前に行って別の杭を打つ。


 メルも杭を打ち終え、ハルの前に行ってまた杭を打ち始める。


 まるで2人が杭を打ち込む早さを競っているかのような光景だった。2人の打ち込みの早さに刑務官と囚人達は口を開けて驚いていた。


「すげぇ……」


 レッドは杭を打ちながら呟いた。


 刑務作業が終了すると、ハルはメルに告げる。


「僕の方が多く打ち込んだ。だから僕の勝ちだ!」


 ふんぞり返るようにハルは言った。メルは相変わらず無表情でハルの顔を見て、そっぽを向いた。


 ハルは負けじとメルの視界に入ろうとする。


「僕の勝ち」


「……」


 メルは呆れるようにハルから離れるが、ハルがついてくる。そして正面に回られて自慢してくる。メルはまたも方向転換する。ついてくるハルを振り切ろうとするメルはとうとう走り出した。しかしハルはそれ以上のスピードを出してメルに追い付く。


「お前ら!!いつまでおいかけっこしてるんだ!!いい加減にしろ!!」


 刑務官が怒鳴った。


 それを見ていた囚人が呟く。


「おいかけっこってレベルじゃねぇぞおい!!」

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